第133話 あれこれ考えるより、正直に伝えるのが良いんでしょうか?
私達は悩んでいる。
どうすれば誰もが納得する形でミラーナさんの王都行きをキャンセルさせられるか…
まさか正直に『海水浴に行くから』とは言えない。
そんな事を言ったら顰蹙を買うのは間違い無いからな。
…いや、あの国王一家なら一緒に行くとか言い出したりして。
「エリカちゃん、アタシの家族を何だと思ってんだよ…」
「でも、国王陛下はともかく、王妃様や子女の皆さんは言いそうだと思いませんか?」
私に言われてミラーナさんは黙り込む。
言いそうだと思ってるな?
「そりゃまぁ… 父上は国王って立場上政務優先だから、一緒に行くなんて言わないだろうさ。だけど、母上は言いそうだよなぁ… キャサリンはともかく、ロザンヌも言いそうだし…」
「フェルナンド様やローランド様は言いませんか?」
「フェルナンドは次期国王としての自覚が芽生え始めてる雰囲気でさ、なんか言いそうないんだよね。ローランドも、フェルナンドに何かあったら次は自分だと父上が教えてるらしくて…」
幼いながらも国王になる可能性がある事を自覚させられてるのか…
英才教育と言って良いのか分からないが、王族としての闇の部分なのかもな…
闇って表現が正しいかどうかは判断し難いけど…
私達みたいな平民には理解の及ばない世界だなぁ…
「て言うか、なんで私達は浴室でこんな相談してるんですかね…?」
ミリアさんの言う通り、何故か私達は浴室で会議(?)している。
「しかも、なんで水着を着て水風呂に入ってるワケ?」
そう…
何故か私達は水着を着て水風呂に入って話し合っている。
「それは私も聞きたいですよ。ミラーナさん、何故ですか?」
「いや… せっかく作った水着を着れないんじゃないかと思ってさ… 水着を着てリビングで話し合うのも変だと思って浴室に… で、どうせなら水に入ろうと思ったんだけど…」
まぁ、気持ちは解らないでもないけど…
それはともかく、理由を考えねば!
どんな理由なら国王一家や貴族達がミラーナさんのパーティー欠席を納得してくれるのか…
「ミラーナさんが怪我したってのはどうかなぁ…? それなら出席しなくても不自然じゃないと思うけど?」
確かに普通の人なら怪我で欠席しても不思議ではない。
しかし、ミラーナさんは不老不死だし、なによりバケモノじみた運動能力なんだから、誰も信じないだろう。
よって、ミリアさんの案は却下。
ここでハリセン1発目…
「じゃあさ、ミラーナさんが多額の賞金が掛かった魔獣か盗賊団を追って、ニュールンブリンクの大森林に入ったまま戻ってこないってのは?」
考えられない事もないが、社交シーズン丸ごと潰すまで戻ってこないのは無理がある。
なによりバケモノじみたミラーナさんから、そんな長期に渡って逃げられる様な魔獣や盗賊団が居るとも思えない。
ここでハリセン2発目…
「アタシが病気って事ならどうだい? それなら欠席しても変だと思われないんじゃないかな? エリカちゃんが診断書を書いて国王に送れば、信じるんじゃないか?」
それはそうかも知れない。
しかし、その病気なのがミラーナさんだってのが問題だ。
普通の人が病気なら誰もが納得するだろう。
だが、ミラーナさんが病気と聞かされて、納得する人が居るだろうか?
確かに以前、ミラーナさんは便秘で苦しんだ事もあるけど、それは例外中の例外だろうからな。
それに、もっと肝心な事があるんだけど…
ここでハリセン3発目…
「言うなぁあああああああっ!!!! 思い出させるなぁあああああああっ!!!!」
「悶絶しながら人の頭を叩かないで下さいっ! それに、ミラーナさんが便秘で苦しんだのは事実でしょうがっ!」
「事実は事実だけど、人の恥ずかしい過去をバラすなよっ! アタシにだって羞恥心ってのがあるんだよっ!」
珍しく真っ赤になって抗議するミラーナさんだが…
「…バラすも何も、ここに居る全員が知ってる事でしょう? アリアさんには私がミラーナさんの症状を参考に虫垂炎との違いを説明しましたし、ミリアさんとモーリィさんには後から説明したじゃないですか」
「あ………」
完全に忘れてたな?
「それに、私がどんな怪我でも病気でも一瞬で治せる魔法医だって忘れてませんか? 仮に病気だったとしても、私が治しちゃうんだから病気を理由に欠席なんて無理でしょう?」
「そうよねぇ… エリカちゃんが治しちゃうんだから、病気や怪我の理由付けは無理よねぇ…」
「そもそも国王陛下達も、エリカちゃんが凄い魔法医だって知ってるんでしょ? ヴィランでのエリカちゃんの治療劇、ロザミアにも届いてるモンねぇ…」
治療劇って…
そりゃ、あの出来事は王都滞在中での事だし、治療で体力と精神力を使い果たした私を介抱(?)してくれたのは王妃様と子女の皆さんだったからなぁ…
国王一家は勿論、当時王都に居た貴族達も知っている。
なので、やはり病気での欠席は誰も信じないだろう。
打つ手無しかと思っていると、今まで沈黙していたアリアさんが口を開く。
「あれこれ策を巡らすより、素直に言ったらどうですか?」
素直にって、もしかして…
「正直に『今年は海水浴に行くから、夏の社交パーティーは欠席する』って言った方が良いと思います。1回ぐらい、私用で欠席しても良いじゃないですか。必ず全貴族が参加してるってワケでもないと思いますけど?」
言われてミラーナさんは考え込み…
「確かに… 毎回、何人かは欠席してるよな… 領地の問題だとか何とか言ってるけど、それを事実かどうか確認するって事もないし…」
そうなのか?
それで良いのか!?
だったら、今まで私達が悩んでいたのって何なんだよ!
しかも、わざわざ水着を着て水風呂に入ってまで会議(?)したのって!
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とりあえずミラーナさんが国王陛下に手紙を書く事に決まり、後は返事を待つ事にしたのだった。
そして待つ事、10日余り。
王都からの返信に依ると、今回から社交パーティーは2ヶ月遅らせるとの事だった。
なんでもミラーナさんからの手紙を読んだ王妃様と子女の皆さんは勿論、多くの貴族達が国王陛下に物申したらしい。
曰く…
・海へ遊びに行けるミラーナ姉様が羨ましい(キャサリン&ロザンヌ)
・自分達も海へ行って遊びたい(キャサリン&ロザンヌ)
・夏ならではの行楽を楽しむべき(多くの貴族)
・年始の社交パーティーも時期をズラし、家族と年末年始を過ごせる様にするべき(多くの貴族)
等々…
キャサリン様やロザンヌ様の意見に、フェルナンド様やローランド様は勿論、王妃様までが便乗したらしい。
娯楽を求めていた多くの貴族達もそれに同意し、会議らしい会議も開かれないまま社交シーズン自体が2ヶ月(夏=7月→9月:年始=1月→3月)遅らせられる事に決定したのだった。
なんか、私(達)の我が儘(?)で、イルモア王国の慣例を崩した気がするけど…
ともかく、これを機にイルモア王国では夏の行楽として海水浴が根付いていく事になったのである。
もしかして私、この世界に海水浴ってのを広めちゃいました…?




