第130話 楽しく働くのが一番ですね♪ だけど、料理を作るのに無謀な挑戦するなっ!
思わず口に出してしまった前世の料理の数々。
ここ数日、私はそれらを再現する事に忙殺される日々を送っている。
勿論、毎日の診療が終わってからだけどね。
て言うか、食事の支度はローテーションの筈だろうが、テメー等!
何日も連続で私に作らせやがって!
そりゃまぁ、この世界には無い料理名を口に出してしまったのは私だけどさ…
だからって毎日作らせるのは違うだろ!
などと思いつつ作ってしまうのが悲しい…
「お待たせしました~♪ 今日の料理は回鍋肉で~す♪」
いや、『♪』ぢゃないけど…
「へぇ~、また新しい料理なんだな♪」
「エリカちゃん、レパートリー多いわねぇ…」
「魔法医を辞めても、食堂でも開いて生活できそうじゃん…」
まぁ、大学時代──前世──は独り暮らしだったし、食費を抑えるのに自炊してたからなぁ…
同じ食事ばかりだと飽きるし栄養も偏るから、料理も結構勉強したんだよな…
お陰で一生独身でも大丈夫って程には上達したけど…
それって、なんか嬉しくないぞ…
「旨いっ! この甘辛い味付けが更に食欲をそそるなぁ♪」
「エリカちゃんの料理って、肉と野菜のバランスが良い上に美味しいから、いくらでも食べれちゃうのよねぇ♪」
「だよねぇ♪ お陰で最近、身体の調子が良くってさぁ♪」
「エリカさんって、凄く多才なんですね♡ 私、憧れちゃいます♡」
まぁ、褒められて悪い気はしないけど、乗せられてる気がしないでもない…
だとしたら後で殴ろう。
1人だけ違う感想のアリアさんだけは、そんな思惑は無さそうだけどね。
とりあえず、料理のローテーションとしては和食→洋食→中華料理→和食ってな具合に回して作っている。
特に中華料理は油を多く使うから、翌日はサッパリとしてヘルシーな和食にしてるのだ。
天ぷらは和食にしては油を使うが、スープの代わりに味噌汁──大豆で一から作った自家製──を出したりとバランスには気を付けている。
勿論、堅節──鰹節に似た魚の燻製──や煮干しを使って出汁を取る事も忘れない。
料理は美味しければ良いと言うワケではないのだ。
美味しさだけを追及して、健康を考えない料理は毒と言っても過言ではないだろう。
美食家とは、美味しさだけでなく身体への影響も考えてこそ真の美食家なのだ!
って、誰に向かって力説してんだ、私は…
「…褒めてくれるのは嬉しいですけど、そろそろ皆さんもローテーションに従って料理当番に入って下さいね♡」
私がニッコリ笑って言うと…
「「「「ごめんなさいっ!」」」」
…全員が青褪めて土下座したのだった。
何故だ…
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「肘の脱臼ですね。結構、痛かったでしょうに… 何故もっと早く治療に来なかったんですか?」
「ただの捻挫だと思ってたんだよ… その内、痛みも無くなると思ってたんだよね」
「素人判断は危険ですよ? 靭帯などや周辺の筋肉損傷、骨折、神経組織を圧迫している場合もあるんですからね? 何が原因で脱臼したのか知りませんが、身体に異常を感じた時は治療に来て下さいね?」
仕事優先で自身の健康や周りの人とかに無頓着な人って多いからなぁ。
所謂ワーカホリックってヤツだな。
ワーカホリック=仕事中毒
生活の糧を得る手段であるはずの職業に、私生活の多くを犠牲にして打ち込んでいる状態を指す言葉だ。
ワーカホリックは『私は働かなければならない』と認知しており、一方でワーク・エンゲージメント──仕事に対してのポジティブで充実した心理状態の事──は仕事への態度が肯定的である。
似て非なる言葉が『私は働きたい』であるという点において区別されるんだな。
これはときおり、仕事に打ち込むあまりに家庭や自身の健康などを犠牲とするような状態を指す。
その結果として、過労死や熟年離婚といった事態を招くこともあるから困ったモンだ。
多くの人は理解しているだろうが『働きたい』と『働かなければいけない』は全く違う。
前者は欲求で、後者は強迫観念に近い。
強迫観念で働いて何が楽しいんだか。
そんな気持ちで働くから鬱病になるし、そんな気持ちにさせる環境を作り出してる職場も問題だろう。
気持ち良く『働きたい』って気持ちにさせる職場環境を作れってんだ!
「とにかく身体を大切にして下さいよ? 職場が楽しいかどうかは知りませんが、怪我して働けなくなったら何の意味もありませんからね?」
脱臼を治療しつつ、注意する事も忘れない。
どんな職場でも、嫌々働くより楽しく働くのが良いに決まってるからな。
そんな簡単にはいかないだろうけど…
私?
私は楽しくてやってるから大丈夫だけどね♪
怪我や病気を治すのは魔法医──医者──の使命だし、それ以上に私自身がやりたい事なんだから。
要は『治さなければいけない』ではなく『治したい』なんだから、何も無理はしていない。
そこがワーカホリックとは違うトコだな♪
ワーカホリックなら『治さなければ──働かなければ──いけない』って考えるし、それが心の負担になってしまうんだよ。
その違いは大きい。
大き過ぎると言っても良い。
『治さなければいけない』なんて強迫観念で治すんじゃ、患者を治した喜びなんて何も感じないんじゃないか?
少なくとも私は患者を治す事に喜びを感じてるぞ?
働くのに大切な事は、喜怒哀楽が押し潰されない環境かどうかだと私は思ってる。
人間なんだから喜怒哀楽が在るのは当然だ。
それが押し潰される様な職場は絶対的に良くないと断言しよう。
そんな職場は離職率が高く、ブラックと言っても過言ではないだろうな。
「助かったよ、エリカちゃん♪ これでまた元気に働けるぜ♪」
うんうん、楽しく元気に働ける職場が一番だね♪
私の職場──治療院──は楽しく元気に働ける職場だ。
問題は仕事が終わってからなんだけど…
その日の診療が終わり、リビングで夕食が出来るのを待っていると…
「うわわわわわわっ! エリカちゃ~ん、助けて~っ!」
何があったかとキッチンに駆け付けると、火加減を間違えたのかモーリィさんが炎に包まれた厨房で中華鍋──特別に作って貰った──を片手に佇んでいた。
またかよ…
ここ数日、私が作った中華料理──例:炒飯──を再現しようとミラーナさん達3人が奮闘しているのだが、毎回の様にキッチンが火事になるのだ。
「いい加減にせんかいっ!」
すぱぁあああああああんっ!!!!
私はハリセン・チョップでモーリィさんを沈黙させ、消火してから焦げて炭化した物体──何を作ろうとしていたかは判別不可能な状態──を捨てる。
食材が勿体無い…
その結果、料理は私が作り直す事になる。
ミラーナさんも、ミリアさんも、同じ様に私が作った料理を再現しようとして毎回失敗している。
結局、食事を作るローテーションは在って無い状態なのだった。
ど畜生!