第112話 戦場でも美味しいモノは我慢しません!
一夜明け、私達は敵が攻めて来る前に朝食を済ませる。
ミラーナさんを含む司令官達は、朝食を終えると連れ立って司令部の外に出る。
何故か私も一緒に行く事になってるんだけど…
「そりゃ、エリカちゃんは唯一の軍医だからな。状況把握しといて貰わないとってトコだね。それに、負傷者が出るまではヒマだろ?」
まぁ、その通りなんだけどね。
戦闘が始まると次から次へと負傷兵が治療所に運び込まれて来るから忙しいけど、それまでは確かにヒマと言えばヒマだ。
だが、私には治療所で大切な使命があるのだ。
調理班に頼んでおいたフライドポテト20箱!
これを負傷兵が出始める前に食べ終えなければならない!
いや、朝食はしっかり食べたよ?
でもこれは別腹と言うか何と言うか…
私の食い意地が張ってるワケではない。
美味し過ぎるフライドポテトの所為なのだ。
私が悪いワケではない。
「それ、言い訳だよ…」
「エリカ殿… 昨日1日で78箱も食べておきながら、それは少々苦しい言い分であるぞ?」
「にも拘わらず、朝から20箱も注文するのは如何なモノかと思うのだが…」
ミラーナさん、マインバーグ伯爵、ルグドワルド侯爵が私をジト目で見ながら言う。
周りを見渡せば、他の司令官達も私を呆れ顔で見ている。
「仕方無いんやぁああああああっ! 戦場で作ったとは思えないフライドポテトの美味しさが悪いんやぁああああああっ!」
私は頭を抱えて踞り、悶絶するのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「勇敢なる兵士諸君! 昨日の戦闘、そして前の戦闘で多くの戦友が戦場の露と消えた! 今日の戦闘も激戦となり、また多くの戦友が戦場の露と消えるだろう! 諸君も理解している通り、我々には後が無い! 勝利か死か! これのみが皇帝陛下が我等に望む結果である!」
チュリジナム皇国軍の総司令官が檄を飛ばす。
だが、兵士達の目は虚ろだった。
無理もない。
イルモア軍の新兵器に抗う術は無く、運を天に任せるしかなかった。
更に不幸な事に、攻め込む為の足場は悪くなる一方だった。
前の戦闘と前日の戦闘で大量の石や矢──それも丸太の様な──が転がっており、それが今日の戦闘で更に増える事になる。
躓かない様に慎重な進軍を行う必要がある為、荒れた範囲を抜けるまでは気を抜けなかった。
その為、多くの兵士は『今日こそ死ぬのか』と思って陰鬱な気分だった。
そんな気分の中、進軍の号令が発せられた。
「全軍、イルモア王国軍へ向かって進軍!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「敵影を確認! 距離、およそ1500(m)!」
監視兵の1人が叫び、司令官達が一斉に望遠鏡を構える。
「投石機部隊、石を積み込んでおけ! 弩砲部隊、敵が500(m)に近付くまで待機せよ!」
マインバーグ伯爵が投石機、弩砲の各部隊に指示を出す。
「いや、700(m)だ。少し早めに射出させる」
「ミラーナ様、それは一体…?」
それは私も気になる。
何故、射出を早める必要があるんだろ?
「400m前後の地面を見てみろ。今までの投石機や弩砲の攻撃で石や木片だらけになり、酷く進軍が困難な状態だ。その範囲に敵が侵入する直前に攻撃を開始すれば…」
そういう事か。
「上手く行けば、敵の最前部隊が投石機や弩砲の攻撃を受ける事になりますね。更に大量の石や木片がバラ撒かれる事で、敵の進軍速度を落とせるでしょう。そうすれば3発目を放つ事も可能になりますね。そうなれば更に敵の被害は増し、我がイルモア軍は更に有利になるって事ですね♪」
「エリカちゃ~ん。アタシの台詞、取らないでくれよぉ~…」
私に台詞の続きを取られ、泣き言を言うミラーナさん。
「まぁ、良いじゃないれふか。私だって、たまには決め台詞が欲しいトコれふし♪」
「エリカ殿… せめてフライドポテトを頬張りながら言わない方が宜しいかと…」
ルグドワルド侯爵が呆れた表情で私に突っ込む。
あ、いけね…
治療所に置いていたフライドポテトを近くに居た伝令兵に頼んで運んで貰ってたんだけど、我慢出来ずに無意識の内に食べてた様だ。
ちなみにこの戦場食堂で調理してる鶏の唐揚げ(塩味)も、絶妙な塩加減で美味しいんですっ!
すいません!
昼食の後、1箱7個入りの唐揚げ10箱を治療所に届けて貰う様、注文を入れました!
勿論、フライドポテトも20箱追加で注文してます!
こんな美味しいモン、食わずにいられるかぁああああああっ!!!!
「それはまぁ、何と言うか… 腹が減っては戦は出来ぬと言いますし… いや、私は戦いませんけど… 負傷兵を治療するに当たって、空腹では集中力を欠くと言いますか… とにかくフライドポテトも唐揚げも、私にとっては必要不可欠なモノなんです! だから、そんな眼で見ないで下さ~い!」
叫びつつ、私は残りのフライドポテトを抱えて治療所へ逃げたのだった。
勿論、全部美味しく食べました。
そんなに食べたら太るだろうって?
私は元々太らない体質だし、仮に太ったとしても魔法で戻せるんだから問題無いんだよ!
太るのを気にして美味しいモノを我慢するなんて出来るかってんだ!
と、とても戦場に居るとは思えない事を考えてる私を、ミラーナさん達はジト目で見送っていたのだった。




