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第116話 イルモア王国軍の奮戦と、チュリジナム皇国軍の不穏な空気

「突撃ぃ~ッ! 敵は()(あし)()ってるぞぉ! ()()らしてやれぇ!」


 叫びつつミラーナはチュリジナム軍に向かって走る。


(とっ)(しゅつ)し過ぎるな! 足場の()い所で迎え撃て! 石だらけ、木片だらけの場所を通るのはチュリジナム兵だけで充分だ!」


 ミラーナの号令で、石が散乱する場所の十数(メートル)手前で止まるイルモア軍兵士達。

 対するチュリジナム軍兵士は、この時点で(すで)()(ろう)(こん)(ぱい)

 大量の石や木片が散乱し、雨で泥濘(ぬかる)んだ地面を進んで来たのだから無理もなかった。

 中央・右翼・左翼からイルモア軍とぶつかったチュリジナム軍兵士は、ある意味で運が良かった。

 中央ではミラーナ、右翼ではミリア、左翼ではモーリィが、チュリジナム軍兵士を一瞬の内に天国(ヴァルハラ)へと送り届けていた。

 下手に()られて苦しみながら死ぬ事に比べれば、(はる)かに運が良いと言える。

 (とう)の本人達は、単にチュリジナム皇帝に対する怒りを敵兵士達にぶつけているだけだったが…


「ぅおっしゃあぁあああああっ!!!! 敵は(ひる)んでるぞぉおおおおおおっ!!!! 一気に叩き(つぶ)せぇえええええっ!!!!」


 中央でミラーナが叫ぶ。


()いですよぉおおおおっ!!!! このまま一気にチュリジナム軍を押し(つぶ)しましょぉおおおおっ!!!! この調子なら、イルモア王国の勝利は疑いありませんからねぇえええええっ!!!!」


 右翼ではミリアが叫ぶ。


「行っちゃえ、行っちゃえぇえええええっ!!!! チュリジナム兵が何だぁあああああっ!!!! ()れっ! (たた)けっ! (つぶ)しちゃえぇえええええっ!!!! チュリジナム兵よ、死んで私達の(かて)()れぇえええええっ!!!!」


 左翼ではモーリィがブッ飛んでいた。

 この場にエリカが居たなら『少しは落ち着かんかいっ!』と、ハリセンで殴り倒していただろう。

 ともあれ3人に気圧(けお)され、チュリジナム兵達は(およ)(ごし)になっていた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





()(かん)ともし(がた)い… 我が軍に勝ち目は無い… 私はそう思う… 諸君()()(たん)の無い意見を聞きたい…」


 チュリジナム軍、野戦司令部の簡易会議室で、最高司令官は(ちから)無く()の司令官達に聞く。

 司令官達は(たが)いに顔を見合せて(うなず)く。


「我々も同意見です。このまま(いくさ)を続けても、兵の(そん)(もう)(はげ)しくなる一方(いっぽう)でしょう」


「ですが、皇帝陛下の(めい)である以上、退()く事も出来ません」


「それです! 皇帝陛下に状況報告は(おこな)っておるのでしょう!? 陛下は何と(おっしゃ)っているのですか!?」


 最高司令官に全員の注目が集まる。

 彼は()め息を()いて首を振る。


「陛下は『何としてもイルモア軍を打ち破れ』の(いっ)(てん)()りだそうだ… こちらの現状など、考えてもいないのだろうな…」


 その言葉に全員が愕然(がくぜん)とした。

 脱力して椅子に(もた)れる者、怒りでテーブルを(たた)く者、涙を流す者、反応は様々だった。


「…この様な事を言うのは(はばか)られるが、陛下は何も(わか)っておられぬのではないか? 我が軍の被害は(じん)(だい)(すで)に2割を超える兵が死傷していると言うのに…!」


 チュリジナム軍の兵数は、40万から(わず)か数回の戦闘で30万そこそこまで減っていた。

 2(わり)()近い損耗(そんもう)である。

 全滅とされる定義の3割に近い損耗率(そんもうりつ)であった。


「現状を見れば、既に我が軍は… いや、我が国はと言うべきか… 負けたと言っても良かろう。このまま戦い続けたとて勝てる見込みは無い。チュリジナム皇国はイルモア王国に負けたのだ。異論があるなら聞こう」


 最高司令官の言葉に誰もが口をつぐむ。

 全員が理解していた。

 戦争を継続しても無駄に兵を減らすだけで、全く(こう)(みょう)(みい)()せない事を。


「しかし、どうするのです? このまま皇国に… 帝都に引き()げるのですか? いや、勿論それには賛成です。これ以上の兵を犠牲にする事は()けねばなりません。しかし、皇帝陛下の許可も得ずに戦場を(ほう)()する事は敵前逃亡と見なされ、重大な軍規違反となる可能性が…」


 もっともな意見であった。

 しかし、戦場を知らない皇帝と、嫌と言う程知り()くしている者とでは、判断が大きく異なるのも無理はなかった。

 そして、最高司令官は1つの大きな決意を固めていた。


「諸君が心配するのも(わか)る。だが、皇帝陛下は戦場を… 戦争を知らぬ。戦場を… 戦争を知らぬ者の身勝手な言動を、これ以上(かん)()するのは我慢出来ぬ!」


 最高司令官の怒りに満ちた表情に、誰もが息を()んだ。

 だが、誰もが彼の怒りを理解していた。


「諸君も覚えているであろう。この戦争の… 出陣の時の兵士達の目を。あれはイルモア王国に対する怒りの目ではなく、明らかに皇帝陛下に向けられた怒りの目である事を」


 全員が出陣の時の光景を思い浮かべ、自身も少なからず皇帝に怒りの感情を(いだ)いた事を思い出した。


「私は既に、ベルルーシ王国とカルボネラ王国の(けん)(せい)に当たっている軍勢に手紙を送っている。それは、今回の戦争に納得できない場合、私は状況次第では皇帝陛下を(しい)するつもりである(むね)だ。そして実際、納得できない状況になってしまった… それは諸君も理解している事でもあろう」


「では、最高司令官殿… ()(くん)は…」


 最高司令官はコクリと(うなず)く。


「こうなってしまった以上、是非(ぜひ)も無かろう。別に私が皇帝陛下に取って代わろうと言うつもりは無い。だが、皇帝陛下を(ほう)っておいてはチュリジナム皇国に未来が無いのも事実と言わざるを得ない。こうせざるを得ないのだ。()(じゅう)の決断だと理解して欲しい」


 最高司令官は、肩を震わせ泣いていた。

 彼の話を聞いた司令官達も、心情を理解し泣いていた。

 ここに、チュリジナム皇国と皇帝の(まつ)()が決定したのだった。

 勿論、イルモア王国側には知る(よし)も無く、戦闘は()(れつ)(きわ)めていた。

 その反面、相変わらずエリカは治療所でフライドポテトと唐揚げに(した)(つづみ)を打っていた。

 更に言えば、先日思い付いた『餃子(ギョーザ)』を再現する事にも思いを()せていた。

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