第142話 自分の方向音痴を自覚してても、行動がダメなら罰は必要でしょ!
ライザさんが治療院で暮らす事になり、とりあえずギルドでハンター登録する運びとなった。
朝食を終えると、ミリアさんとモーリィさんがライトアーマーを身に付け始める。
ライザさんは、一足先に登録を済ませる為に1人でギルドに行くと言う。
「一緒に行かなくて大丈夫ですか? 昨日の話だと、かなり酷い方向音痴みたいですけど…」
ギルドは治療院の正面玄関を出れば見えている。
さすがに迷う事はないだろうけど…
「すぐ近くだし、見えてるんだから大丈夫だよ♪」
言ってライザさんは勝手口から外に出て…
「そっちじゃありません! 逆です、逆!」
いきなり逆方向へ歩き出したのだ。
勝手口から入ったのは昨日の事なのに、覚えてないんかい!
想像を遥かに超えた酷さの方向音痴っぷりに、アリアさんの目が点になっていた。
「あ… こっちか… ちょっと間違えちゃった、えへへ♪ じゃ、行ってくるね♪」
「本当に大丈夫なんでしょうか…?」
ライザさんを見送るアリアさんが、心配そうに私を見る。
まぁ、200年近くも迷子だったドラゴンだからなぁ…
「アリアさん、今からでも付いて行ってあげますか? アリアさんが心配してるのを見てたら、なんだか私も不安になってきましたし…」
「い… いえ、それはミリアさんとモーリィさんに頼みましょう。お2人共、もうすぐ準備を終えてギルドに行くんですから。私達には大勢の患者さんが治療を待ってますし」
それもそうか…
そして私達は準備を終えて降りてきた2人にライザさんのフォローを頼み、治療院を開けて診療を開始したのだった。
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「「ただいま~…」」
「ただいまっ♪」
なんだか疲れた声のミリアさんとモーリィさん。
キツい依頼でも受けたんだろうか?
対照的なのが、元気いっぱいのライザさん。
「お帰りなさい♪ もうすぐ夕食が出来ますから、着替えて待ってて下さいね♪」
私と一緒に夕食を作りながらアリアさんが声を掛けると、3人はそれぞれの部屋へ着替えに行く。
「…なんでしょう? ミリアさんとモーリィさん、かなり疲れた様子ですけど…」
心配そうな表情で聞くアリアさん。
だが、私の脳裏に1つの考えが過る。
「私、なんだか嫌な予感が…」
「嫌な予感? ギルドで登録に失敗したとかですか?」
「いえ… ドラゴンのライザさんなら、ハンター登録は問題無いでしょうね。それについては心配してません。私の嫌な予感ってのは、ライザさんが無事にギルドに到着したかどうかです…」
キョトンとするアリアさん。
理解してくれ!
ライザさんの方向音痴がミリアさんやモーリィさんの比じゃないのは見ただろ!
それも今朝!
まぁ、ミリアさんとモーリィさんから話を聞けば、私の嫌な予感を理解してくれるだろう…
「お2人が一緒にギルドへ行ってくれたなら、何も問題は無いと思いますけどねぇ… そもそもギルドの職員だった方々ですし…」
ギルドでの手続きとかの事はね…
同時に出掛けたなら良いよ?
でも、若干ではあるもののタイムラグがあるじゃん。
ライザさんが出掛け、ミリアさんとモーリィさんに説明して追って貰うまでのタイムラグが…
その僅かな差でライザさんが迷ってたら…
「そ… それは考え過ぎだと思いますけど…!? だって、見えてるんですよ!? すぐそこ、治療院の50m先にギルドが在るんですよ!? 幼児でも迷いませんよ!?」
普通ならね…
だけど普通じゃないんだよ、ライザさんの方向音痴は…
まぁ、普通じゃないってのは、私個人の感想なんだけど…
だが、予感が的中すれば確定。
そして着替えを終えた3人がリビングに降りてくる。
「あ~、お腹空いたな~♪ もう支度できた~?」
「私も~… 今日はメチャクチャ疲れたわよ~…」
「私も… 早く食べたい… 疲れ過ぎた…」
やたら元気なライザさんとは対照的に、グッタリしてるのがミリアさんとモーリィさん。
「お2人共、なんでそんなに疲れてるんですか?」
「私… 何となくですけど、その理由が解った様な…」
ミリアさんとモーリィさんは顔を見合わせて頷き、やがて涙をダバダバ流しながら…
「ギルドに行ったらライザちゃんが何処にも居なくて、街中を探し回ってたのよ~!」
「やっと見付けてギルドに向かっても、ちょっと目を離した隙に居なくなるんだから~!」
やっぱりかい…
私はソファーに座るライザさんの前に立ち、ニッコリと微笑みながら…
「ライザさ~ん… これから外へ出掛ける時は、私達の誰かと常に行動を共にして下さい♪ 絶対、1人でウロウロしないで下さいね♪」
「エ… エリカちゃん… その笑顔、なんか凄え殺気を感じるんだけど… 気の所為かな…?」
それを周りで見ている3人は、青褪めた顔でフルフルと首を振る。
「それ、エリカさんが本気で怒ってるんだと思いますよ…?」
「エリカちゃんって、普通に怒る時は普通に怒った表情なんだよねぇ…」
「だけど、本気で怒った時は何故か笑顔なのよ… ただ、物凄い殺気が溢れてるのよねぇ…」
完全に血の気が引いた顔をする3人を見て、ライザさんも青褪め始める。
「えぇと… ボクはどうなるのかな…?」
ひきつった表情を浮かべるライザさんの目の前に、私は異空間収納からハリセンを取り出し突き付ける。
「口で言っても忘れちゃいそうなんで、身体で覚えて貰いましょうかね?」
「ちょっ… またその変なのでボクを張り飛ばすっての!?」
ライザさんは慌てて後退ろうとするが、ソファーの背凭れが邪魔をする。
「変なのじゃありません♪ 大阪名物、ハリセン・チョップです♪」
「いや、そのオーサカメーブツってのが何だか解らないんだけど! いや、それより張り飛ばすのは勘弁して欲しいんだけど!」
私はハリセンで手をペシパシ軽く叩きながら…
「安心して下さい♪ このハリセンは、前に使ったハリセンとは別のモノですから♪」
それを聞いたミリアさんが、首を傾げながら聞いてくる。
「別のモノって… じゃあ前に使ってたナッシュ用の? でも、あれってミラーナさん用のより威力が弱かったんじゃ…?」
威力が弱いと聞いて、表情が明るくなるライザさん。
私はニッコリとミリアさんに笑い掛け…
「ナッシュさん用のじゃありませんよ? これはライザさん用に制作した新しいバージョンです♡」
ミリアさんは無言で後退りながら聞いてくる。
「…て事は、ミラーナさん用に比べて…」
「威力は10倍に高めてあります♡」
「そんなモンでボクを叩くつもりなのぉおおおおおおおっ!? 方向音痴なのは自覚してんだから許してよぉおおおおおっ!」
泣きながら抗議し、逃げるライザさん。
「自分の方向音痴を自覚してるなら、自覚を持った行動しろぉっ! これぐらいしなきゃ覚えないだろが、アンタはぁああああああっ!!!!」
私は逃げるライザさんに静止魔法を掛ける。
ライザさんはピクリとも動けなくなり、近付く私を恐怖に怯えた目で見つめ…
最新型のハリセンでブッ飛ばされたライザさんは、壁に身体の半分以上をめり込ませて失神したのだった。