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危険な夏は期末試験より②


□□□□□□□





ニヤニヤ。

ニヤニヤ。

ニヤニヤ。


「…………っ!」


今、私はとても耐え難い環境にいます。期末試験を来週に控えているのに、私の周りは全くその気配を感じさせない程、色めきたっているのが主な理由です。


ニヤニヤ。

ニヤニヤ。

ニヤニヤ。


「……~~~~っっ!」


昨日、私が突然いなくなってしまったことで沙希や智花、柚子には物凄く心配をかけてしまった。だからあのあと、秋月たちの母校である西楠中学校を逃げ出してからはみんなに連絡して回ったのだけれど、時刻がもう遅くなっていたから詳しい所までは話さず、さわり程度にしておいた。

それで今日、学校に来てからしっかりと話そうと思ったのですが……。


「でさー、そのあと森脇の野郎がキレてる秋月にねーちゃんを渡しやがったんだぜ!? ありえねーよ!」


颯太に全部取られました。というよりも、私、喋れていません。喋れない状態です。一言も! 間に口をはさむことも出来ていません! 

何故なら、智花と柚子に抑えつけられているから。以前にもありましたね、この「黙ってろ!」の姿。

本当だったら私が話すところなのに、所々でしどろもどろになっていた私を怪しんだ沙希が、放課後に颯太を呼び出し、私の代わりに喋らせている。

と、いうわけです。

哲平くんのこと黙っていた、そのお返し……だそうです。


勿論、喋ったのが颯太なので、全部話してくれましたよ。哲平くんが何故、私に危害を加えてきたのか。その理由と真意。そして、それに対する私の答え。洗いざらいです。大部分が愚痴のような形に聞こえますが、要するに……全部バレました。

沙希たちに、昨日の一件が。

私の、秋月に対する気持ちと共に。


「そーだったの~。流香ぁ~、そこまで秋月のこと思ってたんだぁ~?」

「……――っっ! ……むーっ!」


ニヤニヤしている沙希へ私は必死に抗議をしようと思っていたけど、口も塞がれているから返答は「むーっ」しか出ません! 

そんな私に、同じくニヤニヤしている智花と柚子も言ってきた。


「秋月楓もそりゃあ嬉しかったでしょうよ。やるじゃない流香! で、このあとは?」


私の口を自分の手で塞いでいた智花が、詰め寄ってくる。


「もっちろ~ん。決まってるよね~?」


私の体を押さえている柚子も、詰め寄ってきた。

ってぇ! こんな格好じゃあ答えられませんってば二人とも! てゆーか、恥ずかしくて、こ、答えられないよ~~!


「沙希ちゃんたち、何言ってるんだよー!? 秋月だぜ!? 俺は認めね――っ!」


大反対の颯太が沙希たちに猛抗議したけど、ピシャリと沙希に言い返されてしまう。


「あんたね、『誰が』一番、流香の傍にいると思ってんの? 『誰が』一番、流香のために動いてると思ってんの? いい加減、姉離れしな!」

「うっ!」


一瞬で颯太を黙らせた沙希に、私を含め、智花も柚子も生唾を飲み込んだ。後半あたりがいつも以上の迫力をだしていたからです。

さ、沙希……? どうしたの? 

そんな私たちを気にとめもせず、沙希は今度、私に向かって言ってきた。


「ぶっちゃけどうなの流香? あのバカと秋月、どっちを好きになったわけ!?」


『あのバカ』って、あっくんのこと? 思わず突っ込みそうになったけど、そんなこと言っている場合じゃない!

どうやら沙希は、私と秋月の関係に痺れを切らしたようです。いきなり何を言い出すの沙希。

私は智花と柚子に押さえられたまま、顔を真っ赤にさせた。ビシィと私に向かって、沙希が究極の選択を突き付けてきたから。突然発生した沙希による詰問に、私はただわたわたとするばかり。今の私では、とてもじゃあないけれど反応出来ない。例え期末試験が近付いていようと、全教科の試験を一日でやれ! なんていう無茶ぶりを言われようと、そちらの方が出来そう気がします。それぐらい、問題です。

いや、問題っていうのも語弊があるかな?


「どっちの方が流香にとって大切? 傍にいてもらいたい? 安心する? 楽しい? さぁ、答えろ流香!」


怒涛とも言える沙希からの追求に、私は答えられないでいる。

そう、答えられないんです。

それは決して、沙希が聞いているような『どちらが好きなの?』に対してじゃない。もうはっきりと私、は分かっているから。

正直、私はもう秋月が好き。あっくんよりも秋月の方が、自分の身近な存在として感じている。沙希が颯太に言ってくれたこと、そのままです。

秋月が今一番、私のそばにいてくれているということ。彼が今一番、私を想っていてくれているということ。

昨日、哲平くんに全てを聞いて、私はそれを知った。同時に、私も秋月への想いが一気に高まった。それが事実であり、真実。


でもどうすればいいのか分からない私。秋月にどう応えてあげればいいのか。それが、私の今の問題と言えば問題。今までずっと片思いできたから、こと恋愛に関して経験不足な私は、このあとの行動が分かりません! 

沙希がせっついてきている。智花や柚子がほのめかしている。三人が何を言いたいのか、理解はしています。哲平くんにも言われたしね。


『付き合えば?』


そういうことですよね? 

私と秋月が付き合う。今まで自分が誰かと付き合うなんて考えたこともなかったけれど……。でも、あっくんのときとは違って、今回はそういう状況も可能になっているわけで。


――カァ――――――――ッッ


湯気が出てしまう程、顔が熱くなってきているのを感じる。もしかしたら、既に出てるかもしれないけど。

だけどそこで疑問に思う。この場合はどうなるのって。だって、結局はなあなあになってしまっていることだから。別に私から秋月に告白したわけではないし、秋月からの告白はもう大分前になってしまっている。微妙な感じです。

ど、どうすればいいんですか!? この状況! 中途半端にお互いの気持ちを知ってしまった本人たちは、このあと、どうしたらいいの!? 

沙希の詰問に答えられないのは、逆に私が質問したいのが理由。でも、そんなこと聞くのも恥ずかしくて、言葉に出せない私は黙りこんでしまうしかなかった。


「ま、これからは秋月楓の力量次第ってとこだね。流れよ流れ」


思考滅裂になってきた私の様子に気付き、智花が口を挟んできた。それを聞き、限界状態の私を認めた沙希も一先ず落ち着いてくれる。


「そーだね、もう全部アイツに任せちゃうか。流香、もう何も悩む必要はないんだからね? 大船に乗ったつもりで、ドーンと行きなさい!」


あれ。すんなり私が聞きたいことが返ってきちゃいました。

再び、ビシィと私に向かって言ってきた沙希。それを私の体を押さえたままの柚子も、便乗し始める。


「うふふふ~、この先楽しみだね~流香ぁ。大丈夫だよ! 秋月くんだったら、絶対何かしてくるから。あ~わくわくするぅ~~」


何か……本当に楽しそうだね柚子。

ってぇ! な、何を言ってるの三人とも~~。秋月次第? 任せる? 大船に乗って……って……。しかも、絶対何かしてくる? それこそ全く先が分からないんですけど!? 予測不能なんですけど!!?


「な、何言ってんだよ――!」


あ、また颯太が私と被った。何だか私たち姉弟は、突っ込みポイントが似ている気がしてなりません。まぁ姉弟ですから。

でも先が読めていない私と違い、颯太は思い浮かべられているよう。


「ヤバイって! 危ねーって! 危険だぁ――――っ! 沙希ちゃん頼むから、ねーちゃんを見捨てんなよー! 秋月のヤツ、色々すっ飛ばしてるんだぜー!?」


は? あんたが言ってることも、すっ飛んでいるような気がするのはおねーちゃんだけ? 一体、何を思い浮かべているの。少し汗が流れました。弟ながら、意味が分かりません! 

まぁその意味は、あとで知ることになるんだけど……。


とりあえず、今は弟を止めなくちゃいけないかも。颯太が沙希の肩を掴み、ガクガクと揺さぶり始めたからです。徐々に、沙希の顔色が悪くなってきた。


「み、見捨てなんか……う、うっぷ。弟くん、き、気持ち悪くなって……き……」

「沙希ちゃん聞いてんのか!? 秋月は沙希ちゃんたちが思っている以上なんだぜ!? つーか、いい加減『弟』って呼ぶのやめろよー! 秋月と被る!」


だからそんなに揺らしたら聞くのも聞けないし、答えるにも答えられませんからぁ! 

私は急いで颯太を止めようとする。颯太が騒ぎ始める少し前に、智花と柚子より解放されていたからです。

い、今助けるからね沙希! 颯太、やめなさ――――――い! 

ってあれ? 沙希に近付こうとして、何で私逆に離れているの? 

私は自分自身に違和感を覚えた。前に進もうとしているのに、後ろへ下がっているからです。


「はいは~い、颯太くん。それ以上は沙希の方が危険だから、そこまでにしといてね~? っというわけで、はい~秋月くんパスッ! 流香をよろしくぅ~~」


へっ? あれ、何か私、柚子に押されました? 沙希たちからどんどん離れていく光景が、まるでスローモーションのように私の目に映ってます。そして、軽く背後より誰かに支えられ、そのまま抱き締められているんですけど。あれ? あれれ? そういえば柚子、秋月の名前言わなかった?


「ナイスパス高木先輩! 何か知んねーけど、流香先輩ゲーッツ」


あれ。秋月の声が聞こえた。って! ぎゃあ――――――っ! あ、秋月~~~~!

いつの間にか秋月が私たちの所に来てる! 

それに気付いたらしい柚子。文字通り、私を丸ごと秋月に預けてくれました。

ひ~~~~~~っ。ちょ、ちょっと待って! 密着。密着し過ぎてるよ~~! みんなの前で遠慮無しにいつもの如く私に抱き着いてきた秋月を誰か止めて下さい!


「それじゃあ」


え、智花。さっきまで私のすぐ近くにいたのに、何で手を振りながら離れていくの!? と、止めて! って、また「無理無理」なんて言わないでくれない!? 二人揃って薄情者~~! 

そんな大パニック状態の私になんのその。抱き着いただけでは物足りないらしい秋月は、仕舞いにまるで連携技のように頬擦りまでしてきた。

きゃあああぁぁ~~~~っ! 

羞恥心で、頭と心が本当に爆発寸前にまで追い込まれています!


「い、いやあぁぁ~~~~……」


振り払おうにもガッチリと秋月に抱き着かれているから逃げ出せない。顔を真っ赤にさせながら、私はか細く声を漏らすしかなかった。

こんな態度を取ったら秋月がすぐに調子に乗ってくるのは分かりそうなはずなのに、私にそこまで考える余裕がなかったのは確かです。


「いやよいやよも好きの内っつーじゃん。そんだけ先輩が俺を意識してるってわけだよな! もう遠慮しねーかんな。照れてる先輩マジでカワッ! ねー、今日ヒマ?」


案の定、調子に乗った秋月。私の喉から色んなものが出掛かったのは、言うまでもありません。

どういう理屈!? 自分の都合のいいように解釈ですか! てゆうか、今まであんたに『遠慮』という考えありましたか!? ないです! 断言できます。つ、突っ込みたい。秋月に突っ込んでやりたいです。でも、こんな恥ずかしい状況では突っ込めない。お願いだから、離して秋月~~! 耳まで噛んでこないでよ~……って! 何してんのあんたは――――――!? 最終的に耳まで舐めてきて、完全にセクハラです! いえ、それ以上です! ひいいいぃぃ~~~~~~っっ。ってぇ、何で耳!?


「言ってるそばからテメーは何言ってんだごらぁ! んで、ねーちゃんに何しやがんだああぁぁぁ! とっとと離れろよ――――――っ! つーか、ヒマなわけないだろー!? 期末があんのに!」

「お、弟くん、ちょっと待ちな!」


秋月のいつもよりプラスされた私へのセクハラ行為にぶちギレた颯太。今にも殴りかかりそうだったところを、沙希が颯太の腕にしがみついて止めてくれる。

さ、流石沙希……。瞬間的に、秋月と颯太が喧嘩になりそうだと察知してくれたみたい。どうどう、と颯太を抑えてくれた。それを見た智花と柚子も、沙希の助太刀に入る。

とりあえず、即喧嘩にならないで済んだけど……。でも、昨日の今日だから、多少不安がありました。秋月の返答次第ではきっと、沙希たちを振り切って颯太……。


「あ? 期末だから先輩誘ってるんだっつーの。流香せんぱ~い、勉強一緒にやろ?」

「はぁ? べんきょ?」


何も起きませんでした。しいて言うならば、秋月からはさして何も問題のない、普通の回答が返ってきただけです。颯太の、すっとんきょうな声だけで済みました。この時期としては違和感のない言葉によって、意表をつかれたみたいです。

颯太のみならず、沙希や智花、柚子までも目が点になっていた。どうやら四人とも、明らかに秋月が違うことを言うと思っていたらしい。私も正直、今まで沙希たちと話しをしていた内容が内容なだけに、拍子抜けしてしまった。


「私と勉強?」


思わず秋月に聞き返してみた。ちょっと首を後ろに向け、秋月の顔が見えるぐらいの角度まで動かす。そこには、ニコニコと満面の笑顔を向けてくる秋月がいた。しばらくして、彼から「おう!」という言葉が返ってくると、すぐさま私の心臓が反応する。


――トクン

――トクン

――トクン


秋月が間近でこちらを見てくるから、無条件で胸が高鳴ってきた。どきどきする……。まさか秋月に対して、本当にこんな風に思う日が来るとは思わなかった私。顔も熱くなってきているからきっと、私はまた赤面し始めたはず。


「ダメ? 先輩」


秋月だって気付いているはず。私が赤面していることを。だって、間近で見ているからね。

だけどそんなことには構わず、彼はただ次第に柔らかく笑って私に尋ねてくるだけ。とてもくすぐったいけど……悪くない。

と思ったのは、秋月にはまだ、言わないでおくことにしておきます。だってこのあと、秋月が発した言葉に真っ青になりましたから。


すみません。

楓の暴走はまだ先です。

いや、もうどこから暴走でどこから普通なのか作者すらわからなくなってますが←

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