第125話 お風呂攻撃からは逃げられませんでした(泣)
ルグドワルド侯爵領の『フィクセルバート』を出発して、早くも10日が過ぎ…
やって来ました王都ヴィラン。
なんか最近、しょっちゅう来ている気がするけど…
私達は王宮へ入る前にドレスへと着替える為、王宮に近いルグドワルド侯爵の王都邸に立ち寄った。
「何度着ても落ち着かないわよねぇ… やっぱりギルドの制服かライト・アーマーの方が良いわよねぇ…」
ミリアさん…
その気持ち、すっげぇ解るよ…
「だよねぇ… 滅多に着る事がないから良いけどさ、毎日だと息が詰まりそうだよねぇ…」
確かになぁ…
着慣れていない所為かも知れないけど、妙に疲れる気がするんだよ…
「私もドレスって嫌い… とまでは言いませんけど、いまいち好きになれないんですよねぇ。動き難いですし、気疲れするって言うか…」
気疲れの主な原因は、上流階級の人達と会うってのが根底にあるんだろうけどな…
まぁ、この国の王族は、とても王族とは思えない『気さくな人柄』なんだけど。
ただ、こちとら生まれつきのド庶民なんだから、貴族──それも侯爵や伯爵といった上級貴族──に会うとか、ましてや王族に会うなんて考えた事も無かったんだよ…
その思いが根底にあるから気疲れするんだろうけど…
ルグドワルド侯爵やマインバーグ伯爵と気軽に話したり、王族であるミラーナさんをハリセンでシバき倒したりしてても平気なのに、ドレスを着る事には妙な違和感があるんだよなぁ…
あ、そもそも私の中身が男だからですか、そうですか…
「アタシもドレスって苦手なんだよなぁ… この長いスカートが邪魔なんだよ… パンツルックの方が動き易いのになぁ…」
ミラーナさん…
それ、そもそもドレスぢゃ無ぇよ…
私は結局、王宮での対策──王妃&王女達に浴室へ拉致されるのを回避する方法──を立てられないままルグドワルド侯爵邸を後にしたのだった。
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「おぉ、エリカ殿♪ ようこそ、いらっしゃいました♪ 陛下がお待ちかねですぞ♪」
言いつつ手を差し出し、握手を求める知らない爺さん…
私はそれに応えて握手…
いや、手を握り込まれてるだけだよ…
手のサイズが違い過ぎるわ…
「は… はぁ… あの、お会いした事は…」
「ありません。初見にございます」
ですよねぇ…
こんな人の良さそうで穏やかな顔した上に、フッサフサの見事な白髪の爺さん、一度見たら忘れないだろう。
「久し振りだなぁ、サルバドール伯父さん♪ 元気そうで安心したよ♪」
「あの~、ミラーナさん? この人は…?」
私が尋ねると、ミラーナさんはハッとして紹介してくれる。
「あぁ、この人はイルモア王国の宰相──総理大臣・首相──で、サルバドール・フォン・ランジェス大公だ。父上の腹違いの兄で、アタシの伯父貴だよ。言っちゃ悪いが、妾腹の所為で国王に成り損なった悲運の男だね♪」
にこやかに言うミラーナさん。
おいおい…
言ったらマジで悪いだろうが…
少しは言葉を選ばんかい。
「おいおい、ミラーナ… それを言ったら私の立つ瀬が無いではないか。まぁ、事実だから否定のしようも無いがな♪ ファッハッハッ♪」
笑うのかよ、おっさん…
まぁ、国王っていう重責を担う職務に比べたら気楽なんだろうけどな。
「そんな事よりエリカ殿。陛下達がお待ちかねですぞ♪ 早速ですが、謁見の間へ参りましょう♪」
言って歩き始めるランジェス大公。
…って、あれっ?
「ミラーナさん、2つ質問があるんですけど…」
ランジェス大公の後に続いて歩きながら、私は小声でミラーナさんに話し掛ける。
「質問? 2つ? 何だい?」
「まず1つ目。ランジェス大公って、誰に対してでもあんなに腰が低い方なんですか?」
ミラーナさんは少し考え…
「相手に依るかな? 実力も無いのに偉そうなヤツには厳しいけど、実力があるのに謙虚な人には優しい人だな。まぁ、当然っちゃ~当然かな?」
それは解るな…
私も同じかも知れない。
前世でも、他人の事を批判するヤツに限って批判してる事は出来なかったりするんだよ。
他人のYohTubeを批判するヤツ、他人のblogを批判するヤツ…
酷いヤツは誹謗中傷までしやがる。
けど、批判や誹謗中傷するヤツはYohTubeもblogもやっていない。
批判や誹謗中傷するのは好きでも、逆に批判や誹謗中傷されるのが怖いんだろうな。
そんなヤツは、大抵が似た者同士で連んでるチキンだからな。
そんなヤツ等は1人じゃ何も出来ないんだよ。
実力が無いのに偉そうなヤツってのは、そんな連中の事なんだろう。
「成る程ですね、納得しました。では、2つ目。ランジェス大公って、ミラーナさんの伯父さん… 国王陛下のお兄さんなんですよね? 国王陛下やミラーナさんは『フェルゼン』なのに、何故『ランジェス』なんですか?」
「それは家庭の事情と言うか、王族の事情と言うか… 他国からすると、国王も大公もフェルゼンだとややこしいんだよな。で、便宜的に奥さんの苗字を名乗ってるんだよ」
成る程ねぇ…
他国内での話で『フェルゼン殿』とか言った時に、国王の事なのか大公の事なのか判り難いだろうからな。
そんな事を話してる内に謁見の間に到着した。
そして開かれる扉。
相変わらず巨大な扉だなぁ…
その扉が開け放たれた瞬間、私に飛び掛かる4つの物体…
いや、それはミラーナさんの弟妹──キャサリン様・ロザンヌ様・フェルナンド様・ローランド様──だった。
私は一気に押し倒され、4人にのし掛かられる。
「ぶぐぇっ!!!!」
変な声が出たぢゃねぇか!
てか、重いっ!
4人全員の体重が私の全身を押し潰す!
よくもまぁ、私の小さな身体に4人全員が乗れるモンだ…
って、感心してる場合ぢゃないっ!
「お… 重いですっ… 潰れるから退いて下さい…!」
「あら、それは大変ですわ♡ それに、床に倒れて汚れたかも知れませんわ♡」
「それじゃ、お風呂で洗わないといけませんわね♡ エリカちゃん、お風呂へ行きましょう♡」
言いつつ私を浴室へと拉致するキャサリン様とロザンヌ様。
テメー等、絶対わざとだろ!
「あらあら♡ それじゃ、私も一緒に入って手伝わないといけませんわね♡」
いそいそと後から付いて来る王妃様。
これ、絶対に計画してただろっ!
私を風呂で洗いまくる為に、計画してやがったな!
3人に浴室へと連れ去られる私を、呆然とした表情で国王陛下を含めた貴族達が眺めていた。
そして私は、3人の女性陣から2時間も好き放題に洗われまくり…
表彰式では疲労困憊で、国王陛下の話は勿論、何から何まで記憶の片隅にも残っていなかった。
早くロザミアに帰りてぇ~…