第148話 絶賛されるトリュフを使った料理と、久々のナッシュへのハリセン攻撃
ニース近郊の山や森で採った山菜やキノコ。
更に、思いがけず収穫したトリュフを使い、私は『ステーキの山菜添え with トリュフ』を調理している。
作り方は単純。
ステーキは300gの肉に塩・胡椒で下味を付け、をミディアム・レアで焼き上げる。
薄くスライスしたトリュフをステーキの下に忍ばせて完成♪
山菜はキノコと共にバターでソテーするだけのシンプルな物。
出来上がったら、おろし金ですりおろしたトリュフを散りばめて完成♪
「「「「「……………!」」」」」
一口食べ、全員が固まる。
「味は普段通り旨いんだけど、この鼻に抜けるトリュフの香りが…!」
「エリカちゃんの言った通り、全く味を邪魔せずに香りだけが鼻腔を突き抜けて…!」
「こんな感覚、初めてです…! エリカさん、最高ですよぉ…!」
「こんなの味わったら、トリュフの無い料理が物足りなく感じるかも…!」
「こんな美味しい料理を毎日食べられるだけでも幸せだぁ…! ボク、正式に治療院の家族になるよ!」
それぞれが口々に感想を述べ合う。
食い物で家族になる事を決めるライザさん。
それで良いのか?
まぁ、本人が良いなら構わんけど…
「トリュフは私の異空間収納で保管しますから、悪くなる事はありませんね。かなりの収穫量ですから、毎日使っても春頃までは大丈夫でしょう。無くなりかけたら、またニースに行きましょう♪」
春の山菜も楽しみだしな♪
この世界でも『春の七草』なんて在るんだろうか?
在るなら、七草粥なんて作りたいなぁ♪
「ナナクサガユ? それって旨いのかい?」
「美味しいかどうかと言えば、普通ですね。胃を休める為の食事とも言われてます。ミラーナさん、今まで年末年始は王都で暴飲暴食してたでしょ? 海水浴が原因で社交シーズンが2ヶ月ズレたから、来年からは大丈夫だと思いますけど…」
「暴飲暴食って… まぁ、否定できないけど…」
適当に言っただけなんだけど、やっぱりか…
「そんな疲れた胃を休める為の食事なんですよ。胃に優しい野菜を入れたお粥… お米を多めの水で柔らかく煮た物で、そこにセリ、ナズナ、ハハコグサ、ハコベ、コオニタビラコ、カブ、ダイコンなんかを入れて作るんです。まぁ、入れる山菜… 野菜は地方によって違うみたいですし、必ず7種類入れなきゃダメって事もないみたいですけどね」
「エリカちゃんって、色んな事を知ってるのね…」
「私達と2歳しか変わらないのに、知識量が半端ないよねぇ…」
元の世界って、情報社会だったからなぁ…
この世界と違ってインターネットが普及していたから、誰でも簡単に知りたい情報を手に入れられたんだよ。
前世では気になった事はネットで調べて、知識を増やす事に夢中になってたモンだ…
今でも時々図書館に行って、気になった事は調べてるしな。
元の世界に比べて文明が遅れてるから、間違った記述も多いけど…
「それだけの知識を持っていながら、まだ勉強してるなんて… やっぱりエリカさんは凄いです♡」
恍惚とした表情を浮かべて私を見つめるアリアさん。
なんなんだ、アンタは…
「ご馳走さん♪ あ~、旨かった~♡ まだまだ食えそうだけどな♪」
…ミラーナさん、太るぞ?
「元々エリカちゃんの料理は美味しいけど、トリュフの香りが更に美味しさを引き立ててるわねぇ♡」
ミリアさん、嬉しい事を言ってくれるねぇ♡
「だったらさ… 私の料理もトリュフを使ったら、一段階上に行けるのかな?」
確かに良い香りは風味を引き立てるけど、味自体が良くなるワケじゃないからね?
モーリィさん、勘違いしないでね?
「トリュフの使い方が絶妙ですよね♪ ステーキにはスライスした物を、付け合わせの山菜ソテーにはすりおろした物を… 多過ぎず少な過ぎず、丁度良いです♡」
アリアさん…
どこかの料理評論家みたいな意見だな…
「だよねぇ♪ ボクの嗅覚じゃ、これ以上の量だと香りが強過ぎてキツかったかも」
ドラゴンだけに、ライザさんの嗅覚は鋭いからな。
次からライザさんの分は少し減らすか…
「ところでエリカちゃん。毎日使っても春頃までは大丈夫って言ってたけど、それって夕食だけでって事かい? それとも、朝食も含んでるのかい?」
「朝からトリュフの香りはキツいでしょう? 使う様な料理でもありませんし、夕食に限定してって事ですよ」
私とアリアさんは、昼食はギルドや街の食堂街で済ませてる。
ミラーナさん達も同じだろう。
たまに一緒に食べるしな。
さすがに毎食だと、2ヶ月も持つかどうか…
それに、隔月とはいえニースにばかりトリュフを採りに行ってたら、ニース近郊の山や森からトリュフを採り尽くしてしまうかも知れないしな。
「さすがにそれはマズいよなぁ… 下手すりゃ… いや、下手しなくてもニースから出禁食らっちまうな…」
トリュフの存在自体、この世界じゃ知られてないみたいだから大丈夫だと思うけどな…
「そうだ! 年末最後か年始最初の休診日は、さっき言ってた七草粥用の山菜を採りに行きませんか? 寒いでしょうから、防寒対策はしっかりしなきゃですけどね♪」
「「「「「賛成♪」」」」」
全員一致で春の七草を採りに行く事が決まった。
それにしても…
「私もだけど… なんだかんだ言って、食い意地張ってますよねぇ… 全員…」
その一言に、全員が沈黙したのだった。
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「随分、久し振りですねぇ… しっかり修行してますか? …って、してるからこんな怪我したんでしょうけどね…」
「ちょっとした怪我じゃ、治療院に来させてくれないんだよぉ~… さすがに今回のはマズいって事で来れたけどさぁ… 痛ててて…」
治療室のベッドで唸っているのは、懐かしのナッシュさん。
素行の悪さ──主に私を含めた女性に対する──からギルド職員をクビになり、接客を学ぶべく商店で丁稚奉公を続けている。
そんな彼が、2年だか3年だか…
とにかく数年振りに治療院を訪れ、私の治療を受けている。
ちなみにアリアさんとは初対面。
「この人が噂のナッシュさんって人ですか…? 確かに見た目は軽薄そうですけど、それほど危険人物とは思えませんけどねぇ…」
アリアさんは、私の後ろで治療の様子を見つめながら言う。
「騙されちゃいけませんよ? ナッシュさん、かつてはミラーナさんに言い寄ってブッ飛ばされ、私に言い寄ってハンターの兄ちゃん達に殴り倒され、あまりの素行の悪さからギルド職員をクビになった人なんですから」
「エリカちゃ~ん… それは過ぎた話だろぉ~? あれから俺も心を入れ換えて頑張ってんだからさぁ~…」
泣くなよ…
そもそも素行が悪かったのは事実だろ…
「そりゃ、素行が悪かったのは認めるよ… だからギルド職員をクビになったんだし… だけど、あれから俺も心を入れ換えて…」
「モーリィさんから聞きましたけど、商店での仕事中に女性をナンパして怒られてますよねぇ…?」
「それも過去の話だって! あれからは真面目に頑張ってんだよぉ…」
私は治療を終え、元・患部の腰をパンッと叩く。
「ハイ、これで終了です。真面目に頑張ってるのは判ります。そうでなかったら、ギックリ腰になんてなりませんからね」
ナッシュさんはベッドから起きて身体をコキコキと動かし、ドヤり顔になる。
「だろぉ? 俺だって頑張ってんだから、そろそろギルドに復帰できるかな?」
「それはマークさんに聞かないと、ですね。だけど、簡単に復帰できるとは思えませんよねぇ… なにしろ、今までが今までですからねぇ…」
「エリカちゃ~ん…」
泣くな、情けない。
「…ところでさ、アリアちゃんって言ったっけ? エルフで、エリカちゃんの弟子なんだって? 良かったら俺と付き合っ…」
「そのナンパ癖を改めんかいっ!」
「お断りしますっ!」
すぱぱぁああああああんっ!!!!
私とアリアさんのダブル・ハリセンがナッシュさんの顔面に炸裂し、ナッシュさんは失神したまま治療院の裏口に放り出されたのだった。
相変わらずだな、この腐れボケ…