第117話 フライドポテトと唐揚げは諦めません!
「どうしちゃったんでしょうねぇ?」
「あぁ、どうしたんだろ?」
前回の戦闘から数日、チュリジナム軍が攻めて来る気配は無かった。
私とミラーナさんは、石や木片だらけの戦場を望遠鏡で眺めながら考える。
新たな策でも練っているのか、それとも何か問題でも起きたのか…
「結構、倒したモンねぇ。兵の数が足りなくなった可能性って無いのかな?」
モーリィさんの言う事にも一理ある。
確か全部で50万だったかな?
チュリジナム兵が40万で、ハングリルから掻き集めた兵が10万。
まぁ、飽くまでも予想だけど。
この数日の戦闘で、10万近くは減っているだろう。
だとすれば、定義での全滅まで残り5万ちょっと。
可能性は充分に考えられる。
「その予想だと、実際に戦う敵の兵は40万だったわよね? 戦闘要員が4分の1近くも減ったら、かなり厳しいんじゃないかしら?」
ミリアさんの言う通り、敵は厳しい状況であると思われる。
対する味方の損害は皆無に近い。
さすがに死者0というワケにはいかなかったが…
私の元に運ばれた時点で死んでいた者は、無念だが治しようが無かった。
戦争なのだから、死者が出るのは避けられない現実なのだ。
こればかりは割り切るしかない。
その代わり、生きてさえいれば治すのが私の使命。
そしてそれは、100%達成してやったぜ!
「死んじまった者は仕方無いさ。それよりも怪我人を全て完治させたエリカちゃんを賞賛すべきだな」
ミラーナさんの言葉にミリアさんやモーリィさん、リンダさんパーティーの皆さん、更には近くに居る司令官達もウンウンと頷いている。
持ち上げないでくれ!
私は魔法医──医者──として当然の事をしただけなんだから!
「それより、我が軍にも問題が発生してるらしいけど? 何が問題なんだ?」
ミラーナさんの質問に、ルグドワルド侯爵とマインバーグ伯爵が困った様にソワソワする。
周りに居る司令官達も同様に困った様な表情だ。
何だろ?
投石機も弩砲も故障したって話は聞かないし…
「実は、食料で問題が出てまして…」
ん?
食料?
兵站が滞っている様な報告は聞かないけどなぁ…
「兵站線には問題はありません。食料は滞り無く運び込まれております。ですが、特定の食材に不足が出ておりまして…」
ん?
特定の食材…?
いや、まさかだろ…
「特定の食材が不足? そんな事が起こるのか? 兵士達から不満の声は無いのか?」
「兵士達に不満は無い様です。料理班が工夫して、足りない食材の代わりを考えている様であります故… しかし、ジャガイモと鶏肉の不足が著しいとの報告が上がっております。料理班に問い合わせたところ、フライドポテトと唐揚げの消費量が常軌を逸しているとの回答が…」
フライドポテトと唐揚げ…
身に覚えがあり過ぎるんですけど…
いや、まさかだろ。
フライドポテトと唐揚げを毎日食べているのは主に私だ。
だけど、私1人の消費量なんて、たかが知れてるだろう。
知れてますよね?
誰か、知れてると言って下さい。
ほんの数十箱じゃないですか。
いやまぁ、確かに毎日ですけど…
だってだってだって!
美味しいんだから仕方無いじゃん!
フライドポテトも唐揚げも!
絶妙な塩加減が何とも言えないんだから!
とても戦場の簡易食堂で作られたとは思えないんだから!
だから私が悪いんじゃないんだよぉおおおおっ!!!!
美味し過ぎるフライドポテトと唐揚げを作る料理人が悪いんだぁあああああっ!!!!
結果としてフライドポテトと唐揚げの調理は継続されるものの、私が食べられるのは朝昼晩の3食以外の間食として各1箱に制限されたのでした。
Holy shit!
───────────────
「ミラーナ様! 斥候が戻りました!」
「よし、報告を聞こう! 司令官と部隊長は会議室に集合!」
ミラーナさんの言葉で会議室に向かう者、その場に居ない者を呼びに行く者、それぞれが動き出す。
私はフライドポテトと唐揚げを楽しんでいたのだが、そんな私をミラーナさんは有無を言わさず引き摺って会議室へ向かう。
食わせろぉおおおおっ!!!!
私は意地になってフライドポテトと唐揚げの箱を離さなかった。
誰か褒めて下さい。
…無理ですか、そうですか。
会議室では司令官達と部隊長達が斥候の報告に呆然としていた。
仕方無いだろう。
かなりの広範囲に亘って調査したが、チュリジナム軍は何処にも居なかったのだ。
「チュリジナム軍が消え失せたたと言うのか!? 何故だ!? 連中には攻めるしか選択肢が無かったのではないのか!?」
司令官の1人が怒鳴る。
イルモア軍から見て、考えられる結論は1つしか無かった。
兵の損耗に因る戦闘継続能力の不足。
まぁ、普通に考えたら当然の結論だろう。
投石機と弩砲の攻撃だけでも相当な被害を出している。
それに加えて白兵戦での損耗。
チュリジナム軍が兵を退くのも無理からぬ事だった。
「何があったかまでは判らないが、退く理由が出来たって事かも知れないな…」
「しかし、戦場を放棄する理由など… 勿論、このまま戦ってもチュリジナム軍に勝ち目は無いでしょうが…」
ミラーナさんの言葉にマインバーグ伯爵が疑問を呈する。
だが、皇国内で何かしらの問題が起こったとしたら?
それなら軍を退いても不思議ではない。
その問題が何かまでは判らないが。
「フム… エリカ殿の言う事も、考えられない事ではありません。ミラーナ様、皇国内を調査してみては如何ですかな?」
ルグドワルド侯爵が私の意見に同意し、チュリジナム皇国内を調査する事を提案する。
ミラーナさんは少し考え…
「分かった、調査隊を派遣しよう。ロザミアのハンター達の中から選抜する。諜報の得意なヤツが何人か居た筈だ。そいつ等に行かせよう」
言ってミラーナさんは兵士達の簡易宿舎に向かい、司令官達や部隊長達も一緒に行く。
そして私はまたもミラーナさんに引き摺られていた。
どさくさ紛れにパクった、フライドポテトと唐揚げの箱──会議室に置いてあった──を抱えたままで。