第108話 平気なモンは平気なんです!
ユニークが15000人を超えました。
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拳大から人の頭程度の大きさの石が大量に放り出され、更に細身の丸太と言える太さの矢が10本飛んで行く。
各投石機部隊と弩砲部隊の隊員達は次の発射準備に取り掛かり、部隊長は着弾の様子を望遠鏡で確認する。
どちらも上手く命中した様で、チュリジナム皇国軍は大混乱。
いや、阿鼻叫喚の地獄と化していた。
石が腕や脚を直撃した者は、その部分が千切れ飛んでいた。
頭に直撃した者は即死しただけ良かったと言える。
身体に直撃を食らった者は内臓を撒き散らし、悶絶しながら死んでいった。
細身丸太の矢を食らった者は、アーマーを着込んでいたにも拘わらず、身体を貫かれていた。
縦に並んでいた者達は串刺し団子状態になり、口から血の泡を吐きつつ悶絶しながら死んでいった。
戦場を見慣れている筈の者達でさえ、目を背ける悲惨な光景だった。
「こりゃ… 近くに居なくて良かったな… 望遠鏡で見るだけでも嘔吐きそうになるよ…」
ミラーナが眉をしかめて言うと、司令官達は苦笑いするしかなかった。
「まぁ、良いや。2発目の準備が出来た部隊から発射させてくれ。多分、今日はそれで終わりだろう。アタシ達はエリカちゃんに報告しに行くよ。後は任せた」
言いつつミラーナはミリアとモーリィを連れて治療所へ向かった。
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「う~ん……………… これで良かったのかなぁ…………………?」
私は悩んでいる。
1発目を射ち出す号令の後、合図用の旗を近くに居たマインバーグ伯爵に渡してサッサと治療所に引き上げていた。
しばらくしてから報告に来た伝令兵の話を聞き、今日の戦闘の勝利を確信した上で悩んでいるのだ。
「勝ちは勝ち… それは良いんだけど、こんなに圧倒的で良かったのかな…?」
私が懸念しているのは味方側ではなく、敵側の事である。
多分ではあるが、敵側は後の無い戦いを挑んでいる筈。
それが剣を交える事も無く、いきなり飛んで来た大量の石や細身の丸太と言える太さの矢に多くの兵が倒されたのだ。
そして間も無く第2撃が放たれ、更に被害が増す事になる。
対する味方側は、今の時点で全くの無傷。
敵は一旦退き、今日の戦闘はこれで終わりだろう。
そして、一体何がどうなっているのだと言う話になり、少なくとも数日は睨み合いが続く可能性が高い。
長期戦になれば防衛側が有利。
回り込んで敵の補給線を絶てば、敵は餓えや渇きとも戦わなければならなくなる。
「そんな勝ち方や負け方で敵や味方が納得するのかなぁ………?」
そんな事を考えていると…
「何を難しい顔してんだよ」
ポンッと私の頭に手を置いてミラーナさんが話し掛けてくる。
「いや… ちょっと圧倒的過ぎたかな~って思っちゃって… で、戦場の様子はどうですか?」
私の質問にミラーナさんは後頭部をポリポリと掻きながら答える。
「エリカちゃんも想像してたと思うけど、当然ながら味方の被害は皆無。敵はグチャグチャって感じだね。予想を遥かに超えた戦果だよ。凄過ぎるな、あの新兵器は」
言いつつミラーナさんは肩を竦め、後ろに居るミリアさんとモーリィさんは苦笑いしている。
「それでだ。今から新兵器の威力を確かめる為に戦場へ行くんだけど、エリカちゃんも一緒に行かないか?」
ニヤッと笑うミラーナさん。
はは~ん…
ゲチョグロの戦場跡を私に見せて、反応を楽しむつもりだな?
だが、その認識は私という人間を甘く見てると言わざるを得まい。
これでも前世では医科大学を卒業しているのだ。
死体の解剖でも最初から平気だった私を舐めるなよ?
いや、何の自慢にもならんけど…
前世のクラスメートにも『お前には神経が無いのかよ!?』とか言われたけど…
放っといてくれ。
平気なモンは平気なんだ。
私は笑って頷き、ミラーナさんの後に付いて戦場跡に向かうのだった。
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それは普通の人間なら直視するのはキツい状況だった。
いや、キツいなんてモンじゃない。
PTSDを発症しても不思議ではなかった。
むしろ、発症するなと言う方が無理な状況だった。
悲惨な戦場を見慣れている筈の将校達でさえ、目を背ける様な凄惨極まりない光景が広がっていた。
投石機から放たれた石の直撃を食らった者達は、もはや人間としての原型すら留めていなかった。
弩砲の矢を食らった者達は、その矢に身体を貫かれた断末魔の表情を浮かべて死んでいた。
さすがのミラーナさんも眉をしかめている。
ルグドワルド侯爵やマインバーグ伯爵、その他の貴族司令官達も同様だった。
この様な戦場に慣れていないリンダさんのパーティーは、全員が我慢できずに胃の中の物を吐いていた。
ミリアさんとモーリィさんは、多少は慣れていた様なので離れた場所で吐いていたけど…
それほど酷い状況の中、私だけは平気で死体の状態を確かめている。
「フム… 死体の内臓を見ると、チュリジナム皇国軍の食料事情は良くない様ですね。ハッキリ言って、満足する様な食事は与えられていない様です」
私は死体の胃や腸を引き摺り出してはナイフで切り裂き、内容物を確認しながら淡々と告げる。
仕方無いだろ。
この状況、この場では、私は魔法医──医者──としての責務を全うするだけだ。
人間としての感情?
そんなモン、医者としての使命を全うする時に必要あるか?
治せる可能性が1%でもあるなら、その1%を100%に近付ける為に全力を尽くす。
それがダメなら、生きている者を生かす為に有効な情報を集め、それを最大限に活かす方法を考えて実行に移す!
諦めるのは、助けたい相手が死んでしまった時だけだ!
それまでは何があろうと絶対に諦めない!
まぁ、今の状況では目の前に死体しか無いので諦めるも何も無いのだが…
「エリカちゃん、よく平気だな… さすがのアタシでも気分が悪くなるってのに…」
「ん~… こうなっちゃったら人間と言うよりモノですからねぇ… モノだと思えば何とも… 人間だと思うから気分が悪くなるんだと思いますよ?」
私は振り返りもせず答え、作業を続ける。
「さすがと言うか、何と言うか… 目論見が外れちまったな…」
言いつつミラーナさんは肩を竦めて溜め息を吐く。
やっぱりか。
私をゲチョグロの死体だらけの場所に連れて来て、気分が悪くなるのを期待してたな?
「ミラーナさん、知ってるでしょ? 私がこ~ゆ~のは平気だって。生きている人間の身体の中を視れる眼を持ってるんですから、動かない死体なんて何とも思いませんよ♪」
私は血塗れの手を魔法で洗浄しながら笑って見せる。
そんな私を見る司令官達は、まるで怪物と対峙したかの様に怯えていたのだった。
…なんでやねんっ!
シリアス展開(?)の中に笑いの要素を入れるって難しい様な、そうでも無い様な…