第123話 女性に対し、下手に年齢を聞くのはご法度ですよね?
そして夜になり、宴会は始まった。
テーブルの上には所狭しと並べられたブランデーやウィスキーの瓶。
その間に並ぶ豪勢な料理。
いつの間にか、ルグドワルド侯爵の子女達もテーブルに着いていた。
特に娘さん達から注目を集める私のドレス。
「なんて素敵なドレスなんでしょう… お父様、私にも買って下さいまし♡」
「お姉様だけズルいですわ! お父様! お姉様に買うなら、私にも買って下さいましね♡」
娘2人からせがまれて、ルグドワルド侯爵は困り顔。
「ま… 待ちなさい! エリカ殿… 確かそのドレスは陛下から、前の戦での功績を称えられて賜った物であったかな?」
「はい… 王妃様の話では、金貨5000枚だそうです。そうとは知らず、ミリアさんは王都からの帰りの宿場町で私に気軽に着させていたんですが… 王妃様がロザミアを来訪された折りに事実を知り、床に突っ伏して謝ってました…」
「それ… 言わないで欲しかったな…」
真っ赤になって俯くミリアさん。
知らんがな…
ルグドワルド侯爵は値段を聞いて表情が固まり、更に青褪める。
「お父様… 同じドレスは諦めます…」
「わ… 私もですわ…」
娘さん達も青くなっている。
うん、気持ちは解るぞ。
こんな高価なドレス、着ているだけでも冷や汗モンだからな…
「…ジェニファー、どうした?」
「…いえ、何でもありませんわ♡ 私も素敵なドレスだと思ってただけですの♡」
にこやかに笑って答えるジェニファー様。
だが、その頬を一筋の汗が流れるのを私は見逃さなかった。
回復祝いと称して強請るつもりだったな?
「そうか… それなら良い。この様な高価なドレス、さすがに3着も買えんからな。1着だけでも、いざと言う時の蓄えに影響を及ぼしかねん…」
はて?
さすがに3着揃えるのは厳しいかも知れないけど、侯爵家なら1着くらいは買えそうだけどな…
「自分で言うのも何だが、私もルグドワルド侯爵も善政を敷いておってな。領地の税率は3割にしておるのだ。なので領主である我々の生活は、少し裕福な平民程度なのだよ」
私の疑問に答えてくれるマインバーグ伯爵。
あぁ…
それじゃあ金貨5000枚ものドレス、気軽に買えんわな…
てか、この国の貴族って、そんなに平民想いなのか?
「まぁ、殆どの貴族は治める地の税率を5割に設定しておるな。税制の良い所で4割、悪い所は少し高くて6割。それもギリギリで、だ。それ以上に税を課せば、暴動が起きかねん。余程の場合には7割にする事もあるが、それは戦等で必要に迫られた場合の一時的な処置として止むを得ずだ」
「…聞いた話だがな、ルドルフ。チュリジナム皇国の税率は7割だか8割だったとか… 皇帝が有無を言わさず設定したらしい。今回のクーデターも、それが原因の1つではないか?」
頷くマインバーグ伯爵。
「それは私も聞きましたな。国民の不満は溜まりに溜まってたとか… 遅かれ早かれ、クーデターなり暴動なりは起きていたでしょう」
そりゃ稼ぎの7割も8割も税で取られたらなぁ…
間違い無く、国民の生活は逼迫しまくってただろうな。
「さあさあ、暗い話はそこまでにしよう! ジェニファーさんの回復祝いなんだから、もっと楽しくやろうぜ♪」
ミラーナさんがパンパンと手を叩きながら、場の雰囲気を良い意味でブチ壊す。
「…それもそうですな。では、今夜は我が妻ジェニファーの回復。ミラーナ王女様の来訪。マインバーグ伯爵の来訪。ミリア殿とモーリィ殿、戦で大活躍した女傑2人の来訪。そして、フィクセルバートの魔法医全てが治療不可能と診断したジェニファーを見事に治したエリカ殿の来訪を祝し、乾杯!」
「「「「「かんぱ~い♬」」」」」
なんか最近、同じ様な台詞を聞いた気が…
そして、やはり見た覚えのある光景。
それは次々と空になるブランデーやウィスキーの瓶。
その殆どをミラーナさんとジェニファー様の2人だけで飲み干していた。
明らかに食うより飲んでる量の方が多いだろ…
てか2人共、その身体の何処にその量の酒が消えてんだよ…
「いやぁ~、やっぱりブランデーもウィスキーもストレートが一番だなぁ♡ この喉越しが何とも言えないねぇ♡」
「あらぁ~♡ ミラーナ様、イケる口ですわね♡ 仰る通り、この喉を通った時の熱い余韻が堪りませんわ♡」
酒豪の会話には付いて行けんわ…
呑兵衛の2人は放っておいて、私は他の人達と食事をしながら会話。
2人の娘さんは私を挟む様に座り、まじまじとドレスを眺めつつだから話し難くて仕方無い!
言えんけど…
それに対して息子さん──グランツ様──はドレスに興味が無い様で、ひたすら私について質問してくる。
フェルナンド様みたいだな…
いや、趣味とか好き嫌いを聞いてくるって、まるでお見合い…
って、まさかと思うけど…
「レディーに聞くのは失礼とは思いますが、エリカちゃんは何歳ですか? ちなみに僕は12歳なんですけど…」
「前年の秋で27歳になりました♡ 見た目は10歳程度なんですが、不老不死なモンで永遠の10歳ってヤツですね♪」
固まるグランツ様。
うんうん、フェルナンド様も固まってたかな?
歳下だと思ってた相手が、自分より倍以上も歳上だとなれば固まるのも無理はない。
…て、娘さん達も固まってるよ、オイ…
「27歳… それって…」
「そんな… そんな事って…」
なんか、変な風に驚いてるな…
「「行き遅れ!?」」
ハモって言うな!
そもそも私は誰とも結婚なんてする気はないんだっ!
見た目は少女でも中身は男なんだからな!
絶対に言えんけど!
「ミラーナさん! 笑わないで下さい! ミリアさんとモーリィさんもです! 2人だって私より2歳若いだけで、25歳なんでしょ!」
「それは言っちゃダメっ! 言わないでぇえええええええっ!!!!」
「いやぁああああああっ!!!! エリカちゃんの裏切り者ぉおおおおおおっ!!!!」
ルグドワルド侯爵もマインバーグ伯爵も笑わんでくれっ!
「あらあら… そんな事より皆さん、私のお酒に付き合ってくれません? これが私にとって最後の暴飲なんですから、虚しい歳の話より盛り上がりませんこと?」
虚しいって言われると、余計に虚しくなるんですけど…
まぁ良いか…
歳の事を言われて飲みたくなったトコだ。
「てなワケで、グランツ様も付き合って下さいな♡ てか、付き合ってくれますよね?」
「へっ? 何が“てなワケ”なのか解らないんだけど… それより僕は成人前で…」
「いやいや、レディーに歳を聞いちゃったんですからねぇ♡ 聞いただけで答えたのは私の勝手とか言わせませんよ?」
私はグランツ様の胸ぐらを掴み、満面の笑顔で説得する。
「エリカちゃん… 笑顔だけど殺意が滲み出てるわよ…?」
ミリアさんが青褪めた顔で言う。
「侯爵様や伯爵様もドン引きなんだけど…」
モーリィさんに言われて見れば、ルグドワルド侯爵とマインバーグ伯爵も青褪めた顔で後退っている。
しかし、そんな事は関係無い。
私はブランデーを一瓶一気に飲み干し、部屋に居た全員──給仕で控えていた侍女やメイドを含む──にも酒を(無理矢理)飲ませたのだった。
そして…………
気付いたら朝になっており、全員──ミラーナさんとジェニファー様を除く──が床でブッ倒れていたのだった。




