第132話 私の身の安全の為にも、海水浴には全員参加を望みます!
「アタシ、海水浴に行けないかも知んない…」
「「「「ふぇっ!?」」」」
採寸・発注した水着が届き、皆で試着してみようとしていた矢先。
ミラーナさんの予想外の言葉に一同が変な声を上げる。
「それって… ど~ゆ~事ですか?」
「いや… よく考えてみたら、7月は社交シーズンだって気付いたんだよ… だから6月の半ばに王都に向けて出発、戻って来れるのは8月半ばだなって…」
忘れてたよ…
いや、それでも8月終盤には行けるじゃないか!
「それがダメなんだよ… イルモア王国の近海では、8月半ば頃からクラゲが大量に発生するって聞いたんだよ… たまたまロザミアに来てたノルンの漁師からね…」
…漁師の情報なら、まず間違い無いだろう。
なんだかんだ言いながら、ミラーナさんも海水浴を楽しみにしてたんだな。
いつもの元気が無い…
「だからさ、4人で行ってくれよ… アタシの事は気にしないでさ…」
それはダメだ!
絶対に5人で行かなきゃダメなんだよっ!
「エリカちゃん… そんなにアタシの事を…」
私が力説すると、なんだかミラーナさんは感動している様子。
「ミラーナさんが行かなかったら、私かアリアさんのどちらかがモーリィさんの馬に同乗する事になるんですよ!? アリアさんは不老不死じゃないから、万が一の事を考えると私が同乗する事になります! それだけは絶対に拒否したいから、ミラーナさんが一緒に行けないのは困るんです!」
「そんな理由かよっ!」
「エリカちゃん、ど~ゆ~意味よっ!?」
突っ込むミラーナさんとモーリィさん。
そんな理由って言うけど、私がモーリィさんの馬に同乗した時の事を忘れてるんだろうな…
「…忘れたんですか? 以前、ブルトニア王国がハングリル王国に戦争を仕掛けられて、私達が駆け付けた時の事を…」
私に言われて2人は考え込み、やがて顔が青褪める。
思い出したんだろう、私がモーリィさんの駆る馬から3度も落馬させられた事を。
「えぇ~っと… あれは~… 不可抗力って言うか…」
すぱぁあああああああんっ!!!!
「不可抗力で済むかぁああああっ! あの時は心配させない様にと言いませんでしたけど、最初に振り落とされた時は肋骨8本と首の骨が折れてたんですからねっ! 2回目は肋骨が7本と両足が折れてたし、3回目は肋骨5本の骨折と頸椎捻挫に加え、内臓が3ヶ所も破裂してたんですからねっ! 私は不老不死だから死にませんでしたけど、アリアさんなら間違い無く死んでるんですよっ!」
驚愕(?)の事実を知り、何も言えなくなるモーリィさん。
「エリカちゃん… そんな重傷だったの…? それならそうと言えば良かったのに…」
ミリアさんの言う事も解る。
だけど、あの時はブルトニア王国に駆け付けるのが何よりも優先される状況だったからな。
だから何も言わず、素早く魔法で自身を治療して何も無かったフリをしたんだよ。
「その考え、行為… ルグトワルド侯爵様やマインバーグ伯爵様がエリカさんの事を聖女だと仰ったと聞きましたが、本当に聖女です♡ あぁ、やっぱり私がエリカさんの元に来たのは間違ってなかったんですね…」
だから何で恍惚とするんだ、アンタは…
しかし困ったぞ…
落馬の危険があるモーリィさんの駆る馬に、不老不死じゃないアリアさんを同乗させられない…
不老不死の私だから死なずに済んでるけど、アリアさんなら死ぬかも知れないからな…
て事は、必然的に私が同乗するしかないって事で…
それは嫌ぢゃぁあああああっ!!!!
落馬しても死ななっていだけで、痛いモンは痛いんだからな!
「エリカちゃん、何を悶絶してるの?」
「悩んでるんですよぉ~… どうしたらミラーナさんも海水浴に行けるか…」
私の安全の為にも、こればっかりは譲れない!
「それって、やっぱり…?」
ミリアさんが苦笑しながら聞く。
「そうしないと、私がモーリィさんの馬に…」
「アタシの参加理由はそれしか無いのかよぉ…」
「私だって、あれから少しは練習してんだけどなぁ…」
遮光器土偶みたいな目で、涙を流しながら落ち込む2人。
ミラーナさんに参加して欲しい理由は、勿論それだけじゃない。
やっぱり5人全員で行きたいからな。
それはともかくモーリィさん、少しの練習じゃダメだと思うぞ?
まぁ、馬に乗って走って貰い、それからどうするか考えても良いけど…
…………………………………………
私達は馬を1頭借り、どの程度モーリィさんが上達しているのかを確認する事にした。
「とりあえず、私を乗せてると思って走らせてみて下さい。それを見て、モーリィさんの馬に乗れるか判断しますから」
「よ~し♪ 私の上達振り、見せてあげるからね♪」
言いつつモーリィさんは馬の横腹を蹴り…
ヒヒィイイイイインッ!!
馬は嘶き竿立ちになり、勢い良く走り出す。
…をゐっ!
「どうよっ! この走りっぷりは!」
100m程馬を走らせて戻ってきたモーリィさんは、自信タップリにドヤ顔で胸を張る。
だが…
「そっちの上達ぢゃないわぁあああっ!!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
どべしゃぁあああああああっ!!
私のハリセンで馬から叩き落とされ、地面にめり込むモーリィさん。
「私を乗せてると思って走らせろって言ったでしょうが! その走り方で人を乗せりゃ、振り落とされて当然です! 事実、その走りで私は振り落とされたんですからねっ!」
ミラーナさん達3人は、呆れた様に目を点にしていた。
やっぱりモーリィさんの馬に同乗するのは自殺行為だな…
いや、私は死なないけど…
こうなったら、何がなんでもミラーナさんを海水浴に参加させるしか私の安全は保証されないな。
「見ての通り、モーリィさんの馬に同乗するのは極めて危険です。なので、是が非でもミラーナさんには海水浴に参加して貰います」
「いや、アタシも参加したいのは山々だけどさ… 王族で、しかも長子のアタシが社交シーズンのパーティーに出ないワケには…」
それはまぁ、解らない事もない気がしないでもない。
しかし、私も海水浴の為には譲れないのだ。
ただの我が儘だって言わないで下さい…
「ミラーナさんの言いたい事も理解します。でもミラーナさん、そんなにパーティーが好きってワケでもないですよね?」
「…そりゃまぁ、堅苦しいのは嫌いだけどさ…」
「だから理由を考えましょう♪ 社交パーティーに出られなくても変だと思われない理由を考えてキャンセルしましょう♪」
一瞬、ミラーナさんは固まって考え…
「…へっ? キャンセル? パーティーを?」
目が泳ぎまくってるぞ?
両腕がタコみたいな妙な動きで挙動不審だし…
「そりゃ無理だろぉ!? それに、そんなの考えてたらストレスでハゲちまうっ!!」
「そんな程度でハゲませんっ! それに、ただでさえ普段から何も考えずに本能だけで生きてるんですから、たまには考えるって事に脳を使って下さい! スライムの方がミラーナさんより何かを考えてる筈ですよ!?」
「そんなワケあるかぁあああああっ!!」
どぱぁあああああああんっ!!!!
ずべしゃぁあああああああっ!!
後でミリアさんとアリアさんに聞いた話では、ミラーナさんのハリセンを食らった私はモーリィさんの隣で仲良く地面にめり込んでいたそうだ。
がっでむ!