第146話 ニース近郊での山菜狩りは、思わぬ収穫がありました♡
無事、私達はニースに到着した。
…とは言えない──主に私──が、とにかく山菜狩りをすべくニース近郊の山へと向かう。
山の裾野は大きく広がっており、小さな森がいくつも点在している。
こりゃ山の中だけでなく、森の中にも入って行かなきゃ!
そして私は森へと分け入り…
「うぉおおおおっ! タケノコぉおおおおっ! こっちには栗ぃいいいいっ! こ… これはナメコっ! 舞茸もぉおおおおっ! こっちには椎茸ぇえええええええっ!」
「エ… エリカさん! 落ち着いて下さい! 目の色が変わってます! 変わり過ぎです!」
アリアさんの制止も聞かず、私は夢中になってキノコや山菜を採りまくる。
「…やっぱ、食い意地が張ってんな…」
「「ですよねぇ~…」」
ミラーナさんの呆れた様な呟きと、それに同意するミリアさんとモーリィさん。
放っといてくれっ!
これだけの山や森の幸っ!
見逃せるかぁあああっ!
「エリカさん、ストップ! ストップです! 山菜は全部採っちゃダメです! 少しは残しておかないと!」
アリアさんが私を羽交い締めにしてストップを掛ける。
いかん!
つい我を忘れて採り尽くすトコだった…
さすがはエルフ、森に関しては冷静だ。
いや、アリアさんは常に冷静だったかな?
とにかく、山菜を採り尽くしてはいけないってのは、山菜狩りの定石だ。
採り尽くしては、その後に山菜が生えなくなってしまう。
全部は採らずに少し残しておく。
このルールを守らないヤツに、山菜狩りをする資格は無いと言っても過言ではない。
もう少しでルール違反をするトコだったけどな…
「と… とりあえず、他も探してみましょう? この辺りには、もう無さそうですし…」
「ですねぇ… じゃ、次は向こうの森を散策しましょうか。違うキノコなんかが生えてるかも知れませんし♪」
アリアさんの意見に同意し、山道を挟んで反対側の森へ移動。
そして周りを見渡すと…
「うぉおおおおっ! こっちの森には松茸がぁあああああっ! エノキタケもあるぅうううっ! こ… これはキクラゲっ! シメジに平茸もっ! ニースは食材の宝庫やぁあああああっ!」
「エ… エリカさんっ! 落ち着いてっ! 落ち着いて下さいっ! 野生の本能が剥き出しですっ!」
これが落ち着いていられるかぁあああああっ!
秋の味覚がてんこ盛りっ!
これなら春も来なきゃ嘘だろっ!
春はヨモギに土筆、ワラビにゼンマイに…
あぁあああああっ!
ドラゴンのライザさんと出会って良かったぁあああああっ!
「やっぱ、食い意地が張ってんだな…」
「「ですよねぇ…」」
さっきと似た様な会話が聞こえる…
それにしても…
ニースに着いてから、ライザさんが何も喋らないのが気になる…
私はライザさんの姿を探し…
……………………………………………
「寝るなぁあああああっ!」
すぱぁあああああああんっ!
「あ痛ぁあああっ!」
ドラゴンの姿のまま、スヤスヤ寝ているライザさんの顔面にハリセンが炸裂する。
「ニースまで私達5人を乗せて飛んだから疲れてるかも知れませんが、お気楽に寝てるんじゃありませんっ! ドラゴンなら嗅覚は優れてるでしょっ!? その嗅覚でトリュフの1個でも見付けてみんかいっ!」
私はライザさんの角を掴んで睨み付ける。
「と… とりゅふ? …って何? てかボク、寝てたの?」
自覚してないんかい。
私はホワホワ~っと人間形態になるライザさんの胸ぐらをガシッと掴み…
「寝てんぢゃねぇって事ですよ! さぁ、さっさとドラゴンの嗅覚を活かしてトリュフの1個でも見付けんかいっ!」
「エリカさん… 目が血走ってます…」
苦笑するアリアさん。
だが、それは仕方無い事。
こちらの森にはナラ属やブナ属、マツ属等の樹木が多くてトリュフが採れる可能性が高いのだ。
トリュフは〝キッチンのダイヤモンド〟とも称され、高級料理に使われている事は誰でも知っているだろう。
…異世界で使われてるかは知らんけど。
「「「キッチンのダイヤモンド!? 高級料理!?」」」
クワッと目を見開いて私を見るミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん。
ミリアさんやモーリィさんはともかく、王族のミラーナさんもトリュフを知らんのかい。
私は簡単にトリュフの事を説明する。
トリュフは大まかに白と黒に分けられる。
地中に埋まっている為、発見し採集するのは容易ではない。
そこで、豚や犬の嗅覚を利用する手法がとられる。
ただし、豚は発見したトリュフを食べてしまう事もある。
犬も嗅覚を活かしてトリュフを探すことができる。
ただし訓練が必要であり、調教には時間とコストが掛かる。
トリュフは高価でもあり、特有の香りが主となる為、大量に料理に用いることはまず無い。
白トリュフの香りは刺激が強く、ガソリンや漏れたガスの臭いと形容される事がある。
黒トリュフの香りは白トリュフより遥かに刺激が少なく、新鮮な土あるいはマッシュルームを思わせるようなモノで、新鮮な時にはその香りはすぐに部屋いっぱいになる。
等々…
まぁ、ガソリンや漏れたガスの臭いなんて言っても通じないから、単に『キツい刺激臭』としか言えなかったけど。
「香りを楽しむのが目的の食材かい? なら、味は…」
「味? トリュフは無味に近いですね。強いて言えば、生のマッシュルームの様な味とか、生のジャガイモをスライスした味とか、椎茸の後味に似ているとか言われます。まぁ、ミラーナさんが言った様に、香りを楽しむのが目的の食材ですね」
ミラーナさんは呆れた様な表情になる。
「味が無いんじゃ、旨くなさそうだなぁ… そんなのが高級料理に使われるって…」
「味が無い事もメリットですよ? 他の食材の味を邪魔しないって事ですからね♪ 味を邪魔せず、尚且つ香りで引き立てる。良い事じゃないですか♪」
「さぁ、ライザちゃん! 頑張ってトリュフを探してくれっ!」
現金なヤツ…
ライザさんは目を閉じて意識を集中する。
クンクンと辺りの匂いを嗅ぐ。
そして…
「なんか、あっちの方から良い香りが漂ってくる…」
言いつつ、その方向へスタスタと歩を進めていく。
「だんだん香りが強くなる… もう少し… もう少し…」
がごんっ!
「あ痛ぁっ!」
木の幹に顔面をぶつけ、踞るライザさん。
おいおい…
「痛ててて… 匂いに集中し過ぎて目を開けるの忘れてた… って… なんか、やけに匂いが強いな、ここ…」
「何やってんですか… って、匂いが強い?」
私はライザさんがぶつかった木の根元を魔法で慎重に掘る。
すると…
「トぉ~リュぅ~フぅうううっ! ついに見付けたぁあああああっ!」
私は採取したトリュフをミラーナさんに手渡し、更に採取を続ける。
「これがトリュフかぁ… 黒くて何だか歪な形だな…」
「でも、確かに香りは凄く良いですね。どうやって料理に使うのかは分かりませんけど…」
「でも、使う料理を選びそうな感じもするよねぇ… 何でもかんでも使えば良いって香りじゃないかも…」
口々に感想を言うミラーナさん達。
白トリュフは生のまま削って振りかけて供されることが多い。
紙のように薄く削った白または黒トリュフは、肉やローストした鶏の皮の下に忍ばされたり、フォアグラやパテに挟みこまれるほか、詰め物に加えられたりする。
私の作る料理なら、おろし器で削ってパスタやサラダなんかに振りかけたり、薄くスライスしてステーキなんかに使えば良いかな?
そんな事を話しながらも私はライザさんとトリュフ採取を続け、最終的に黒が全体の95%以上を占めた。
白トリュフの収穫量は5%にも満たなかったが、そもそも白は元の世界でも黒に比べて産地が限られ生産量も少ないんだから、採れただけでも重畳だろう。
思わず口にしたトリュフだったが、まさかの収穫量に私の表情は崩れっ放し。
その日の昼食は採れたキノコ類や山菜の網焼きに醤油を掛けただけのシンプルなモノだったが、あまりの美味しさに全員の表情が崩れていた。
「さぁ! 今日の夕食は、私が腕に縒りを掛けて作ります! 残った山菜とトリュフを使って、豪勢にいきますよ~!」
「「「「「おぉ~っ!」」」」」
全員が笑顔で応じ、拳を突き上げる。
ライザさんはドラゴンの姿になり、私達は背中に乗る。
「ではライザさん! ロザミアに帰りましょう! 南へ向かって下さい♪」
「了解♪」
そしてライザさんはフワリと浮き上がり…
「そっちは東だ、バカたれぇえええええええっ!」
すぱぁあああああんっ!
これ、無事に帰れるんだろうか…?