第143話 ハリセンはホプキンス治療院のコミュニケーション・ツール♪ なのか…?
「ただいま~… って、誰!?」
帰ってくるなり、ライザさんを見て驚きの声を上げるミラーナさん。
「お帰りなさい♪ 彼女の事は後で紹介します。もうすぐ夕食が出来ますから、座って待ってて下さいね♪」
言われてミラーナさんは、ライザさんと向かい合って座る。
互いにキョトンとした表情。
ミラーナさんは『誰なんだろう?』、ライザさんは『時々名前を聞くミラーナって人か』とでも思ってそうだな。
そして私達は完成した夕飯をダイニングテーブルへと運び、食事の前にライザさんをミラーナさんに紹介する。
「こちら、ライザさんと言いまして、まだ正式にとは言えませんけど同居人になりました。ライザさん、自己紹介を」
ライザさんはコクリと頷き立ち上がる。
「初めまして♪ ボクの名はライザ、こう見えて実はドラゴンなんだ♪ キミがミラーナさんだね? 皆から話は聞いてるよ♪ この街が気に入ったら、正式に同居させて貰う予定なんでヨロシク♡」
言って彼女は手を差し出す。
ミラーナさんも立ち上がり、ライザさんの手を握る。
「どんな話を聞かされたのかは後で教えて貰うとして… アタシがそのミラーナ・フェルゼンだ。こちらこそヨロシク♪」
「えっ…? フェルゼン…? まさかと思うけど、イルモア王国の…?」
姓をを聞いて気付いたんだろうな。
ミラーナさんが王女だって事に。
全く王女様らしくないけど…
「し… 失礼いたしました! ボクの事は犬とお呼び下さいっ!」
卑屈になり過ぎだろ…
目を点にして呆れるミラーナさん。
「普通に接してくれよ… ここに居る皆… いや、ロザミアの住人は全員、普通に接してくれてるんだしさ… まぁ、敬語だけは直してくれないけど…」
「了解しました! じゃ、ボクも普通に接しますね! ヨロシク、ミラーナさん♪」
卑屈になったり、フランクになったり…
なんなんだ、アンタは…
私達は夕食を食べながら話を続ける。
「ライザさん… 周囲からいい加減な性格とか言われませんでした?」
「ん~… 家族からは、しょっちゅう言われてたかなぁ…? あ、友達からも言われてたっけ… あれっ? 考えたら、ボクを知ってるドラゴン全員から言われてた様な…」
全員から言われてたんかい!
まぁ、あれだけ規格外の方向音痴なんだから、いい加減な性格なのは間違い無いだろうけど…
いや、いい加減過ぎだろ…
治療院の正面に見えているギルドへ行くのでさえ迷うんだからな…
「えぇと、見た目的にはライザちゃん… かな…? ドラゴンだっけ? アタシ、ドラゴンって見た事が無いんだよね。だから…」
「だからって、治療院で見せて欲しいとは言わないで下さいよ? ボク、モーリィさんに言われて見せようとして、エリカちゃんにブッ飛ばされちゃったんだから…」
ライザさんの一言に、ミラーナさんの頬を一筋の汗が伝う。
ミラーナさんは確認するかの様に、モーリィさんに視線を向ける。
その意図を察したのか、コクリと頷くモーリィさん。
続けてミリアさん、アリアさんにも視線を向ける。
やはり頷く2人。
そして、ギギィ~っと私の方を見るミラーナさんの目の前には、対ライザさん仕様の最新型ハリセン。
「良かったですね、思い止まって♪ もし最後まで言ってたら、一発食らってましたよ?」
ダラダラ汗を流しながら私を凝視するミラーナさん。
「えぇ~っとぉ… ちなみにだけど、そのハリセンの威力って…」
「これはライザさん仕様に開発した新型で、ミラーナさん仕様ハリセンの10倍です♡」
「サラッと言うなぁあああああっ!!!! そんなモンでアタシを叩き飛ばそうとしてたのかよっ!!!!」
異空間収納にハリセンを仕舞い込み、私はニッコリと微笑む。
「まぁ、これで叩き飛ばされたら… どうなってたでしょうねぇ? ドラゴンのライザさんでも、吹っ飛んで壁にめり込んでましたけど♪」
言って私はミラーナさんの後ろを指差す。
そこには先日ライザさんがめり込んだ痕跡の人型がクッキリと残っていた。
「ドラゴン相手に、あの威力かよ… こんなのアタシが食らったら…」
再びギギィ~っと私の方を見るミラーナさん。
「最悪、壁をブチ破って外に飛び出すかも…」
「死ぬだろぉおおおおおおっ!!!!」
ミラーナさんは涙目になって叫ぶが…
「いや、死なないでしょ。ミラーナさん、不老不死なんだから…」
私は極めて冷静に真実を口にする。
「死ななくてもダメージが大きいだろぉっ! 壁をブチ破るなら、骨折するかも知れないじゃんか!」
「その時はまぁ、私が治しますから♪」
「治せば良いってモンじゃないよっ! そんな物騒なモン、アタシに使わないでくれって言ってんのっ!」
だったら私に使わせない様にすれば良いだけなんじゃ…
いつもハリセンでドツかれる原因を作ってるのはミラーナさん本人なんだから…
たまに私も同じ様な事を言ったりして、ミラーナさん達からハリセンでドツかれてるけど…
「アリアちゃん… あのハリセンってヤツ、皆が持ってんの?」
「私はエリカさんから1本譲り受けましたけど、他の皆さんは自作してるみたいですね。ちなみに一番のコレクターはエリカさんで、4~5本は持ってた様な…」
ライザさんは少し考え…
「ボクも1本作って持っとこうかな…?」
ハリセンは我が家のコミュニケーション・ツールかよ…
「それなら私のを参考に作れば良いと思いますよ? 確か『ナッシュ仕様ハリセン』って名前なんですけどね」
「ちょっと待った!」
すかさず私はアリアさんを止める。
ナッシュ仕様ハリセンは、通常のハリセンより威力を高めてある。
改良型ナッシュ仕様ハリセンMARKⅡよりはマシだが…
身体の小さな私が振るってさえ、ミラーナさんに結構なダメージを与えるんだぞ?
それをドラゴンのライザさんが振るったらどうなる?
ドラゴンだけに、普通の人間よりパワーがあるのは間違い無いだろう。
ミラーナ仕様ハリセン並のダメージ…
いや、ドラゴン仕様ハリセン並のダメージを与えるかも知れない。
そんなのを普通の人間が食らったら…
不老不死の私やミラーナさん、ミリアさんやモーリィさんなら耐えられるだろうが、普通の人間が耐えられるとは思えない。
下手したら最悪の事態も考えられる。
「た… 確かに… じゃあライザちゃんのハリセンは…」
「ミリアさんやモーリィさんが持ってるハリセンなら、2人が作った物ですから威力はそれほど高くないでしょうね… それを参考に作れば、ライザさんが使ってもナッシュ仕様ハリセン程度のダメージで済むと思いますよ? それなら普通の人が食らっても、最悪の事態にはならないでしょうね」
何回かダブルで食らった事はあるけど、失神する程の威力は無かったしな。
後頭部に食らった時は、勢いでテーブルに額をぶつけたりもしたけど…
いや、前後から挟み討たれた時は失神した様な記憶があるけど…
まぁ、その程度の威力なら、ライザさんが振るっても大丈夫だろう。
なんか、私も食らわされそうな気がしないでもないけど…
まぁ、良いか…
「ちなみに、これがミリアさんやモーリィさんが持ってるのと同じ仕様のハリセンです。これを渡しておきますので使って下さい。自分で作る時は、これより威力を高めたモノは作らない様にして下さいね♪」
私は異空間収納からハリセンを取り出してライザさんに渡す。
これは初めてミラーナさんに一撃を食らわせた記念すべきハリセン、大阪名物ハリセン・チョップ1号だ!
すいません、ネーミングはどうでも良いです…
「これがハリセンかぁ… 見た感じ、威力は無さそうなんだけど…」
「あぁ… それは私が最初に作った物なんで、相手にダメージを与える様な作り方をしてませんからね。私は身体が小さいから、ミラーナさんに突っ込むには威力が足りなくて… 改良型を次々と開発していったんです♪」
私の話を聞いたミラーナさんは、頭を抱えながらボヤく。
「ハリセンの進化はアタシが原因なのかよぉ…」
「ミラーナさん… 少しは自覚して下さい…」
私の冷たい一言にミラーナさんはテーブルに突っ伏し、他の皆は彼女をジト目で見詰めるのだった。