第106話 決戦前夜? いや、まだまだだろうと思いますよ?
私達は今、ロザミアのハンター約1000人と共にブルトニア王国へ向かっている。
移動手段は馬車。
2頭立て20人乗り仕様の乗り合い馬車約50台が、1列に並んで進んでいる。
前の戦争と違い、ブルトニア王国が危機ってワケでもないので落ち着いた行軍になっている。
かと言ってノンビリしてるワケでもなく、馬を小走りにさせた行軍である。
その所為もあってガタガタと揺れ、乗り心地は良くない。
まぁ、さすがに馬車酔いする様な軟弱なハンターは居ないみたいだけど。
居たとしても私が治すけど。
ちなみに私達の乗る馬車には女性しか居ない。
当然だろ。
むさ苦しい男共と一緒の馬車でなんて、御免蒙る。
それはともかく、女性ハンターでCランク以上の者は少なく、私達以外にはリンダさん達5人──Dランクだった2人も最近Cランクに昇格──しか居ない。
20人乗りの馬車に9人なので、広々としていて快適──揺れ以外は──である。
「それにしても、プリシラさんとカリーナさんがCランクに昇格してたなんて知りませんでした。お2人共、おめでとうございます♪」
「いやぁ~… やっとの事で受かったよ、ありがとう♪」
少し照れた様子のプリシラさん。
「こ… これで私も一人前として認められるんでしょうか? だとしたら嬉しいですけど…」
ギリギリで受かったらしく、喜んでいるものの自信無さげなカリーナさん。
「これは私の個人的な推察ですが、今回の戦は撤退する敵軍を追撃するのがメインになると思います。なので、比較的安全に経験を積めると思いますよ?」
「「「「「追撃!?」」」」」
リンダさん達パーティー全員の声がハモる。
「はい。えぇとですね…」
私は今回の作戦を簡単に説明する。
新兵器である投石機と弩砲を考案した事。
それらを使用し、混乱した敵が逃げる、あるいは統率が乱れた所を狙って矢を射掛けたり、剣や槍で攻撃する等々…
「なるほどねぇ… だから大量の木材を輸送部隊に運ばせてたのか…」
「組み立てるのは私達でやらなきゃですけどね。設計図はテーマパーク建設の現場監督だったグランツさんが書いてくれたんで問題ありません」
言って私はリンダさん達に設計図を見せる。
「へぇ~、木材とロープだけで作れるんだ。でっかい石は何に使うのかと思ったら、石を投擲する時に本体がブレない為の重しか。で、射程距離は?」
遠距離攻撃に興味津々でプリシラさんが聞いてくる。
同じ武器のカリーナさんも興味深げだ。
「ミニチュアでの実験と計算上では数百mは飛ぶ筈です。投石機は人力でロープを引いて飛ばすので、力加減で距離は変わりますね。拳大の石を大量に飛ばせば、敵に当たらずとも脅威を与えるのに充分でしょう。弩砲も同じく数百mは飛びます。距離は角度で調整可能な仕様になってます。どちらも一発射ってから調整する事になるでしょうね」
私の説明に、ウンウンと頷くリンダさん達。
そこへミラーナさんが割って入る。
「エリカちゃん。この人達の事、紹介してくれないか? 随分と親しいみたいだけど、アタシは知らないからさ…」
言われて私はミリアさんとモーリィさんを見る。
すると2人はスッと視線を逸らす。
臨時パーティーを組んでた事、言ってなかったんかい…
「えぇと、この人達はミラーナさんが居ない時にミリアさんとモーリィさんを臨時でパーティーに誘ったんです。まぁ、彼女達の意識向上って感じですかね?」
ミラーナさんを前に緊張した面持ちで、私の言葉にコクコクと頷くリンダさん達。
「で、こちらがパーティー・リーダーで剣士のリンダさんです」
「リンダです! よ… 宜しくお願いします!」
揺れる馬車の中で立ち上がり、深々とお辞儀するリンダさん。
その様子に苦笑いするミラーナさん。
「もっと気楽にしてくれよ。堅苦しいのって苦手だからさ」
言われてホッとした表情になるリンダさん。
他のメンバーもミラーナさんの軽い雰囲気に緊張が解けた様子だ。
私は残りのメンバーも紹介し、ついでに臨時メンバーになってた時のモーリィさんの失態も話してしまった。
「あぁああああああっ!!!! ミラーナさんには言わないでって言ったのにぃいいいいいっ!!!! ミラーナさんも、笑わないで下さいよぉおおおおっ!!!!」
肩を震わせて笑うミラーナさんに抗議すると共に、私に非難の目を向けるモーリィさん。
「いや、あの時に言いましたよね? 『言わない自信は無いわぁ』って。だから言ったまでです。私を非難するより、自身の迂闊さを反省して下さい」
ぷしゅうぅうううううっ
てな擬音が聞こえてくる様な感じでミリアさんに凭れ掛かるモーリィさん。
『戦う前から味方にダメージを食らわせてどうする』とか言われそうだが、今回はラクな展開になりそうなので誰も文句は言わない。
そうこうしている内に、私達一行は『対チュリジナム皇国軍司令部』に到着したのだった。
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「早速で悪いんだが、戦線はどうなっているのか報告を聞こう」
今回も司令官の1人として参戦しているマインバーグ伯爵が、ブルトニア王国の司令官に到着の挨拶もそこそこに軍議を開いた。
軍議に参加しているのは総司令官を務めるルグドワルド侯爵──この人もミラーナさんに迷惑を掛けられた1人──を始めとしてマインバーグ伯爵にミラーナさん、そして私と伯爵位以上の貴族の皆さん。
何故私が軍議に参加しているのかは謎だ。
マインバーグ伯爵に言わせれば…
「今回の戦での新兵器開発に携わっただけでなく、製作や実験も行った立役者であるからな。ハッハッハッ!」
だ、そうだ。
それを聞いたルグドワルド侯爵も感嘆の目で私を見つつ…
「さすがはミラーナ王女すら叩きのめす剛の者よな。魔法医としての実力も素晴らしいが、この様な物まで考案するとは… 子供だと思って侮れんな…」
投石機や弩砲の設計図を見て、不穏な──私にとって──笑みを浮かべている。
なんか嫌な予感がするんですけど…
「では、ルグドワルド侯爵。早速ではありますが、この投石機と弩砲とやらを組み立てましょうか? 組み立てる前にチュリジナム皇国軍が攻めて来ては、使うヒマすら無くなります」
それは心配無いと思うぞ?
組み立てるだけなら松明の灯りだけでも充分だし、朝になって見た事も無いモノが突然出現している方が敵にとっては衝撃的だろうしな。
てな意見をボソッと言うと…
「おぉっ! さすがはエリカ殿!」
「なるほど… 敵に知られぬ内に組み上げ、驚かす作戦か!」
「くっ! その様な事すら思い付かないとは軍人の名折れ!」
等々、私を賞賛する声が…
チラッと見れば、ミラーナさんの私を見る目も変わっている。
気がする…
気のせいですよね?
誰か気のせいだって行って下さい。
私は目立つポジションなんて要らないんだぁあああああっ!!!!