第121話 誰にでも勘違いはありますよね?
病が治ったマインバーグ伯爵夫人は、大喜びで私達に豪勢な食事を提供してくれた。
そしてテーブルに所狭しと並べられたブランデーの瓶。
おいおい…
私達の分もあるんだろうが、多過ぎるだろ…
見た感じ、料理3割ブランデー7割だぞ…
肝硬変が治ったからって、また酒浸りの生活を続けたら元の木阿弥だぞ?
「それはまぁ、そうなんですけど… 今夜は病が治ったお祝いと言う事で特別ですわ♡ 明日からは控えますので、今は大目見て下さいな♪ で、エリカちゃんに相談なんですけど…」
伯爵夫人が言うには、飲酒量を減らせる魔法を自身に施して欲しいとの事。
自分の意思で減らせる自信がないんだとか…
意志薄弱かよ…
それはともかくとして、普通に考えればそんな都合の良い魔法なんて無いんだが…
私はどんな魔法でも無制限に使えるので、魔法を創造するなんて朝飯前。
てなワケで、彼女にとって今夜は最後の暴飲。
翌朝の出発前に、毎食グラス一杯だけで程好く酔える様な魔法を掛ける事で合意したのだった。
「それでは… 今夜は我が妻ミランダの回復。ミラーナ王女様の来訪。ルグドワルド侯爵殿の来訪。ミリア殿とモーリィ殿、戦で大活躍した女傑2人の来訪。そして、メリルマートの魔法医全てが治療不可能と診断したミランダを見事に治したエリカ殿の来訪を祝し、乾杯!」
「「「「「かんぱ~い♬」」」」」
マインバーグ伯爵が音頭を取り、夕食会と言う名の宴会&歓迎会が始まった。
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「私達、夢でも見てるんでしょうか…?」
ミリアさん…
アンタの気持ち、解るよ…
「いや… 頬っぺ抓ったら痛いから、夢じゃないよねぇ…」
モーリィさん…
ちょっと古典的だけど、気持ちは理解するよ…
夕食会が始まって30分が過ぎたかどうかって時点だが、既に半分以上の瓶が空になってるし…
「ルドルフ… ミランダ殿は、斯様に酒が強かったのか? ミラーナ様に引けを取らぬ酒豪、私は初めて見たぞ?」
「いやいや、アレックス殿の奥方様も中々の酒豪と伺っておりますぞ? ミラーナ様やミランダと良い勝負ではありませんかな?」
言われて視線を逸らすルグドワルド侯爵。
おいおい…
貴族の奥方って、酒豪揃いじゃないだろうな?
いくら酒に強くても、毎日こんなに飲んでたら誰でも身体を壊すぞ…
てか、壊さない方がおかしいだろ。
「おい、フィリップ! 何をチビチビ飲んでやがんだ!? もっと豪快に飲めないのかよ!」
ミラーナさん、絡むなよ…
ただでさえフィリップ様は、アンタにブッ飛ばされた経験がトラウマになってるだろうし…
「いや… そもそも僕は酒が苦手だし、飲めば強くなるってのは迷信だって聞いた事が…」
「それこそ迷信だろ!? 飲んで鍛えれば強くなるに決まって…」
すぱぁああああああんっ!!!!
私のハリセン・チョップを食らい、床に突っ伏すミラーナさん。
「飲んで鍛えれば強くなるなんて方が迷信ですから、勘違いしないで下さいね? 酒に強い弱いは生まれつきの体質ですから。そんな迷信を信じてたら、下手すりゃ『急性アルコール中毒』で死ぬ事になりかねませんからね」
「そ… そうなのか? てっきり筋肉と同じで鍛えれば強くなるとばかり…」
ンなワケ無ぇだろ…
「とにかく、お酒に弱い人は飲んでも強くなりませんから。無理強いは止めて下さいね?」
「わ… 解ったよぉ…」
頭を擦りながら起き上がるミラーナさん。
その向こうで私を見るフィリップ様の目が点になっていた。
私、もしかしてやっちゃいました?
「エリカちゃん… だっけ…? やっぱり噂は本当だったんだね…」
「噂… ですか?」
嫌な予感しかしないが…
「エリカちゃんがイルモア王国最強って噂だよ… 今まで何度もミラーナを叩きのめしてるって… まさかと思ってたんだけど、本当だったとはね…」
それかぁああああああっ!
頭を抱えて仰け反る私を尻目に、復活したミラーナさんはミランダ様と酒盛りを再開していた。
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翌朝、私は朝食を済ませるとミランダ様に酒量を抑える魔法を掛ける。
これからはグラス一杯で程好く酔えるので、酒浸りの生活に戻る事はなくなる。
そして出発の時…
「エリカちゃん、助かりましたわ♪ これでもう、お酒で身体を壊さずに済みます♪ また遊びにいらしてね♪」
「ハイ♪ また機会がありましたら是非♪ それでは、これで失礼致します」
言って私達は馬車に乗り、次の目的地であるルグドワルド侯爵領へと出発した。
ちなみにルグドワルド侯爵の領地は、マインバーグ伯爵領から見てニュールンブリンクの大森林を越えた先に在る。
王都からだと馬車で5日程の距離なので、マインバーグ伯爵領からは8日を要する事になる。
だが、これは馬車を走らせ続けた場合なので、実質の行程は2倍になる。
つまりは早くて2週間後の到着になる。
そこで一泊してルグドワルド侯爵の家族の持病を治療。
それから王都に向かうから、王都への到着は3週間以上先になる。
こりゃ、ロザミアに帰るのは2ヶ月近く先になりそうだな…
アリアさんに手紙で詫びなきゃ…
ちょっと長く留守にし過ぎだもんな…
私は最初の宿場町でアリアさんに手紙を書き、早馬で送ったのだった。
「アリアさんの魔力なら大丈夫だと思いますけど、そろそろ戦に参加してたハンター達もロザミアに帰り着く頃ですからねぇ… 責任感の強い人ですから、無理しなきゃ良いんですけど…」
「それなら大丈夫じゃないかな?」
私の心配を余所に、あっけらかんとミラーナさんが言う。
「エリカちゃんがアリアちゃんに手紙を書いてた時、アタシもマークさんに手紙を書いてたんだよ。大した事のない怪我のハンター達が治療院に押し掛けるのを止めてくれってね。いくらアリアちゃんが魔法医として優秀でも、エリカちゃんの最大魔力容量には及ばないから無理はさせられないだろ?」
さすがミラーナさんだな。
破天荒で傍若無人で無鉄砲で無茶苦茶で遥かに人間離れしてても、人情味溢れる人だからな。
すぱぁああああああんっ!!!!
ばごっ!
いきなりミラーナさんのハリセン・チョップを食らい、私は馬車──荷台──の床に顔面をぶつける。
「な… なんで…?」
「「エリカちゃん…」」
ミリアさんとモーリィさんが声をハモらせる。
「「口に出ておったぞ…」」
続けて声をハモらせるルグドワルド侯爵とマインバーグ伯爵。
あ…
私ったら、思わず喋ってたんですね?
それは仕方無いですね、ゴメンナサイ…
てか、この状態なら私はイルモア王国最強じゃないだろ!
せめてミラーナさんと二分してくれても良いと思いませんかねぇ?
…誰も思いませんか、そうですか…
もう良いです、諦めます…
いや、諦めないけど!
せめてイルモア王国最強って汚名(?)は返上したいっ!
私が何に悩んでるか知る由も無い同乗者達は、違う意味──思った事を口に出してしまった事──で慰めてくれたのだった。
…嬉しくないわいっ!
確認作業中、間違って執筆途中でアップしてしまいました(苦笑)
直後に読まれた方は混乱したかと思います。
この場を借りて、お詫び申し上げます。