第141話 新たな家族が増える様な気がするけど、増えたら増えたで面倒臭そうな気がします…
ドラゴンのライザさんの治療を終え、とりあえず空いている部屋を提供して泊まって貰う事にした。
怪我の半分くらいは治りかけてたけど。
「これだけの傷を治療しても銀貨1枚なんて、信じられないなぁ…」
「エリカさんの最大魔力容量は並外れてますから、毎日100人以上を治療しても平気なんですよ♪ だから料金も安く抑えられるんです♪」
「ひゃ… 100人以上!?」
アリアさんが言うと、文字通り目を丸くするライザさん。
「更に、以前王都に招聘された時には王都の魔法医が減った事もあって、連日700人近くを治療した記録が残ってるそうなんです♪」
「な… 700人!?」
更に驚くライザさんと、何故かドヤり顔のアリアさん。
「まぁ、それはともかくとして… 実はライザさんに頼みたい事があるんですよねぇ…」
少し上目遣い──背が低いのは別問題──になり、私はライザさんを見つめる。
「頼みたい事? ボクに出来る事なら、何でも言ってよ♪ こんなに安く治して貰った上に、部屋まで貸してくれるんだから♪」
よっしゃ♪
これでニースまでの足を確保!
と、そこへ帰ってくるミリアさんとモーリィさん。
「「ただいま~♪ ……って、誰!?」」
ハモるな。
「あ、こちらはライザさんと言いまして、急患で怪我を治してたんです。で、ついでと言っちゃ何ですが、しばらく治療院に泊まって貰う事になりました♪」
「何だか話が見えないんだけど…」
「もう少し詳しく話して貰えないかな…?」
話を端折り過ぎたかな?
私はライザさんとの出会い──と言う程のモンでもないが──から2人に話す事にした。
その間、アリアさんが夕食の準備をする事に…
─────────────────
「「ドラゴン!? どう見ても人間にしか見えないのに!?」」
だからハモるな。
「ドラゴンも結構、魔力を持ってるんで… それに、人間社会に溶け込んで活動する機会も多いし、便利なんで移動する時以外は人間の姿でいるドラゴンって珍しくないんだよね♪」
「へぇ~… そういうモンなのね…」
なんだか感心した様子のミリアさん。
「ドラゴンかぁ… 実は私、ドラゴンって見た事が無かったんだよね」
なんだかモーリィさんが言わなくて良い事を言った気が…
「よし! じゃあドラゴンの姿を見せてあげちゃおう!」
そう言うとライザさんの身体がブレて見え始め…
「治療院でドラゴンに戻るな、バカたれぇええええええっ!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
「あ痛ぁっ!」
さすがはドラゴン。
ミラーナさん仕様のハリセンを後頭部に食らって、痛いだけで済むのか。
こりゃ、ドラゴン仕様のハリセンを開発する必要がありそうだな。
「い… いきなり何を…!?」
涙目で私を見るライザさんに、私は語気を強めて抗議する。
「ドラゴンの大きさは知りませんけど、治療院が壊れでもしたらどうしてくれるんですか!? 建物だけでも金貨300枚掛かるんですよ!? 誰が支払うと思ってるんですか!?」
「大きさも知らないのに、変なモンで叩かないでよ! …って、金貨300枚!?」
金額に驚くライザさん。
「瓦礫の撤去や、残った建物の取り壊し費用を併せれば、もう50枚から100枚は必要かも知れませんけどね。それ、誰が支払う事になると思いますか?」
「んぐぅ…」
肩を竦めて唸るライザさん。
すると…
「そりゃ、治療院の持ち主であるエリカちゃんが…」
「なんでやねんっ!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
ずべしゃぁあああっ!!!!
アホな事を言ったモーリィさんをハリセンでシバき倒す。
モーリィさんは床に叩き付けられ、潰れたヒキガエルみたいになっていた。
「なんで私が支払わなきゃいけないんですかっ! 普通に考えて、壊した人が支払うんでしょうがっ!」
今度は目を点にするライザさん。
「まぁ、ドラゴンの姿は、その時が来たら見せて貰います。で、話しそびれていた頼み事なんですけど…」
失神していたモーリィさんを叩き起こし、夕食を食べながら秋の行楽についてライザさんに話す。
「なるほど… じゃ、全部で5人をボクの背中に乗せて、ニースって街の近くまで運べば良いんだね? お安い御用だよ♪」
ライザさんの言葉に、全員が歓喜の声を挙げる。
人型で居れば誰もドラゴンとは思わないし、こんな事を言うと悪いけど何かと便利そうだし、この際だから治療院で同居…
と言うか、家族になって貰っても良いかも知れない♡
「同居… 家族かぁ… 良いかも知れないなぁ… もう200年近く1人だったしなぁ…」
今、何つった?
200年って言ったよな…?
いったいアンタ、何歳なんだ?
「えぇと… 生まれて350年になるかな? ドラゴンも長寿の種族だからねぇ」
「「さんびゃくごじゅうねん!?」」
何回ハモるんだ、アンタら…
「そんなに長い間、1人で何をしてたんですか?」
首を傾げてアリアさんが聞く。
見れば、私を含めた全員がライザさんを注視していた。
「ん~… 放浪の旅… とでも言えば聞こえは良いんだけど…」
なんだかモジモジし始めるライザさん。
そして明後日の方を見ながら…
「…実は、自分が何処に居るのか判らなくなって、ず~っと放浪してんだよね…」
200年近くも迷子かいっ!
「この街の近くで墜落した時も、ギルド… と言うか、治療してくれる所を探すのに3日も掛かっちゃったんだよね。えへへ…」
3日って…
どうりで半分くらいは治りかけてたワケだ…
てか、笑う様な事かい…
「致命的な方向音痴って事なの?」
ズバリ聞くミリアさんに、顔を真っ赤にして頷くライザさん。
「気にする事じゃないわよ♪ 私やモーリィだって、結構な方向音痴なんだから♪」
「そうそう♪ 実はロザミアにはテーマパークってのが在ってね。私もミリアも、そこの迷路を1回もクリア出来ない方向音痴なんだから♪」
アンタら、言ってて虚しくないか?
そんな私の思いを他所に、ガシッと手を取り合う3人。
よく見ると、3人の目にうっすらと涙が浮かんでいた。
おいおい…
「まぁ、3人の方向音痴の件は置いといて… さっきの同居の話は、どうします? 生活費なら気にしなくて良いですよ? 治療院の収入だけでも充分やっていけますし、ミリアさんやモーリィさん… それに、今は居ませんけどミラーナさんの3人はハンターとしての稼ぎもありますからね♪ なんならライザさんもハンター登録して、4人でパーティーを組んでも良いかも知れませんね♪」
ライザさんは、私に言われて考え込む。
「魅力的な話だなぁ… 200年近く、ず~っと1人だったし… 一緒に過ごせる家族が出来るのって、楽しそうだな…」
その言葉に、全員がウンウンと頷く。
「でも、ボクはドラゴンで皆より遥かに長寿だから… 何十年か後には、また1人になるだろうけど… しばらくは楽しそうかな…?」
「それなら心配無用ですよ? アリアさんはエルフだからライザさんと同じ様に長寿ですし、他の皆… ここに居ないミラーナさんを含めて、私達4人は不老不死ですから♪」
その言葉にライザさんは目を真ん丸にして驚く。
「えぇええっ!? 不老不死!? えぇええええええっ!?」
まぁ、驚くわな…
そして…
「それ、最高じゃん! ねぇっ、ボクも不老不死に成れる? てか、ボクも不老不死に成りたいっ! 不老不死に成る方法、教えてよ!」
ライザさんは、私の肩を掴んで前後にガクガク揺さぶる。
止めいっ!
ドラゴンのパワーで揺さぶられたら、脳がシェイクされて耳から流れ出るわっ!
「少しは落ち着けぇええええええっ!!!!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
どべしゃぁあああっ!!!!
一切の手加減をせずに振り抜いたハリセンでブっ飛び、壁にめり込むライザさん。
「この際だからバラしちゃいますけど… ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんの3人を不老不死にしたのは私です。まぁ、私が言わなくても、3人の誰かがポロッと話しちゃいそうですけどね… なにしろ3人共、あまり深く物事を考えない人達ですから…」
すぱぱぁあああああああんっ!!!!
ぼてっ!
ミリアさんとモーリィさんのハリセンを顔面と後頭部に食らった私は、その場に崩れ落ちる。
「「一言多いっ!」」
すいません、つい本音が出ました…