第100話 ハングリル王国→ハングリル地方。それぞれの思いと先走り
記念すべき第100話!
連載開始から2ヶ月半にて達成です!
短い話に長めの話。
一話の長さが一定していませんが、これからも頑張りますので読んで下さい!
「夕食の仕度が出来ましたよ~♪」
「「「は~い♡」」」
ダイニングにやって来るミリアさん、モーリィさん、アリアさん。
「あれっ? ミラーナさんは?」
普段なら真っ先に来るのに…
って、以前も同じ事があったな。
あの時はブルトニアがハングリルに宣戦布告を受けた知らせの手紙が来たんだっけ。
て~事は、夕飯を後回しにする様な何かが起こったとか…
「悪い、ちょっと手紙を読んでた。王都から連絡が来てたんだ」
言いつつダイニングに入ってくるミラーナさん。
「えっ!? 早くないですか? まだ早馬を出してから10日も経ってないのに!?」
ロザミアから王都までは、早馬でも往復で10日掛かる。
それなのに、10日も経たずに返事が来るワケは無い。
「いや、返事じゃなくて連絡だよ。向こうから王都経由でアタシに知らせる事があってね。それを読んでたんだ」
「なんだ… で、何だったんですか?」
ミラーナさんは肩を竦め…
「面白い様な、面白くない様な… ま、少なくとも例の2人には面白くないかな?」
例の2人…
ハングリル王国から亡命しに来たバーグマン氏とシュルンマック氏の事か…
あの2人にとって面白くないなら、ハングリル王国に何か起きたって事かな?
「ハングリル王国が消えたってさ」
「「「「えぇええええええっ!?」」」」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…そうですか… 遅かれ早かれ、そうなるとは思ってましたが…」
肩を落とすシュルンマック氏。
「覚悟していた事とは言え、現実となると、いささかショックではありますな…」
目を閉じ、溜め息を吐くバーグマン氏。
私達は例の2人に知らせる為に、彼等が滞在している宿屋を訪れた。
ロビーの片隅でハングリル王国という国が消え、以降はチュリジナム皇国ハングリル地方となる事を知らせた彼等の第一声だった。
祖国を失うというのは、どんな気分なんだろう…?
「ところでミラーナさん。その手紙は向こうから王都経由で送られてきたって事ですけど、向こうって何処なんですか? あと、王都に囚われているハングリルの貴族達は知ってるんでしょうか?」
「あぁ、これはブルトニア国王からだよ。昔からの友好国って事で、何度か会った事もある。手紙が王都経由で来たのは、ブルトニア国王がアタシの居場所を知らないからだろうな。国王にも同様の手紙は届いている筈だから、王都に居るハングリルの貴族達も知らされてる筈だよ」
そうなんだ…
なら、王都で捕虜になっているハングリルの貴族達も決断する必要に迫られるかも知れないな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
遡る事、数日。
ミラーナが予想した通り、王都ヴィランではイルモア国王からハングリルの貴族達に事の次第が告げられていた。
「ハングリル王国が解体、チュリジナム皇国に吸収されるそうだ。貴殿達の爵位が保証されるかは、現段階では不明。まぁ、まだハングリルからブルトニアへの身代金の支払いが行われていない以上、貴殿達はヴィランに留まるしかないのだがな」
イルモア国王アインベルグは、ハングリルの貴族──捕虜──達と夕食を共にしながら話す。
勿論、国王だけではなく、多くのイルモア貴族達も参加している。
これは普通の捕虜の扱いではない。
それは、直接の対戦国では無かったからでもあるし、アインベルグ流の気遣いでもあった。
ハングリル貴族達の食事の手が止まる。
全員が無言になり、青褪めている。
「考えなかったワケではない…」
「チュリジナム皇国から借りた兵士や金を費やして、あれだけの大敗だからな…」
「返済の目処も立つまい…」
口々に言うハングリル貴族達に、アインベルグは優しく微笑み…
「なんなら、貴殿達も我が国に亡命するか? 余は喜んで受け入れるぞ?」
目を丸くする一同。
「へ… 陛下! 今、貴殿達もと仰いましたが、それは一体!?」
イルモア王国侯爵の1人が立ち上がって聞く。
「うむ、少し前にミラーナから手紙が届いてな。ハングリル王国のバーグマン公爵とシュルンマック侯爵がハングリル王国を出奔。我が国に亡命すべく、ミラーナを頼ってロザミアに滞在しているそうだ」
「な… なるほど… それで陛下の判断を仰ぐ為に、ミラーナ王女が手紙を送ってこられたのですな?」
質問した侯爵は驚きつつも納得した。
ハングリル貴族達は、互いに顔を見合せ頷く。
「で… では、彼等はミラーナ王女の元に居るのですか? その… ロザミアでしたか、ミラーナ王女の領主邸に?」
アインベルグは溜め息を吐きながら答える。
「いや、領主邸ではない。彼等は宿屋に滞在しているそうだ。なにしろ領主邸は、管理が面倒臭いからとミラーナが解体して売り払ってしまったのでな…」
ハングリル貴族達は、全員が椅子に座ったまま無言でブッ倒れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうしたら良いと思いますか?」
私の素直な疑問。
勿論、ヴィランに居る捕虜の事である。
「選択肢としては… 余計なリスクは犯さず、捕虜だけをイルモア王国で受け入れるってのも一つの方法ですが…」
私は一応、一つの選択肢を提示してみる。
が、悩むなぁ…
私が決める問題じゃないけど…
「難しい問題よねぇ… 仮に亡命すると決めた人が居たとして、本人はともかく家族がねぇ…」
ミリアさんも悩んでいる様子。
そりゃ、亡命する事がチュリジナム皇国側に知られた場合、人質に捕られる可能性が高いからなぁ。
「見捨てるって選択肢は… さすがに無いよねぇ… 人の道に外れるって言うかさぁ…」
モーリィさんも、珍しく真剣に悩んでいるみたいだ。
「私も同じ気持ちです。助けられるなら助けたいです。もし見捨てたりしたら、絶対に後悔すると思いますし…」
アリアさんは優しいからなぁ。
「最善なのは、捕虜の家族を全員イルモア王国に亡命させるって事だけど… どうやって亡命させるのかってのが問題なんだよなぁ… 全員が同じ場所に集まってるならまだしも、領地の邸に居たり、王都の邸に居たりでバラバラだろうし… 1人や2人ならまだしも、家族全員となると結構な数だろ? 捕虜の数も多いし、その家族となると何倍の人数になるんだか…」
さすがは本気モードのミラーナさん。
いつもの〝突っ込み処満載〟のザルな思考は封印している様子。
ま、私にとっては何の障害も無いんだけどね。
私は立ち上がってロビーの開けた空間に意識を集中し、心の中で『イルモア王国に捕えられている、ハングリル王国貴族の家族全員が、この場に転移されろ』と念じる。
すると、宿屋のロビーの空間に光の粒が出現し、その数を増やしながら輝きを増していく。
そして光が収まった場所に、大勢の──80人前後──の人達が出現した。
「多分、これで大丈夫ですね。ミラーナさんは王都に連絡して、捕虜の家族は全員ロザミアで保護していると伝えて下さい。これなら王都に居る捕虜の皆さんも亡命を決意するでしょ…」
すぱぱぱぱぁあああああんっ!!!!
私のアタマに炸裂する4つのハリセン。
「「「「私達の悩んだ時間を返せぇっ!!!!」」」」
ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん、アリアさんから全力の一発を食らった私は、ロビーの床にめり込んだのだった。
いや、手抜きしたんじゃないよ?
少しでも私達の危険を減らそうとしてですね…
って、違いましたか、そうですか…
『冒険者』を『ハンター』に置き換えました。
『冒険者』だと一ヶ所に定住せず、あちこちに出掛けているイメージがあり、住民の半数以上が『冒険者』ってのは、半数以上の住民が住所不定って感じだったので…