第134話 異世界初の海水浴に向けて、準備は万全ですか?
6月最後の休診日。
私達は海水浴に行く準備に勤しんでいる。
とりあえず次の休診日を利用して海水浴に行く事に決定し、当日は朝イチで出発する為である。
治療院の関係で日帰りの予定だから、少しの時間も無駄には出来ない。
てか、無駄にしてたまるか!
海水浴当日の予定は朝6時に起床。
朝食を取って、遅くとも7時には出発。
問題が無ければ8時前には漁村に着く。
着替え用に宿を借りて水着に着替え、海水浴に適した浜辺に移動。
なんでもノルンから2㎞程東に、意外と広い砂浜が在るんだとか。
ロザミアに来ていた漁師に聞いた話に依ると、その砂浜には特に危険な場所も無く、そこで遊ぶ人も殆ど居ないそうだ。
最高のシチュエーションじゃないか♪
私達だけのプライベート・ビーチと言っても良いだろう。
何の遠慮も無く楽しめそうだ♪
そして昼は当然、BBQで決まりだろう♡
肉、ソーセージ、ピーマン、タマネギ、カボチャ、トウキビ等々…
バーベキュー・ソースも私の手作りで用意する。
勿論、出たゴミは持ち帰る。
最低限のマナーだからな。
マナーを守れないヤツに、BBQを楽しむ資格は無いのだ!
楽しみたけりゃ、責任を持って楽しむべき。
自分達が楽しくても他人に迷惑を掛ける様では、最初からやらない方がマシってモンだ。
BBQの後も、ひたすら海を楽しむ♪
そして、日が沈む前にはロザミアに戻りたい。
馬は夜目が利くから大丈夫とは思うが、翌日からの診療もあるので適当に切り上げないとな。
「それにしても、BBQの道具って多いんだな。こんなに持って行くなら馬に乗って行くより馬車の方が良くないか?」
「それなら大丈夫ですよ♪ 私が異空間収納に入れて行きますから♪」
異空間収納と聞いて首を傾げるアリアさん。
「ホラ、これですよ♪」
言いつつ私は異空間収納からハリセンを取り出す。
「あぁ! いつも何処から出してるのかと思ってましたが、それが異空間収納だったんですね!? 初めて知りました!」
「そうやって取り出してアタシを叩いてるんだよなぁ。予備動作が分からないから、アタシでもガード不可能なんだよ…」
ミラーナさん、この中で一番ハリセンの餌食になってるからな。
まぁ、いつもミラーナさん自身が原因を作ってるから、仕方無いと言えば仕方無いんだけど…
「でも、ミラーナさんもエリカちゃんにやり返してるけどねぇ♪」
結構なパワーだから、ダメージもバカにならないけどな…
「似た者同士って事じゃないかしら? なんだかんだ言って、気が合ってるみたいだしねぇ♪」
それって何かショックだぞ…
「でも、エリカさんとミラーナさんってケンカになりませんよねぇ? やり合うけど、それっきりって言うか… お互い、あっさりしてますよね?」
まぁ、確かに遺恨は残さないな…
「う~ん… 言われてみれば確かに… エリカちゃんに叩かれても、なんか納得してしまうんだよなぁ… それだけの事をしちゃったとか、それだけの事を言っちゃったとか思うんだよ…」
「ですよねぇ… 私もミラーナさんと同じ事を感じたり思ったりするんですよねぇ…」
やっぱりミリアさんの言う様に、気が合ってるのかな?
似た者同士ってのはショックだけど、気が合ってるってのは嬉しい気がする。
とかなんとかやってる内に、準備は無事に終わったのだった。
次の休診日は待望の海水浴♡
思いっ切り海を満喫するぞ~っ♫
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「気胸でしたね。この背中の傷が肺に達してましたよ? それが原因で、肺の空気が胸腔内へ漏れ出してました。その空気が肺を圧迫して呼吸困難を引き起こしてたんです。何か思い当たる事はありますか?」
「あぁ、ホーン・ラビットの角が刺さったんだよ。はぐれオークを倒してホッとして気を抜いたトコに、後ろの茂みから飛び出して来やがったんだ。まさか肺にまで届いてたとはなぁ…」
弱い魔物や魔獣でも、油断は禁物って事だな。
まぁ、死角から突然だと、対処するのも難しいから仕方無いけど。
「背中もガードできるアーマーなら良かったんですけどね。ロバートさんのアーマーって、前側しか装甲が無いでしょ? ケチったとは思いませんけど、ハンターって職業は命あっての物種なんですから… 武器も大切ですけど防具にも気を配って下さいよ?」
「いやぁ、まだまだ俺なんて駆け出しだからさ。良い防具を買えるだけの稼ぎも無いんだよ。たまたま1人で依頼を受ける事になったからでね。いつもならパーティーで動くから背後は仲間が守ってくれてたんで… ま、油断してたのは間違い無いから、エリカちゃんの言う様なアーマーに買い換えるよ」
私のアドバイスを素直に聞いてくれるロバートさん。
まぁ、ハンターとしての専門知識なんて持ち合わせてないけど、魔法医──医者──としてのアドバイスなら出来るからな。
勿論、今のが魔法医としてのアドバイスになってるかは疑問だが、少なくとも第三者的な目で見た『ここがダメなんじゃないか?』ってな疑問は投げ掛けられるだろう。
その疑問を受け止めるかどうかは本人次第。
私の経験上、専門外の人が見た疑問は意外に良いアドバイスになったりする。
変なプライドを持ってる偏屈なベテランなんかは、何も知らない素人意見として軽く見て無視したりする。
で、単純なミスをして恥ずかしい思いをするんだよな。
全部が全部ってワケじゃないけど…
とにかくロバートさんの気胸を治療して海水浴前日の診療は終了。
いよいよ明日は待望のバカンスだ♡
私とアリアさんは戸締まりをし、リビングへと上がる。
この海水浴に関して、私は全員に箝口令を敷いていた。
下手に喋ると、ハンターの兄ちゃん達が一緒に行くと言い出す可能性を考えたのだ。
海水浴の習慣が広まれば仕方無いだろうが、まだまだ習慣の無い現在は静かに楽しみたい。
まぁ、王都には社交パーティー欠席の理由として伝えてあるけど…
嫌な予感がしないでもないが…
とにかく、私達だけで異世界で初の海水浴を満喫するのだ!
しかし、それは私の希望と少し違った形で実現する事になるのだった。
嫌な予感が当たったよ…




