第113話 戦果は上々ですが、調子に乗り過ぎたドジには罰を与えます!
「敵との距離、1000mを切った様です!」
「よし! 弩砲部隊、矢をセットしろ! 敵が700mまで近付いたら射出! 投石機もだ!」
監視兵が叫び、ミラーナが遠距離攻撃部隊に指示を出す。
徐々に緊張が高まり…
「敵の距離、700m!」
「よし! 放てぇっ!」
ミラーナが叫び、投石機と弩砲から一斉に石と矢が放たれる。
毎回、着弾後の一帯は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
しかし、ミラーナは攻撃の手を緩めない。
手を緩める事は、即ち味方に被害が及ぶ事に繋がるからだ。
「第二撃、用意の完了した部隊から放てぇっ!」
ミラーナの号令に投石機部隊と弩砲部隊が準備を急ぎ、次々と発射する。
「よし! まだ敵はモタモタしてるぞ! もう一発ブチかましてやれっ!」
ミラーナが叫び、準備を終えた部隊が3発目を放つ。
チュリジナム軍の被害は甚大だった。
また、その様子を目の当たりにした後続部隊は、精神に大ダメージを食らっていた。
しかし、退く事は出来なかった。
石で潰されたり腕や脚をもがれたり、丸太の様な矢で貫かれた味方の兵を横目に前進を続けた。
「やっぱり退かねぇか… 仕方無い、突撃するぞ!」
言うが早いか、ミラーナは駆け出す。
「ミラーナ様に遅れるな! 我等も行くぞぉっ!」
「「「「おぉおおおおおおっ!!!!」」」」
ルグドワルド侯爵が叫び、将兵達も呼応して一斉に駆け出した。
チュリジナム軍にとって、地獄の中での白兵戦が始まった。
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「ん~… ろうやら白兵戦が始まったみたいれふね。しわらくしたら負傷兵が来るれひょうはら、皆はんも腹ほひらえひほいた方が良いれふよ?」
私は衛生兵達に、テーブルいっぱいに置かれたフライドポテトや鶏の唐揚げを勧める。
「エリカ様… せめて唐揚げを頬張りながら喋らない方が宜しいかと…」
言わないでくれ!
何度でも言ってやるが、フライドポテトも唐揚げも美味しいんだよ!
手が止まらないんだよ!
食べれば解る!
解るんだぁああああああっ!
「ほぅっ! これは確かに!」
「エリカ様の仰る通り、美味ですな!」
「いやぁ、この絶妙な塩加減が何とも言えません! 街のモノより旨いのではありませんかな!?」
よっしゃ!
仲間が増えた!
これで私は悪くない!
悪いのは美味し過ぎるフライドポテトと唐揚げの方だ!
欲を言えば餃子も食べたいトコだが、この世界で私は餃子を見た事がない。
これは是非とも材料を揃えて再現しなければ!
特に戦場では兵士達の疲労回復にも繋がるし、ニンニクの強烈な匂いは白兵戦に於いて、敵の集中力を乱す効果も期待できるからな。
…て、あれっ?
この世界にニンニクって在ったっけ?
「ニンニク… ですか…? 強壮剤の元として薬師が栽培しておりますな。効果が強いので、重病人が病後の体力回復の為に食す目的に栽培されておりますが… それとは別に、食すと周囲への悪臭が酷い為、体力回復を目的とした者以外は口にしませんな」
それは勿体無い。
匂いに関しては、皆で食べれば問題無い。
そして、戦場に於いては強烈な悪臭が有利に働く可能性が考えられる。
良い事ずくめだ。
更に、料理が美味しくなるのだ!
これだけは譲れない!
「エリカ様… やはり食い意地が張っておられるのでは…?」
衛生兵の1人が呟き、それを聞いた他の衛生兵達も黙って頷く。
ど~ゆ~意味だ、テメー等…
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「よっしゃぁああああああっ! 敵は怯んでるぞ! 一気に攻めろぉおおおおおおおおおっ!」
ミラーナは叫び、大振りの両手剣を片手で軽々と振り回しながら敵を屠る。
「遅いっ! そんなんじゃ、私に傷ひとつ付けられませんよ! スピード・ファイターの名は、伊達じゃありませんからね!」
ミリアは片手剣と盾を装備し、戦場を縦横無尽に駆け回って敵を翻弄する。
「どうしたどうした~っ! そんな程度じゃ、このパワー・ファイターのモーリィとは勝負にならないよ~っ!」
モーリィは両手剣を振り回し、敵の剣や盾を弾きながら斬りつける。
リンダ達パーティーも3人に刺激され、得意武器で敵を次々に倒していた。
周りの兵士達も、負けてられないとばかりに奮戦していた。
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「エリカ殿。第6分隊のエリック・フォン・フェルニック子爵です。負傷兵を連れて来ました。手当てを頼みます」
衛生兵の肩を借りて治療所に入ってきたフェルニック子爵も怪我をしている様で、片足を引き摺っている。
「了解です! 負傷兵をベッドに寝かせて下さい! フェルニック子爵様も、こちらのベッドへ! すぐに治療します!」
さぁて、ここからが私の本領発揮だ!
まずは重傷者から。
しかし、ざっと見た感じでは、一番重傷なのはフェルニック子爵。
左大腿部に矢が2本突き刺さっており、刀傷も全身の十数ヶ所に負っている。
他の兵士達も刀傷を負っているが、数ヶ所程度で急を要する深傷を負った者は居ない。
私は治療を施しながら聞く。
「子爵様が一番重傷ですよ? 何があったんですか?」
「いや、不覚を取りましてな。乱戦の中で敵と斬り結んでいる時、脚に矢を受けました。そこへ集中攻撃を受けてしまい、ご覧の有り様ですよ。敵も必死な様子で、侮れません」
だろうなぁ…
上手く功績を挙げれば小国の王に──平民でも──成れる千載一遇のチャンス。
その反面、負ければ死あるのみ。
まさに生か死か。
栄光か死か。
皇国の兵士達が必死なのも頷ける。
チュリジナム皇国自体、負ければ後が無い戦いを挑んでいるんだからなぁ…
だからと言って、こちらも負けられない。
そんな中、ある考えが頭を過る。
もしも私が居なかったら?
この世界に転生していなかったら?
転生先がイルモア王国ではなく、チュリジナム皇国やハングリル王国だったら?
どうなっていただろう?
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いや、考えるのは止そう。
仮に私が居なくても、ミラーナさんが居るのだ。
ミリアさんや、モーリィさんだって居る。
イルモア王国が負けるなんて考えられないだろう。
そんな事を考えつつフェルニック子爵の治療を終え、他の兵士達を治療していると衛生兵が新たな負傷兵の到着を知らせる。
「エリカ様! 次の負傷兵が来ました! 治療を頼みます!」
負傷兵達を見て、私は息を呑んだ。
ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんの3人が担架で運ばれて来たのだ。
全員失神しているが、見た感じでは何処にも怪我をしている様子はない。
「何があったんですか!? まさか毒にでもやられたとか!?」
「いえ、周囲で戦っていた兵の話では、3人は順調に戦い、かなりの戦果を挙げていた様です。ただ…」
「ただ… 何ですか?」
言い淀む衛生兵に、私は続きを促す。
「…3人は調子が良く、かなりの速度で動いていた様です。そんな中、偶然にも同じ相手を仕留めようと動いた様でして…」
…まさかと思うけど…
「三方向からの同時攻撃で仕留めたまでは良かったのですが… 勢い余って互いに激突しまして、ご覧の有り様です…」
前言撤回。
私が居なけりゃ、この3人のドジでイルモア王国が窮地に陥るわ!
私は3人を治療(?)した後、椅子にロープで縛り付けて晒し者の刑に処したのだった。
身体の前後に『私達は戦場で調子に乗り過ぎ、互いに激突して失神した恥晒しです』と書いたプラカードを貼り付けて…
少しは反省しろ!
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