第144話 治療院の家族は全員不老不死にします! 勿論、不安はありますが!
1日の診療が終わった後、私はライザさんに頼まれてハリセンの作り方を教えている。
何をやってんだ、私は…
まぁ、ライザさんのドラゴンとしてのパワーを考えると、好き勝手に作られては危険かも知れないからなんだけど…
とにかくドラゴンのパワーでも壊れない頑丈さを持ち、なおかつ食らった側のダメージを抑えると言う、相反する仕様を併せ持つハリセンを作る。
そんな矛盾したモン、魔法を使わないで作るのは不可能だろ…
とりあえず改良型ナッシュ仕様ハリセンMARKⅡをベースに作り、私が魔法を掛けて相手に伝わる威力を抑え込む事で完成させた。
「これがボク専用のハリセンかぁ♪ でも、使う機会なんてあるのかな? 治療院の中じゃ、ボクが一番下っ端だし、ミラーナさんは王族だし…」
言いつつ考え込むライザさん。
何も気にしなくて良いんだけどね。
「まだ正式にじゃありませんけど、もうライザさんは私達の家族ですよ♪ 家族に上も下もありません♪ ミラーナさんも、ロザミアに居る間… と言うか、王都を出た瞬間から一介のハンターに過ぎないって、自身で言ってますからね♪ 変な事を言ったりしたら、遠慮無く叩き込んであげて下さい♡」
「何を物騒な事、言ってんだよ…」
眉をしかめてミラーナさんがリビングに入ってくる。
後ろに続くミリアさんとモーリィさんは苦笑い。
「あはっ♪ 聞こえちゃいました?」
「…ったく… 『聞こえちゃいました?』じゃないよ… アタシの事を平気でポンポン叩けるのなんて、エリカちゃんぐらいのモンだよ。まぁ、何発かアリアちゃんにも食らわされてるけどな」
この中で一番ハリセンの犠牲になってるのはミラーナさんだなぁ…
次に私かな?
ミリアさんやアリアさんは変な言動が無いからか、ただの1発も食らってないな。
…いや、2人共に1発食らってるか…
ミリアさんはチュリジナム皇国との戦争の後、ミラーナさんが私を王都に拉致するのを手伝った時に、モーリィさんと共に食らわせてやったっけ。
まぁ、ミラーナさんに言われての事だから、ミリアさん自身の起こした行動では食らってないけどな。
アリアさんはハングリル王国との戦争から帰った時、魔法医として充分やっていけると判断して、頑張ったご褒美にキスをしたんだけど…
その時に私をレズだと言い掛けたから叩いたっけな。
理不尽な1発だったかも知れない…
「モーリィさんも、何発かエリカさんに食らわされてますねぇ…」
出来上がった夕食をテーブルに並べながら、アリアさんも会話に参加する。
「モーリィさんは天然ですからねぇ… 意識しないで変な言動や行動するんですよ」
「そ… そうかなぁ…」
モーリィさんは椅子に座りながら首を傾げ、身に覚えが無いといった様子。
少しは自覚しろよ…
「モーリィって、無意識で変な事をしたり言ったりするのよねぇ。だから自分では気付かないのよ」
「そうなの!? てかミリア、知ってたなら教えてよぉ~!」
だから少しは自覚しろってんだよ!
「そんなだからハリセンを食らうんですよ。ミラーナさんも似た様なモンですけどね」
「王宮育ちで世間の事なんて知らないんだから仕方無いじゃん。それにさ、アタシがこの中で一番歳下なんだし」
言われてみれば確かに…
態度や言動から忘れがちだが、20歳のミラーナさんが一番若いんだよなぁ…
「私も忘れてたわね… 身分の違いから敬語で話してるモンで、自分の方が歳上って思えないのよねぇ…」
「そうそう。逆にエリカちゃんは見た目が8~10歳ぐらいだし、敬語で話してくるから歳下って思っちゃうんだよねぇ。アリアちゃんもだけど…」
食事の手を止め、考え込むライザさん。
そして…
「ボクが一番歳上って事で良いのかな…? アリアちゃんはエルフだけど、見た目がボクより若いから歳下なんだろうし…」
「あ… 私、正確には158歳ですんで、ライザさんより歳下ですよ? エリカさんは28歳で、ミリアさんとモーリィさんは26歳ですね♪」
アリアさん、歳の事は言ってやるなよ…
この世界の人間は、遅くても25歳で結婚してんだよ?
それが26歳で、彼氏も居ないハンターってなると…
「そうよ… 私、26歳になっちゃったの… 婚期、逃しちゃったのかな…」
「26歳から上ってさ、何故か引かれるんだよね… 何でだろ、25歳と1つしか変わらないのにさ…」
2人の目から川の様に涙が流れる。
「に… 人間って大変なんだね… でも、大丈夫じゃない? ボクなんて346歳なんだけど、結婚なんて考えてもいないしさ。だから婚活すらしてないんだよね♪」
ドラゴンと一緒にするなよ…
てか、ドラゴンって何歳ぐらいで結婚するんだ?
以前、エルフに関しては早くても300歳超え、遅くても600歳ぐらいってアリアさんから聞いてるけど…
「ドラゴンもエルフと似た様なモンじゃないかな? どっちも同じぐらい長寿の種族だからねぇ」
「結婚の話は置いとくとして、年齢順で考えると… 最年長はライザさんで、次は私なんですね。まぁ、これは長寿の種族なんで仕方無い事ですけど、その次がエリカさんなんですね。見た目は最年少ですけど… で、次が同い歳のミリアさんとモーリィさん。誕生日の関係で、どちらかが一応の年長者になるんでしょうけど… それはさておき、ミラーナさんが最年少なんですね…」
「あぁ、モーリィは6月18日で私が10月9日だから、少しだけモーリィが歳上なのよ」
「だから、たま~に『私の方が若い』ってミリアがドヤるのよねぇ。大して変わらないじゃん」
態度はミラーナさんが一番デカいけどな…
それにしてもギャップが凄いな…
① ライザ・・・・346歳
② アリア・・・・158歳
③ エリカ・・・・28歳
④ モーリィ・・・26歳
⑤ ミリア・・・・26歳(約4ヶ月差)
⑥ ミラーナ・・・20歳
①と②、②と③の開きが大き過ぎるだろ…
まぁ、ライザさんとアリアさんは別として、③~⑥の4人は不老不死なんだから歳なんて関係無いと思うんだけどな…
てか、全員が不老不死になったら、年齢差なんて有って無い様なモンだけどね。
ライザさんとアリアさんを不老不死にしたら面白いか?
いや、そもそも千年以上生きる長寿の種族だから、何とも思わないかも知れないな。
私個人としては、この人達と永遠に過ごせたらと思う。
性格を完全に理解したとは言い難いが、ライザさんも良い人なのは間違い無さそうだし。
「アリアさん、ライザさん。不老不死になって、ず~っと一緒に私と生活しませんか? 今すぐ答えを出す必要はありません。じっくり考えてみて下さい。ケンカする事もあるでしょうけど、それも含めて本当の家族になりませんか? 勿論、お2人の考えは尊重しますけど…」
「私は尊敬するエリカさんと、ず~っと一緒に居たいです! ですから不老不死にして貰えるんなら、不老不死になりたいです!」
少しは考えたか?
なんか、脊髄反射で言ってる様な気がするぞ?
「不老不死か… そうなったら迷子になっても、飢餓とかで死ぬ心配無しに放浪出来るのかな…?」
迷子になる前提かい。
少しは迷子にならない様な努力しろよ…
ともあれ私はアリアさんとライザさんに不老不死になる魔法を掛け、晴れてホプキンス治療院の全員が不老不死になったのだった。
アリアさんはともかく、ライザさんを不老不死にしたのは間違いだったのではないかと一抹の不安に襲われたのは言うまでもない。




