第105話 イルモア王国は普通の戦闘(?)が出来るんでしょうか?
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「どうやらチュリジナム皇国が動いたようだ」
ミラーナさんが1通の手紙を持ってリビングに入ってきた。
「思っていたより早いですね。で、兵数は?」
「やる気だけは旺盛みたいだな。斥候の話だと50万ぐらいは居るそうだ」
「「「!!!!」」」
ミリアさん、モーリィさん、アリアさん達が驚愕する中、私だけは冷静に話を続ける。
「数だけなら前の戦争の倍に近い兵数ですけど… いくらチュリジナム皇国が大国とは言え、こんな短期間で充分な戦力を揃えられたとは思えませんね。もしかしたらですけど、半数以上は寄せ集めの兵とか?」
「多分そうだろうね。無理矢理参加させられた者が多いんじゃないかな? そんな連中じゃ士気も低いだろうし、正に〝烏合の衆〟って感じなのかも知れないな」
私の推測をミラーナさんが肯定する。
ハングリルを通る際に追加で補充する可能性も考えられるが、こちらも兵力としては数を集めただけになりそうだ。
それより問題なのは…
「進軍方面は?」
「3方向の同時侵攻だけど、カルボネラ方面の北方軍とベルルーシ方面の中央軍に比べて明らかにブルトニア方面の南方軍が多い。カルボネラ方面とベルルーシ方面には5万ずつ程度の兵を送り込んだらしいが、これは牽制の兵だろうな。残り40万の南方軍はハングリルの南側を経由してブルトニア方面へ進行。ハングリルで兵士を補充するにしても、50万前後ってトコだろうな。北方軍や中央軍も兵を補充するだろうが、主力の南方軍に集中して補充する筈だから、どれだけ増えても7万前後ってトコだろうね」
50万と言っても、実際に戦うのは30~40万だと思われる。
残りは輜重──軍隊の糧食・被服・武器・医薬品など、輸送すべき軍需品の総称──輸卒だろう。
いや、無理矢理かき集めた兵士なら、戦意を考えると半数程度しか戦えない──戦う意志が無い──可能性が高い。
元から兵士でない者は、自分の身を守るだけで精一杯だろうからな。
「ちなみに、こちらの兵数は?」
「王都に駐屯している正規軍は、近衛軍を合わせても2万程度だよ。あとは各領主達の私設軍で、全部集めると総勢35万ってトコかな? そこへロザミアを中心とした全国からBランク以上のハンター達を集めて… 40万に届くかどうかって感じかな? Cランクのハンターを加えれば、45万ぐらいは集まると思うけど」
まぁ、イルモア王国は中規模の国だから、全軍集めても数で負けるのは仕方無い。
が、士気の面で遥かに有利なのは間違い無い。
向こうは無理矢理かき集められた戦意が低いであろう、寄せ集めと言っても良い集団。
対して此方は正規と私設の違いはあれど、鍛え上げられた戦意の高い軍隊。
まぁ、ハンター達は軍隊とは言えないけど…
更に、この世界では新兵器と言える投石機や弩砲──資材を持って行って、現地で組み立てなければならないが──があるのだ。
敵の戦意が低いであろう事を考えると、何発か食らわせるだけで戦意喪失する可能性が高い。
「もしかしたら、戦争にすら成らない可能性も考えられますね。今回作った新兵器、他の国から見れば〝未知の兵器〟でしょうからね。何百mも離れた場所から飛んでくる大量の石や大きな矢を食らったら、戦意の低さも相まって我先にと逃げ出す兵士が… って、何を心底残念そうな顔してるんですか!」
半眼になり、どんよりとした表情のミラーナさんに私は抗議する。
「だってエリカちゃんが戦争にすら成らないなんて言うから… アタシが全力で暴れられる機会なんて滅多に無いのにさぁ…」
暴れるな、頼むから…
いや、普段から力をセーブして生活するって、ストレスが溜まるんだろうけど…
「まぁ、戦わずに済むなら良いのかなぁ… 正直、人を斬るのって魔物や魔獣を斬るのと違って、あまり良い気分じゃないモンねぇ…」
「そうそう、戦争だから仕方無いって解ってんだけどさ… そりゃ、全く戦わずに済むとは思ってないよ? でも、お互いに犠牲は少ない方が良いよねぇ…」
ミリアさんとモーリィさんも、人を斬るのは気分が良くないみたいだな。
前の戦争では斬りまくってたみたいだけど、きっと心の奥底では葛藤してたんだろう。
根は優しい人達だからなぁ…
「「でも、やっぱり暴れたいっ!!!!」」
前言撤回!
私の感動を返せ、この野郎!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なるほど… 前の戦争で多少なりとも疲弊しているブルトニア方面に主力を向けたか…」
ここはイルモア王国王宮の会議室。
チュリジナム皇国軍の侵攻報告を聞き、イルモア国王アインベルグは苦渋に満ちた表情を浮かべていた。
たが、それはブルトニア王国の事を思っての事ではなかった。
かと言って、ベルルーシ王国の事でもカルボネラ王国の事でもなかった。
アインベルグ国王が苦渋に満ちた表情を浮かべている理由。
それはミラーナの事だった。
「前の戦争では不発に終わってくれたが… 今回は無理矢理かき集めたとは言え、前回の倍に近い兵らしいではないか… となると、一筋縄では行くまい… ならば、ミラーナが暴走してしまう可能性が…」
その言葉に、会議室内に集まった重臣達がウンウンと頷く。
だが、国王や重臣達は知らなかった。
ロザミアで新兵器である投石機や弩砲が考案されている事を。
そして、その新兵器の所為でミラーナの暴走の芽が摘まれている事を。
「とにかく! 急いで迎撃の軍を向かわせるのだ! そして、ミラーナの暴走だけは絶対に阻止しろ! ミラーナが暴走すれば、敵はともかく味方にも甚大な被害が出てしまうかも知れん!」
アインベルグが言い終わるより早く、重臣達は席を立って会議室の外に出ようとしていた。
ある意味、ミラーナは多くの重臣達に信用されていた。
が、それは良い意味での信用ではなく、ぶちキレたミラーナが敵味方関係無しに、視界に入った者は誰彼構わず斬り伏せてしまいかねない事に対する信用であった。
それを人は信用とは言わないかも知れないが…
ロザミアの詳しい情報が入っていない王宮では仕方の無い反応であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ブルトニア王国では、侵攻してきたチュリジナム皇国軍を足止めする事に集中していた。
前の戦争での被害は軽微であり、チュリジナム皇国軍が押せば引き、引けば押すか留まり、イルモア王国軍が到着して決戦するのに丁度良い場所を確保する事に専念していた。
それも全て、ミラーナ王女から──と言うより、ミラーナに代弁させたエリカ──の指示であった。
・出来る限り広い場所でチュリジナム皇国軍を足止めせよ。
・無理をする必要は無いので、戦闘は最小限に留めよ。
・出来得るなら、人死にに繋がる様な行動は差し控えよ。
ブルトニア王国軍の司令官達は、ミラーナ──正しくはエリカ──の先見の明に感心していた。
勿論、彼等もロザミアで開発された新兵器──投石機&弩砲──の存在は知らされていなかったが…
そしてロザミアでは、ミラーナの芝居がかった演説に呼応したハンター達が、隊列を組んで決戦予定地であるブルトニア王国の広大な荒地へと行進を開始したのだった。
ハンター達は何の疑いも無くミラーナの檄に呼応していたが、エリカ、ミリア、モーリィの3人だけは、あまりにも芝居がかって棒読みとしか思えないミラーナの檄を聞いて戦意喪失していた。
それが何故かと言えば、檄の台詞を考えたのがエリカであり、一夜漬けで暗記した文言をミラーナが喋っているからだった。
勿論、ミラーナ自身が考えた檄も在った。
しかし、その内容はCランク以上のハンターへの戦争参加を強要する、脅迫に近い文言だった為、エリカが許可しなかったのだ。
当然、ミラーナがハリセンでシバき倒されたのは言うまでもない。
その為、エリカが考えた文言を暗記しただけのミラーナが、芝居がかった棒読みになるのは仕方無い事だった。
「こんな子供の芝居みたいな棒読みの檄で戦意高揚するって… ロザミアのハンター達って、もしかすると頭が…」
「エリカちゃん… それ以上は言わない方が…」
「エリカちゃんの言いたい事は解るよ… でも、ミリアも言ってるけど、それ以上は…」
2人に言われ、私も口を閉ざす。
とにかく、今回の戦闘が普通の戦闘である事を祈ろう。
戦闘に普通ってのがあるのかどうかは知らないけどね…