第147話 遅過ぎる夕食は、グダグダな会話と共に…
なんとかロザミアに帰り着いた私達。
道中いろいろありました…
殆どはライザさんの方向音痴に端を発してるんだけど…
とにかく方向の間違いが多いんだよ…
何度修正したか、数え切れんわ!
夕方に帰り着く筈が、22時を過ぎてんだから…
「結構、遅くなっちゃいましたね… お腹も空いたし… 夕飯はギルドの食堂で済ませませんか?」
治療院に向かって歩きながら、私は皆に聞いてみる。
「そうだなぁ… 治療院に帰って作ってたんじゃ、遅くなるしな…」
ミラーナさんは、疲れた様子で私に同意する。
「私も賛成~… お腹空いたよぉ~…」
「私もお腹ペコペコだし… 今から料理する元気、無いわねぇ…」
モーリィさんに続き、ミリアさんも同意の様だ。
「私も… 限界が近いです… 何でも良いから、早く食べたいです…」
アリアさんはヘロヘロで、ダウン寸前って感じだな…
「ボクも賛成♪ 何を食べようかな~?」
1人、元気なライザさん。
何故だ…
「あれだけ迷いまくって飛び続けてたのに、なんでそんなに元気なんですか…?」
「ボク、迷うのは慣れてるからね♪ 飲まず食わずで半日彷徨うなんて、しょっちゅうだったから♪ 3日間飲まず食わずで彷徨い続けた時は、さすがにブッ倒れたけどね♡」
いや…
♡ぢゃねぇし…
そもそも、何の自慢にもならんわ。
私はギルドのドアを開けて中に入る。
さすがに遅い時間なので、食堂は酒場と化していた。
「よぉ~、エリカちゃん♪ こんな時間に珍しいじゃねぇか♪」
「今日は見掛けなかったけど、何処か出掛けてたのかい?」
「えぇ、まぁ… ちょっとニースまで山菜狩りに行ってまして…」
言いつつ席に私達は座る。
どよめく食堂内。
「ニース!? 結構、遠いぜ!? 1日で往復なんて無理だろ!?」
「いやいや。ライザちゃん、ドラゴンなんだろ? だったら飛んで行けば早いんじゃねぇか?」
方向音痴さえ無ければね…
ミラーナさん達は疲れ過ぎてるのか無言。
まだ馴染んでいないライザさんは、何も考えずにニコニコしてるだけ(だと思う)。
「一緒に入ってきたのに、なんで皆エリカちゃんにばっかり話し掛けるんだよ…」
「私達なんて、元・ギルド職員なのに…」
「そんなに影、薄かったのかな…」
「私だって、毎日エリカさんと一緒に働いてるのに…」
私ばっかりが声を掛けられる事に落ち込んでて無言だったんかい。
私はハンターの兄ちゃん達にソッと目配せする。
「と… ところでミラーナさん、良い山菜は採れたんですかい?」
「ア… アリアちゃんはエルフだから山菜には詳しいのかな? 詳しいんだったら、教えてくれねぇかな?」
目配せに気付いた兄ちゃん達は、私以外に話し掛ける。
ちょっとぎこちないけど…
「ミリアとモーリィは大変だよなぁ。26歳で最年長だから、皆の面倒…」
余計な事、言うなよ…
「「最年長ぢゃないわぁあああああっ!」」
すぱぱぁああああああああんっ!!!!
「ぶべっ!」
顔面に左右からハリセンを食らったハンターの兄ちゃんは、変な声を出してダウンする。
やっぱりな…
「あらら… 大丈夫ですか? ちなみにミリアさんとモーリィさん、ミラーナさんの次に若いんですよねぇ…」
私はしゃがみ込み、ダウンした兄ちゃんの顔を覗きながら言う。
「そ… そうなのかい…? いや… そう言えばエリカちゃん、ロザミアに来た時… 24歳だっけ…?」
「思い出しました? ですから私、ミリアさんやモーリィさんより2歳上なんですよ?」
そう私が言うと、ハンターの兄ちゃん達は一斉に…
「「「忘れてたよ…」」」
をいっ!
「だってなぁ…」
「あぁ… エリカちゃん不老不死だから、見た目が10歳程度のままだもんなぁ…」
「エリカちゃん、永遠の10歳だからなぁ…」
その言葉にムッとした表情を浮かべるミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんの3人。
「アタシだって、不老不死で17歳のままなんだけどな…」
「私だって、永遠の24歳なのに…」
「私も24歳のままなんだけどねぇ…」
見た目はな…
不老不死だから見た目は変わらないけど、年齢だけは重ねるからなぁ…
まぁ、何十年も何百年も経ったら、誰も何も思わないだろうけど…
私がチラッと見ると、アリアさんやライザさんも同じ事を思った様で…
私は2人に向かって頷く。
「ボクが治療院では最年長なんですよねぇ♪ ちなみに346歳で~す♪」
「その次が私ですね。ちなみに158歳です♪」
ザワつくギルドの食堂内。
「エルフやドラゴンが長寿なのは知ってたけど…」
「見た目はエリカちゃんより少し歳上って感じなのに…」
肩を落とすハンターの兄ちゃん達。
まぁ、私の時も似た様な反応だったかな?
今じゃ誰も気にしてないみたいだけど…
「でもまぁ…」
「だよなぁ…」
「「「見た目が可愛ければ良し!!!!」」」
ハモって何を言ってんだ、テメーら…
「さすがにミラーナさんは、身分が違い過ぎるから対象外だけどな…」
それ以前にミラーナさんは、自分より弱い男は対象外だけどな…
「おいおいロバート… お前がアタシを対象外って言える立場か? ホブゴブリン5体程度に負けるヤローなんざ、こっちからお断りだってんだよ♪」
言われて落ち込むロバートさん。
いや、熟練ハンターでもホブゴブリンを相手にするのは、1人で2~3体が限界だろ…
ロバートさん、4体ぐらいなら倒せる実力の持ち主だぞ?
「私だってホブゴブリンなら、なんとか5~6体は倒せるわよねぇ…」
「だね♪ ミリアと私と組んだら、15体前後は余裕だよねぇ♪」
追い討ち掛けるなよ…
ロバートさん、泣いてるぞ?
てか、28歳にもなって泣くなよ…
「ロバートさんって、確かエリカさんと同い歳なんですよねぇ… ハンターとしての実力もあるし、なんで未だに独身なんですか?」
アリアさん…
言ってやるなよ…
「「顔と体型が原因…」」
ミリアさん、モーリィさん…
それは禁句だと思うぞ…?
いやまぁ、確かにロバートさんはイケメンとは言い難いし、体型もゴツいと言うよりポッテリだけど…
性格は穏やかだし、面倒見も良いし、ハンター引退後はギルドで重宝されると思うんだけどな。
ギルドマスターには向いてないかも知れないけど、補佐としてなら有能な逸材なんじゃないかな?
「皆さん、見た目ばかり気にしてるんですか? 見た目より中身だと思うんですけどねぇ…」
「アリアさんの言う通りだと思いますよ? 見た目だけで選んで結婚して… 結局、失敗した事に気付いて離婚するカップルって、意外に多いですからねぇ…」
呆れ顔で話す私。
ミリアさんとモーリィさんは、ピキッという擬音でも付けた方が似合いそうな表情で固まっていた。
「私も結婚するなら、優しくて思い遣りのある男性が良いですねぇ… そりゃ、見た目はハンサムで細マッチョな方が良いんでしょうけど… そんなのは魔法で簡単に変えられますからねぇ…」
ボソッと言うアリアさん。
だよなぁ…
でも、私達は全員が不老不死。
結婚して子孫を残す必然性が無い。
夫も子供も不老不死にしない限り、私達を残して先に死ぬ。
不老不死にする必然性も無いしな。
「…で? 食事を注文するのかい? しないのかい? さっさと注文しないと、そろそろオーダーを締め切るよ?」
いつの間にやら23時を迎えようとしており、私達は慌てて夕食──遅過ぎる──を注文したのだった。