第126話 ロザミアへの帰還は、王都からの逃亡と同義ですか?
私が王妃様や王女様達から解放されて謁見の間に戻った時、まだ式典は続いていた。
良かった、間に合ったか…
国王陛下が何やら話し続け、ミラーナさんは王族だからか壇上で退屈そうに座っている。
その横には、私と一緒に戻った王妃様と王女様達が座るところだった。
私はフラフラと最後列に座っているミリアさんとモーリィさんの隣に座る。
「エリカちゃん、良かったねぇ… お風呂で時間、潰せてさぁ…」
良くねぇよ、モーリィさん…
3人から洗われまくってヘロヘロなんだよ、こっちは…
「ホントよぉ… こんな事、言っちゃいけないんでしょうけど、退屈だったのよぉ…」
ミリアさん…
ヘロヘロになるのと退屈なのと、どっちがマシだと思ってんだよ…
「それにしても… 私が拉致されてから3時間は経ってると思うんですけど、まだ終わってなかったんですね…」
2人は疲れた様子で言う。
「予定では2時間らしいから、本当なら終わってる筈なんだけどね…」
「エリカちゃん達が戻って来ないから、国王陛下が予定外のスピーチしてるトコよ…」
私の所為…
いや、王妃様や王女様達の所為だな…
悪気は無いんだろうが、余計な事をしてくれたモンだ…
さすがに王妃様や王女様達に対し、面と向かって文句を言うヤツは居ないだろうけど…
ミラーナさんなら平気で言うだろうけどな。
「それでは、最後の表彰を行うとしよう! 今回の戦で新兵器を2つも考案し、敵を撃退する多大な功績を挙げた者! エリカ・ホプキンス魔法医に特別功労賞を授ける!」
「は… はいっ!」
言われて私は席を立ち、盛大な拍手の中を舞台に向かって歩く。
いつもの事だが、私の表情は遮光器土偶だ。
いや、にこやかな笑顔を作ってるつもりなんだけどね…
私は舞台に上がり、陛下達にカーテシーで挨拶する。
「大儀であったな、エリカ殿。此度の戦では新兵器を2つも考案し、勝利を収める原動力となった事に疑いは無い。その功績を称し、褒美を取らせる」
宰相のランジェス大公がリボン付きの巨大な平たい箱を手に取ると、ロザンヌ様が横から箱を奪い取る。
をいをい…
「エリカちゃんには私が渡しますわ♡」
箱を両手に持ったポーズで固まるランジェス大公。
伯父さんだからなのか、自分達の方が身分的に上だと思ってるからなのか知らないが、それはちょっと不躾だぞ…
ミラーナさんに似てきたと思うのは、私の気の所為だろうか?
さすがにキャサリン様は成人して自覚を持ってるからか、大人しく座っている。
お姉さん──長女じゃなく、次女──を見習えよ?
「エリカちゃん、これからもイルモア王国と国民を守ってね♡ 表彰、おめでとう♡」
ロザンヌ様は屈託の無い笑顔で私に記念品を渡してくれる。
「ありがとうございます♡ 国や国民を守る為に、これからも魔法医として精進致します♡ その為にも、お風呂で私の心身を疲弊させないでくれると嬉しいんですけど…」
ここぞとばかりに私はズバッと本音を言う。
「それは無理ですわ♡ 少なくとも、私やキャサリン姉様が嫁いで王宮を離れるまでは諦めて下さいね♡」
王宮に居る限りは私が来る度に風呂で洗いまくるって宣言かいっ!
くそっ!
ミラーナさんみたいに『王女の自覚の無いハンター』とかだったら遠慮無くハリセンで殴ってやるのに!
私は何かしらの難癖を付けてミラーナさんを殴り、憂さ晴らしをしようと心に誓ったのだった。
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表彰式が終わり、私は割り当てられた部屋に入る。
私はベッドに倒れ込み…
「疲れた~… 滞在予定は立ててないし、明日にでもロザミアに向けての馬車を用意して貰おうかなぁ…?」
「「それ、賛成!」」
何故か同室のミリアさんとモーリィさんがハモって同意する。
まぁ、気持ちは解るよ。
結構長い間、ロザミアを離れてるからなぁ…
ホームシックってワケじゃないだろうが、そろそろ私もロザミアに帰りたい…
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よし、帰ろう!
「ミリアさん、モーリィさん、ミラーナさんを連れて帰りますよ!」
「「はいっ!?」」
目を丸くして固まる2人を尻目に、私はミラーナさんの部屋に向かう。
長い廊下を歩き、ミラーナさんの部屋の前で立ち止まる。
来た方向を見ると、2人がドレスに足を縺れさせそうになりながら急ぎ足で歩いて来る。
私はドアを開け…
「ミラーナさん、ロザミアに帰りますよ!」
「ほぇっ!? 何っ!? もしかして今から帰るってのか!?」
ベッドに寝転び、リラックスしていたミラーナさんは、突然の私の宣言に目を白黒させている。
が、そんな事は関係無いのだ。
治療院の事も気になるし、アリアさんの負担も限界か、それに近い状態かも知れないからな。
さすがに今回は、あまりにも長く治療院を空け過ぎた。
「なるほどなぁ… エリカちゃんの言う通り、治療院を空けてる期間が長過ぎたな… アリアちゃん、かなり疲れてるだろうな…」
言いつつミラーナさんは立ち上がり、ドレスからライトアーマーに着替え始める。
「アタシは今から馬車を手配する。皆は部屋に戻って出発準備をしておいてくれ。妹達、弟達には黙っておこう。気付かれると煩いからな」
これは──難癖を付ける──チャンス!
すぱぁあああああああんっ!!!!
べしゃぁああああっ!
「あ痛ぁっ!」
私のハリセン・チョップを食らい、ミラーナさんは半裸──着替えの途中だったからな…──で床に倒れる。
「せめて帰りの挨拶ぐらいしないと失礼でしょうが! ミラーナさんは身内だから後で知らされば良いと思ってるかも知れませんが、私達みたいな平民にとっては無礼極まりない行動なんですからね!」
「なんかゴメン… あいつらだったら2~3日ブーたれるだけだと思ったから…」
そう言い訳するミラーナさんの姿は、まるで潰れたヒキガエルみたいだった…
その後、私達は用意して貰った馬車に乗り込み、国王一家に別れの挨拶を済ませてロザミアに向かって出発した。
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よっしゃあぁあああああああっ!
これで王都からと言うか、王族の女性3人からの『私と一緒にお風呂に入って洗いまくる攻撃』からの脱出成功!
キャサリン様とロザンヌ様がミラーナさんを『鬼の様な目付き』で睨んでいたが、私が睨まれていたワケじゃないから問題無し!
さぁ、心身共にリラックス出来るロザミアに帰るぞ~っ!!!!