第119話 王都で私は聖女扱い…… って、なんでやねんっ!
「なんで私がこんな目に遇わされるんですか…?」
私はミラーナさんを睨みながら言う。
ミラーナさんは、気まずそうに目を逸らす。
ここは王都ヴィランに向かう馬車の中。
戦場から直接向かうので、貴族用の豪華な馬車ではない。
戦場に兵士を運んだ馬車の1台を拝借したのだ。
私達4人──私、ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん──に加え、ルグドワルド侯爵とマインバーグ伯爵も同乗している。
「まあまあ、エリカ殿。貴殿も新兵器を開発して戦に貢献したのだ。ロザミアに戻ったとて、否応なくヴィランに招聘されるのは間違い無い。他の貢献した者も、領地や地元に戻ってからヴィランへ招聘されて出向くのだ。ならば、先に行ってノンビリするのも良くはないかな?」
ルグドワルド侯爵が私の姿に同情して慰め(?)の言葉を掛ける。
私は猿轡こそ外されていたが、未だにロープでグルグル巻きにされた状態。
オマケに馬車の幌の骨組みからブラ下げられているのだ。
「ねぇ、ミラーナさん。そろそろエリカちゃん、降ろした方が…」
「ですよねぇ… なんか、エリカちゃんの目が据わってる様な…」
ミリアさんとモーリィさんの指摘に、ミラーナさんの頬に汗が一筋…
「そ… そうだな… もう、そろそろ良いかな…?」
ミラーナさんは骨組みに縛り付けてあったロープをほどいて私を床に降ろし、身体にグルグル巻かれたロープを外す。
私は固まった身体をコキコキとほぐしながらミラーナさんをジト目で見る。
「いやぁ~… ちょっと言い訳させて貰うとぉ~…」
「そんなモン、要らんわぁあああああああああああっ!!!!」
すぱかぁああああああああんっ!!!!
私の渾身のハリセン・チョップでミラーナさんは馬車の外に吹っ飛び…
砂煙を上げながら視界から消えていった。
「侯爵様、伯爵様♡ 馬車は停めずに宿泊予定地まで向かって下さいね♪」
「「了解した!」」
ニッコリ笑って言う私に、何故か青褪めて応える2人。
ちなみにミリアさんとモーリィさんは、馬車の床に首から上をめり込ませた状態で宿場町に到着するまで失神していた。
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「エリカちゃ~ん… いくらなんでも、あのまま放って行くのは酷いじゃんかぁ…」
あの後、私達は馬車で2時間程移動して宿場町に到着。
ミラーナさんは5時間掛けて、徒歩で宿場町まで来たのだった。
「私は8時間簀巻きでブラ下げられてましたけど? それに比べりゃマシでしょ? それより、私達の服はどうするんですか? 私は普段着の上に白衣だし、ミラーナさん達はライトアーマーでしょ? まぁ、ミラーナさんは王宮で着替えられますし、ルグドワルド侯爵様やマインバーグ伯爵様は王都の邸宅で着替えられますけど… 私、ミリアさん、モーリィさんはどうするんですか?」
王都で新しいドレスを買うってのは無理。
戦争しに行ってたんだから、そもそも持ち合わせが無いのだ。
「あぁ、それなら大丈夫。アリアちゃんに早馬で手紙を出して、皆のドレスを王宮に早馬で送って貰う事になってる。アタシ達が王都に着く頃には王宮に届けられてる筈だよ」
手回しが良いな、オイ。
多分、私のドレスは例の銀だろうな。
絶対、目立つだろ…
いや、それより問題なのは王女様達だろう。
また私を風呂で洗いまくろうとするに決まってる!
何とかして回避する方法を考えねば!
「エリカ殿、如何いたした?」
「うむ、何やら表情が強張っている様であるが…」
ルグドワルド侯爵とマインバーグ伯爵が、心配そうに私の顔を覗き込む。
「…えっ? いや、別に何もありません… け… ど……………!?」
その時、私の脳裏に1つの案が思い浮かんだ。
「侯爵様、伯爵様。王都までのルートに、お2人の領地は在りますか? そして、そこを通る事は可能ですか?」
「「我々の領地…?」」
2人は私の言葉にハモって聞き返す。
単なる思い付き+時間稼ぎなんだけど、もしかしたら2人に恩を売れるかも知れない。
…セコいって言わないで下さい。
「えぇとですね… お2人の領地を通れるのであれば、領邸に泊めて頂ければな~と。で、ついでと言っては何ですが、ご家族に持病をお持ちの方が居れば治して差し上げようかと…」
「それは真であるか!」
「願ってもない事だ! 是非とも、お願いしたい!」
私の言葉に食い付くマインバーグ伯爵とルグドワルド侯爵。
居るんだな、持病を持ってる家族が…
「エリカ殿は噂に違わぬ、真の聖女であるな…」
んっ?
「はい。やはり王都での活躍は、エリカ殿が『真なる聖女』である証明だったのでしょう」
んんっ?
何だ、その『真なる聖女』ってのは…?
「うむ… 『知らぬは本人ばかり成り』とは、よく言ったモノだな。覚えているであろう? エリカ殿が初めて王都に招聘された折り、多くの民の病や怪我を治した事を」
あぁ、あの時の事か…
あの時はアリアさんが居なかったから、王都から40人もの魔法医をロザミアに派遣して貰ったんだよなぁ。
その結果、病気や怪我を治療出来なくなった人達が大勢居たから、私が代わりに全部治したんだっけ。
それで私が王都で聖女扱いされてるってのか?
やめてくれっ!
私は魔法医──医者──として当然の事をしただけなんだっ!
治してくれと頼まれただけなんだっ!
いや、病人や怪我人を見たら治したくなるけど!
聖女扱いなんて御免蒙るっ!
ぷしゅぅうううううううぅ………
そんな音が聞こえてくる様に、私は力無くテーブルに突っ伏してしまう。
「とりあえず、我等の領地はルートに在るので問題はありませんぞ♪」
「日程的には王都到着が2日か3日遅れる程度であるな。いやいや、エリカ殿の厚意には感謝しかありませんな♪」
それは良いんだよ…
病気や怪我を治すのが魔法医──医者──の使命なんだから…
ただ、聖女扱いだけは止めて欲しい…
なんでそうなるんだよぉ…
私は完全に脱力し、夕食をヤケ食いしてからベッドに潜り込んでフテ寝するのだった。