第145話 秋の行楽に出発♪ だけど、ハリセンを使う場所は地上に限ります…
ホプキンス治療院の全員が不老不死になり、永遠に楽しく過ごせると思う反面、私の苦労が増えるのではないかと一抹の不安も感じている。
だが治療院の全員が揃った今、そんな事を気にしている場合ではないのだ!
ホプキンス治療院の一大イベント、秋の行楽を実行しなければならない!
大袈裟ですね、そうですね。
とにかく明日は待ちに待った休診日!
ミラーナさんが王都に行ってる間に考えていた計画を実行しなければ!
そして夕食の席、私が代表として話を切り出す。
「…てなワケで、秋の行楽としてニース近郊の山で山菜狩りなんかどうですか? ロザミア周辺では、ニュールンブリンクの大森林とか東の森林で採れる山菜なんかは流通してますけど、ニース近郊の山々で採れる山菜なんかは食べる機会も無いですからね」
「私は賛成! あそこの山菜、美味しいんだよねぇ♪ ロザミアでは採れないモノも多いし♪」
「私も賛成♡ 以前ニースに寄った時に、宿屋で食べた山菜の肉野菜炒めが美味しかったのを思い出したわ♪ 山菜を買って帰って調理して… 食べたら意識が飛んだのも、今となっては良い思い出よね♪」
そんな思い出は要らんだろ!
てか、余計な事を思い出させるなよ!
私も特訓に付き合った所為で、何十回も意識を飛ばしたんだからな!
「ミリアさんが料理下手だった過去は置いといて、皆さん賛成って事で良いですね?」
「アタシは勿論、賛成するよ♪ いつもニースは素通りだからね♪」
「私も賛成です♪ ロザミアに来る前に、ニースの宿屋で食べたキノコ料理が美味しかったんですよぉ♡」
それを聞いたら行くしかない!
何がなんでも行くしかない!
「明日は朝食が終わったら、すぐに出発しますよ! 夕食後は全員、明日の準備に取り掛かって下さい!」
「「分かりました♪」」
元気に返事するアリアさんとライザさん。
「エリカちゃん、気合い入り過ぎなんじゃ…」
「食い意地が張ってんだよ… チュリジナム戦の時のフライドポテトと唐揚げで立証済みだし…」
「あぁ… そう言われてみれば、凄い執着心だったわよねぇ…」
放っといてくれ。
美味しいモノを食べずして何が人生だってんだ。
「採れたての新鮮な山菜で作った料理、食べたくありませんか? その場で調理して食べるのも良いですよねぇ~♪ 早く行けば、美味しいモノを『もう食べられませ~ん』ってぐらい食べられるんですけど…?」
「急いで食べ終えて準備に掛かろう!」
「「おぉ~っ!!!!」」
ミラーナさんの鼓舞に反応するミリアさんとモーリィさん。
お前等も食い意地が張ってるぢゃねぇか…
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「絶好の行楽日和になりましたね♪」
「ホント、気持ち良い朝ですね♪」
明けて休診日は見事な秋晴れ。
朝食を終えた私達は、街の外まで歩きながら会話する。
「こんな日は飛ぶのが楽しいんだよねぇ♪ ところで、飛ぶ速さはどうするの?」
飛ぶ速さか…
ちょっと嫌な予感がするな。
「ちなみにですけど、最高速だとニースまで何時間ぐらいですか?」
ライザさんは少し考え…
「ん~… 距離的には30分ちょっとってトコかな? でも、それは止めといた方が良いと思う。多分だけど、掴まってられなくて振り落とされるかも…」
「なら、それは却下で!」
振り落とされる様な速さで飛ばれたら、こっちの身が持たんわ!
「じゃ、3時間ぐらいの速さなら? それなら振り落とされる事はないだろうし」
「ん~… それなら昼前に着くから丁度良いですかね?」
「じゃ、それで決まりだね♪ ところでニースって、どの方角なの? ボク、方向音痴だから案内ヨロシクね♪」
壊滅的な方向音痴だったな、こいつ…
でもまぁ、ロザミアから北へ真っ直ぐだから、迷う事は無いだろうけどな。
「なんだ、それならボクでも迷わないね♪ 大船に乗った気でいてよ♪」
そんな事を話してる内に、街の外へ出る門に到着。
門番の人に挨拶して外に出る。
少し歩いて人目に付かない場所まで行く。
そして…
「じゃ、ドラゴンの姿に戻るね♪」
言うとライザさんの姿がブレ始め…
身長5mを超えるドラゴンが出現した。
「…ライザさ~ん♪」
私はライザさんに向けて、指をクイックイッと動かす。
「エリカちゃん、何?」
すぱぁああああああんっ!!!!
「あ痛ぁっ!」
頭部を近付けてきたライザさんにハリセン──対ミラーナ仕様──が炸裂する。
そして…
ごすっ!
私は地面に倒れたドラゴン──ライザさん──の頭を踏みつけ、ニッコリ笑って言う。
「ライザさん、確か私に言いましたよねぇ? 『ドラゴンの大きさも知らないで』って。もし、治療院の中でドラゴンの姿に戻ってたら、どうなりましたかねぇ?」
「あ… 治療院が壊れて… 金貨300枚… 弁償…?」
金貨300枚で済めば良いけどな。
「最低金額ですけどね♪ 払えますか? …払えませんよね? 何か言いたい事は?」
「白…」
は?
「パンツ、見えてる…」
「何処を見とるんぢゃぁあああっ!」
べしぃいいいいいいっ!
更に炸裂するハリセン。
「これ… 出発できるのかな…?」
「まぁ、この程度なら大丈夫じゃないかしら…?」
「対ライザちゃん仕様のハリセンを使ってないトコを見ると、キレてるって事は無さそうだけどな…」
「エリカさんも、一応は手加減してるみたいですね… 手加減してなかったら、ミラーナさん仕様のハリセンでもライザさんの頭が地面にめり込んでたでしょうし…」
いろいろ言ってくれてるが、聞こえないフリをして私はライザさんの背中に乗る。
「ホラ、出発しますよ! 皆さんも早く乗って下さい!」
4人は苦笑いしながらライザさんの背中に乗る。
「それじゃ、ライザさん! 北へ向かって真っ直ぐ飛んで下さい!」
「はぁ~い…」
気の無い返事をし、ライザさんはフワリと浮かび上がる。
そして…
「そっちは東でしょうが! バカたれぇっ!」
べちぃいいいいいいいんっ!!!!
ぼてっ
2~3m浮き上がったライザさんが向かおうとしたのは東。
北って言ったろうが。
並の方向音痴じゃないな、こいつ…
いや、壊滅的な方向音痴なのは判ってたけど、あまりにも酷過ぎだろ…
「私が北を指差してるのに、なんで東に向かうんですかっ! 方向音痴を自覚してるんなら、少しは私の指示を見て下さいっ!」
これ、本当にニースに行けるんだろうな?
凄え不安なんだけど…
とにかく私はライザさんの頭のすぐ後ろに乗り、逐一方向修正しながらニースまで案内したのだった。
【追記】
上空でハリセンを使われては危険だからと、私の持っているハリセンは全てアリアさんが預かる事になりました。
その理由は…
飛行中、ライザさんが何を思ったのかアクロバット飛行をしようとしたのをハリセンで阻止し、もう少しで墜落しそうになったからです。
勿論、ニースに着いた途端、私は全員からハリセンでドツき倒されました…