第118話 何が何だか分からないけど戦争は終結し、私は連行される事に… って、なんでやねん!
イルモア軍は待機中である。
何故チュリジナム軍が撤退したのか、皇国内で何が起こったのかを調査する為、諜報部隊を派遣。
その結果が判るまで、3㎞程後方に退いて駐屯する事にしたのだ。
だが、ただボケ~ッと待っているワケではない。
私には、やらねばならない重大な使命があるのだ。
「普通だよ。別に特別な塩を使ってるワケじゃない。使う量だって、そこらの食堂と同じだと思うけどな」
あまりにも美味しいフライドポテトと唐揚げ。
そのレシピを料理班長に聞いた答えがこれだった。
あの絶妙な塩加減が、そこらの食堂と同じだと!?
納得できるかぁあああああっ!!!!
絶対、何か秘密があるだろ!
「他と違いがあるとしたら… 『ヘット』を使って揚げてるって事かな?」
「へっと?」
聞き慣れない単語に私は首を傾げる。
「あぁ、ヘットってのは牛脂の事だよ。普通は植物油を使って揚げるんだが、俺は旨味を付ける目的もあって牛脂を使って揚げてるんだ」
なるほど…
それで旨味が増してたのを、私は塩加減だと思っていたのか…
「もしかして、鶏の唐揚げもですか?」
「あぁ、牛脂で鶏肉を揚げるなんて洒落てるだろ? まぁ、これは偶然の産物だけどな。植物油で揚げるつもりが、間違えて牛脂の方で揚げちまったんだ。食ってみたら意外と旨かったんでね。それ以来、牛脂で揚げてるんだ」
そう言えば、ポテトチップスもスライスしたポテトを偶然油に落としたのが発祥とか聞いたな。
他にも、ある料理人の客がフライドポテトが厚すぎると苦情を言って、何度も作り直しをさせたとか。
うんざりした料理人は、フォークで刺せないような薄切りにしてカリカリに揚げ、客を困らせてやろうと考えた。
しかし、料理人の予想を裏切って、この客はこの料理を大変に喜んだって話もある。
これらの話を信じるかどうかは貴方次第。
って、誰に言ってんだ、私は…
何にせよ、偶然の出来事で新しい何かが生まれるってのは、よくある話だな。
ここは偶然に感謝し、ロザミアに帰ったら牛脂を買って再現してみよう。
そして、毎日美味しいフライドポテトと唐揚げを堪能するのだ!
そう決意する私を、同居人達──ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん──は呆れた眼で見ているのだった。
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「はぁっ!? クーデター!?」
諜報部隊が帰ってきて、報告を聞いたミラーナさんが驚いて聞き返す。
「チュリジナム皇国でクーデターが起き、それを鎮圧する為に兵を退いたって事か?」
「いや、その逆ですよ。クーデターを起こしたから兵を退いたみたいです」
クーデターを起こした?
将兵達は戦場に居るのに?
私は勿論、さすがのミラーナさんも意味が分からず、首を傾げている。
「実際にクーデターを起こしたのは近衛兵らしいですね。近衛兵が反旗を翻して皇帝を暗殺。その暗殺自体、チュリジナム軍最高司令官の発案だそうで…」
「近衛兵が皇帝を暗殺…? 発案者は最高司令官…? どうなってんだ…?」
なるほどね。
考えられない話ではない。
古来からクーデターや暗殺の首謀者は側近ってパターンは意外に多いって聞いた事がある。
何故なら成功する確率が高いからだ。
暗殺の対象は、側に信頼できる者しか置かない。
自身の命を狙う者が居ても、信頼できる者が盾となる。
だが、その側近自体が自身の命を狙っていたら?
対象者からしたら、すぐ側に居る者が自身の命を狙うのだ。
防ぐのは難しい。
「それだけ周囲から恨まれてたって事か… まぁ、今回の戦が決定的になったって事かも知れないな…」
ミラーナさんの言葉に、全員が頷く。
あまりにも強引な徴兵。
新兵器に躊躇する兵を先に進める為の、果たされるかどうかも判らない『功績のあった者を、身分を問わず小国の王に任ずる』と言う不確定な約定。
そして、人を人とも思わないチュリジナム皇帝への積もり積もった不満。
クーデターを… 暗殺を起こされる理由は皇帝自身が育んでいたのだろう。
「て~事は、この戦は終わりって事ですね? なら、もう駐屯してる意味も無いですね。引き揚げても良いんじゃないですか?」
「確かに、エリカ殿の言う通りかと… これ以上ここに留まるのは、戦に因る経費を浪費するだけでしょう。ミラーナ様、我々もイルモア王国に戻りませぬか?」
「そうだな… 確かに、これ以上ここに居ても意味は無さそうだ」
私とルグドワルド侯爵の言葉に、ミラーナさんも納得した様だ。
「よし! 戦は終わりだ! 全軍、イルモア王国に帰還する! アタシは国王に報告する為、王都へ向かう。最高司令官のルグドワルド侯爵と、補佐のマインバーグ伯爵は同行してくれ」
「「はっ!」」
ミラーナさんに指名された2人は敬礼して了承する。
「それと、ミリアさんとモーリィさんも王都に同行してくれ。今回の戦でも大活躍だったからな♪ また何か褒美を貰えるかも知れないぜ♪」
「「分かりました~♪」」
『褒美』の言葉に釣られたのか、満面の笑みで元気に返事する2人。
またガチガチに緊張すんじゃ無えのか?
「ついでと言ったらアレだが、エリカちゃんも妹達への土産に持って行こう。ミリアさんとモーリィさんは、エリカちゃんを逃がさない様にね♪」
「「らぢゃ~♡」」
言って2人は私を捕縛し、ロープでグルグル巻きに…
って、ちょっと待ったらんかぁあああああいっ!!!!
何故だっ!
何故こうなるんだっ!!!!
てか、私を土産に持って行くって何だっ!
私を拉致するなっ!
私には牛脂を買って、美味しいフライドポテトと唐揚げを堪能すると言う崇高(?)な目的があるんだっ!
離せっ!
離さんかぁあああああいっ!!!!
必死にもがく私を容赦無くロープで縛り上げるミリアさんとモーリィさん。
コンチクショぉおおおおっ!!!!
覚えてろよテメー等っ!
ご丁寧に猿轡まで咬ませやがってっ!
絶対、酷ぇ目に遇わせてやるからなぁあああああっ!!!!
私は抵抗虚しく、殆ど簀巻き状態で連行されたのだった。