第104話 終わりの始まり。勿論、私達の事ではありません!
新兵器の開発。
と言っても、私に出来る事は多くない。
地球で古代に使われていた兵器の概要を伝える程度。
投石機だけでなく、弩砲──大型のクロスボウ──も伝えてみた。
どちらも射程は300~400m程度。
勿論、設計次第では500mを超える射程になる可能性は高い。
当然だが、弓矢しか遠距離武器の無いこの世界では充分過ぎる程に威力を発揮し、敵に多大な脅威と損害を与える武器になるのは間違い無い。
「こりゃ凄い武器だな♪ 命中率は使ってみないと判らないけど、敵が混乱するのは間違い無いだろうな♪ 混乱させておいてアタシ達が斬り込めば…」
「だけど、投石機は大型になれば固定式にせざるを得ません。大きな石を飛ばすには本体を重くする必要があり、車輪を付けても全体の重量で地面にめり込みますからね… 逆に弩砲は軽く作れるでしょうから、自由に動かして狙いを定める事が可能でしょう。矢を長く太くして、敵が弓で再利用できない様にすれば…」
チラッとミラーナさんを見ると、早く作りたくてウズウズしてる様子。
やっぱり戦争狂だな、コイツ…
それはともかく、投石機や弩砲を作るなら専門家に頼む必要がある。
私自身、構造は簡単に理解しているものの、作る技術は持ち合わせていない。
基本的な構造さえ解れば、材料を現地で調達して作れるだろうとは思うけど…
「とにかく作ってみない事には始まりませんね。以前、テーマパーク建設の現場監督だったグランツさんに頼めませんか?」
「あぁ、あのオッサンか… テーマパークの点検や整備を担当しているから、今から会って話さないか? 早い方が良いだろ?」
言うが早いか、席を立つミラーナさん。
相変わらず、考えるより動くのが先の人だなぁ…
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「なるほど… 資材を持って行って、現地で組み立てる遠距離攻撃用の兵器ですか… それは面白そうだ。まずはミニチュアを作って検証、それを基に1台ずつ本物を作ってみましょう」
「ミニチュアを作るなんて面倒だろ? 最初から本物を作って─」
「失敗したら組み立て直すだけでも余計な時間を費やします。ミニチュアなら組むのも解体するのも短時間で済みますし、同時に複数のサンプルを作る事も試す事も可能ですね」
グランツさんの至極真っ当な提案にミラーナさんが無謀な事を言い、それを私が軽く叩き潰す。
何かを作る時、ミラーナさん任せるのは危険だと、テーマパーク建設時に嫌と言う程思い知らされたからな。
ちなみに私達と一緒に来たミリアさんとモーリィさんは、今度こそ巨大迷路をクリアすると再挑戦している。
治療院が休診日ではなかった為、アリアさんは居残り。
私にダメ出しされ、いじけるミラーナさんを尻目に、私とグランツさんは打ち合わせを続ける。
そして閉園時間が近付いた頃、各2台ずつのミニチュアが完成。
遅くなったので実験は翌日に持ち越し、帰宅する事にした。
ミラーナさんと事務所を出ると…
「あぁあ~っ! 出口はっ!? 出口は何処なのよぉ~っ!?」
「ここはっ!? ここは何処っ!? 誰か助けてぇ~っ!!!!」
まだ迷ってたんかい、アンタ達…
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翌日、私とグランツさんは朝から街の外に出て実験をする。
ミニチュアの大きさは50cm程度なので、私でも簡単に持ち運べる。
投石機は2台共に櫓状だが、石を乗せる部分の構造が違う。
1つは棒の先にスリングを付けた形状で、もう1つは棒の先にお椀を付けた形状。
弩砲は弦の引き方が違うだけ。
人力で引くか、ハンドルを回して機械的に引くかの違いしかない。
そして実験の結果…
「投石機はスリングを付けた形状の方が良さそうですね。ただ、小さめの石を大量に飛ばすには、お椀の方が優れてます。棒の先からロープを4本出して、お椀を付けた物で設計図を書きましょう」
コクコクと頷くグランツさん。
「それから弩砲ですが、少ない人数で弦を引くにはハンドル形式が良いですが、セットするのに時間が掛かります。人数は必要ですが、人力の方を採用しましょう。あと、発射する角度を調節出来る様にしましょう」
「分かった。今日中に設計図を作成しよう。ところでミラーナさん達は?」
ミラーナさん達3人は、武器や防具をメンテナンスに出してから向かうと言っていた。
が、実験が終わっても姿を見せていない。
もう昼過ぎなので先に食事をしているか、あるいは…
嫌な予感を抱きつつ私はグランツさんと事務所に戻る。
その道すがら迷路を見ると…
「どうしてぇえええええっ!? どうして出口が無いのよぉおおおおおっ!!!!」
「どうなってんのっ!? ここ、さっきも通ったじゃないのぉおおおおっ!!!!」
「ここは何処だぁああああっ!? ミリアさんも、モーリィさんも、何処に行ったんだぁあああっ!!!!」
やっぱりかよ…
私とグランツさんは、3人の絶叫を聞きながら苦笑するしかなかったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「勇敢にて精鋭なる兵士諸君! これは聖戦であり、膺懲──制裁、懲らしめる事──である! 我が国の貴族と、その家族を奪ったイルモア王国に鉄槌を降さん! いざ、出陣っ!!!!」
「「「「うぉおおおおっ!!!!」」」」
チュリジナム皇帝の激に呼応し、雄叫びを上げる兵士達。
だが、勇敢ではあっても精鋭ではなかった。
兵士の半数は寄せ集め…
烏合の衆と言っても過言ではない。
前のブルトニア王国とハングリル王国との戦争で20万もの兵士を失ったチュリジナム皇国軍は、15歳以上の成人を無理矢理かき集めて編成された烏合の衆に過ぎなかった。
総数こそ40万に近かったが、その半数以上は商人、鍛冶職人や木工職人、食堂の店主や従業員、成人したばかりの若者が占めており、軍隊とは名ばかり。
元々兵士だった者とは違い、諦めからヤケクソで雄叫びを上げた者が殆どだった。
それでもベルルーシ王国方面やカルボネラ王国方面に向かう軍に編入された者は、目的が牽制なだけの事もあって楽観的だった。
が、ブルトニア王国方面に向かう軍に編入された者は、生きて帰る事は無いとの思いで目が死んでいた。
それどころか無謀な戦争に踏み切った皇帝に対し、全員が例外無くある思いを抱いていた。
この戦争に勝てれば良い。
だが、負けたら…
いや、まず間違い無く負けるであろうこの戦争で生き延びる事が出来たら…
自らの命を落とす事になろうとも、皇帝を殺してやるとの思いだった。
その思いは無理矢理かき集められた者達だけでなく、皇国軍兵士の中にも大きく広がっていた。
かくしてチュリジナム皇帝は、自身と国を滅ぼす戦いへと自ら踏み込んだのだった。