第127話 私を『聖女』扱いした者──平民限定──の末路は悲惨です
ロザミアへ向かう馬車の中、私達は授与された褒賞を確認する事にした。
今回、ミリアさんとモーリィさんが授与されたのはライトアーマー。
豪華な造りで、あちこちに装飾が施されている。
これって…
やっぱり…
「言っちゃ悪いけど、前に貰った剣と同じでオモチャだね。造りは豪華だけど、機能面を無視してるから『飾り』にしかならないよ」
ですよね~…
素人目に見ても動き難そうだしな…
そして私に授与されたのは、何故か盾。
いや、恐らく『国を守る盾と成れ』って意味なんだろうけどね。
言われなくても、その役目は引き受けますよ♪
私はイルモア王国が大好きなんだから♪
イルモア王国と言うか、ロザミアに居着いたのは偶然だが、そのロザミアの居心地が私には凄く良いんだよ。
ロザミアは『ハンターの街』と呼ばれており、荒くれ者の多い街だけど、同時に人情味溢れる街でもある。
それが気に入ってるんだよ。
イルモア王国を守る事はロザミアを守る事になるんだから、当然イルモア王国は守りますよ♪
「エリカちゃんに盾って、ど~ゆ~意味なんだろうな?」
キョトンとした表情で聞いてくるミラーナさん。
解らんのかいっ!
いや、私の考えた意味も想像でしかないけど…
だけど、普通に考えたらそ~ゆ~意味だろ。
「国を守る盾ねぇ… 守るったって、直接戦闘に参加するワケでも無いんだしなぁ…」
いやまぁ…
そりゃ、参加しろってんなら参加しても良いけど、私が本気になったら一発で終わっちゃいますよ?
なにしろ、どんな魔法でも無制限で使えるんですから。
その気になったら核撃魔法で一瞬の内に敵が消え失せますよ?
「「「それはやり過ぎ」」」
全員がジト目で私に突っ込みを入れる。
やり過ぎですか、そうですか…
────────────────
私達の馬車は飛ばしに飛ばし、普通なら10日──馬車を走らせ続けて──掛かる距離を僅か5日で走破した。
私が馬に魔法を掛け、全力疾走しても疲れず腹も減らず眠らない様にしたのだ。
ついでに御者さんにも。
…ドーピングとも言う。
ゴメン。
1日でも早くロザミアに帰りたかったんだよ。
アリアさんの事が心配だったのは勿論だけど、何より戦場食堂でレシピを聞いたフライドポテトと唐揚げを作りたかったから…
それと、餃子も再現したかったし…
食い意地が張ってるって言わないで下さい。
ただ問題なのは、ロザミアに牛脂を売ってる店が在るかどうかだ。
戦場食堂ではフライドポテトや唐揚げを植物油ではなく、牛脂を使って揚げていた。
それがあの美味しさの秘密だったんだから、今更植物油で作ろうとは思わない!
て、牛脂が無けりゃ、どうしようもないんだけどね…
とかなんとか考えてる内にロザミアに到着。
何ヶ月振りだろうか…
門の外で御者さんと別れ、無事に私達は帰還した。
勿論、ドーピングの魔法は解いておきました。
治療院へ帰る道すがら、先に戻っていたハンターの兄ちゃん達が声を掛けてくる。
「お帰り、エリカちゃん♪ また表彰されたんだって?」
「エリカちゃん、王都はどうだった?」
「エリカちゃん、待ってたぜ♪ 遅れ馳せながら、戦勝祝いに皆で飲もう♪ 詳しい事は決まったら連絡するよ♪」
ふとミラーナさん達を見ると、3人は地面にしゃがみ込んでイジケていた。
をゐをゐ…
「アタシだって活躍したし、ロザミアの住人なのに…」
「私もですよ… なのに皆、エリカちゃんエリカちゃんって…」
「私達の存在って、そんなに希薄なのかなぁ…?」
面倒臭いな、こいつら…
私はハンターの兄ちゃん達に目配せし、ミラーナさん達をチョイチョイと指差す。
「ミ… ミラーナさん達の活躍も聞きましたよ!」
「ミリアやモーリィも表彰されたんだってなぁ!?」
「3人共、凄えよなぁ!」
3人はスクッと立ち上がり…
「「「いやぁ~、それほどでもぉ~♫」」」
調子が良いな、こいつら…
その時、誰かがタッタッタッと近付き…
「エリカさ~んっ!」
どすぅっ!
と、アリアさんが思いっ切りタックルをブチかまして来た。
「おふぅっ!」
勢いに負けて、私は尻餅をついてしまう。
アリアさんの体重が加わって、かなり痛いんですけど…
「エリカさぁ~ん! 何ヶ月も治療院を空けるから、もう帰ってこないのかと思いましたよぉ~!」
アリアさんは涙をダバダバ流しながら私にしがみつく。
号泣する程の事かい…
「帰ってこないワケありませんよ。私の帰る場所は、ロザミアしか無いんですから♡」
私は大泣きのアリアさんの身体に手を回し、背中や頭を撫でながら言う。
「それを聞いて安心しましたぁ~! エリカさ~ん、お帰りなさぁ~い!」
アリアさんは私をギュ~ッと抱き締め、泣きながら言葉を続ける。
「アリアちゃん… ホント、エリカちゃん一筋だなぁ…」
「エリカちゃんの事、心の底から尊敬してるみたいですからねぇ…」
「尊敬って言うか、憧れてるって言うか… もしかしてアリアちゃんもエリカちゃんの事、聖女だと思ってんじゃないかな?」
…聖女ぉおおおおおお?
私は得意(?)の殺意を込めた笑顔でモーリィさんを睨む。
「エリカちゃん… その笑顔、コワいよ…」
「エリカちゃん… モーリィを殺したりしないわよね…? 死なないけど…」
顔をひきつらせ、後退るミラーナさんとミリアさん。
「な… なんで…? ルグドワルド侯爵様やマインバーグ伯爵様から聖女って言われても、怒ってなかったじゃん…」
顔面蒼白のモーリィさん。
「侯爵様や伯爵様に対して威圧できると思いますか? それに私、お2人から『聖女』と言われる度に不満な表情だけは見せてましたよ? お2人が気付いていたかは知りませんが…」
私はアリアさんからソッと離れて立ち上がり、ジリジリとモーリィさんに近付く。
「いや… あの… 私はてっきりエリカちゃん自身、聖女なのを自覚してるのかな~と思って… ねっ♡」
『♡』なんか出しても無駄だからね?
「ミラーナさ~ん… ミリアさ~ん… しっかり押さえていて下さいね~♡」
「「はいっ!!!!」」
私に指示され、素直に従う2人。
モーリィさんの両脇を、ミラーナさんとミリアさんがガッシリと掴む。
さすがの『パワーファイター』モーリィさんも、この2人に掴まれていては身動きがとれない。
私は異空間収納から『対ミラーナ仕様ハリセン』を取り出し…
ずぱぁあああああああんっ!!!!
どべしゃぁあああああああっ!!!!
さすがに『対ミラーナ仕様ハリセン』の威力は凄まじいの一言に尽きる。
なにしろ、人間を簡単に吹っ飛ばせるんだからな。
マトモに食らったモーリィさんは、潰れたヒキガエルみたいな格好で地面にめり込んだのだった。
私はアリアさんに向き直ってニッコリと微笑み…
「心配させちゃったお詫びに、戦場の食堂で教わった美味しいフライドポテトと唐揚げをご馳走しちゃいます♡ それを作るのに必要な牛脂を買いに行きましょう♡」
「…はいっ♪ 久し振りのエリカさんの手料理、楽しみです♡」
牛脂が売ってりゃ良いけど…
「あ… アタシも一緒に行くよ!」
「私も~!」
ミラーナさんとミリアさんも慌てて付いて来る。
そして私達4人は商店街へと向かい…
無事に牛脂を手に入れて治療院に戻った私達が目にしたのは、未だ地面にめり込んだままのモーリィさんの哀れな姿だった…