危険な夏は期末試験より①
更新が遅くなってしまってすみませんでした。
無事免許も取れたし、時間に余裕ができると思っていたのですが……(;゜Д゜)
今回より新章です。
期末試験から色々始まります(笑)
楓の暴走をたっぷり楽しんでいただけたら幸いです←
□□□□□□□
窓際で一番後ろの席。
その場所で。
楓は机に突っ伏しながら、にこにこと満面な笑みを浮かべていた。彼と同じクラスの生徒たちは、そんな楓の様子を恐々と伺っている。
はたから見たら完璧な美形の部類に入る楓だが、ここではその限りではない。普段はいつも仏頂面の楓。しかも、元『問題児』である彼は日常態度もあまり宜しくないので、既にクラスメートから怖い印象を受けていた。
その楓がやけに機嫌が良いらしく、笑っている。天変地異の前触れかと思ったクラスメートは、どのくらいいたのだろうか。仕舞いに、鼻歌まで聞こえてきたときは誰もが耳を疑ってしまった程。『あの』秋月楓が。某四人組ヴォーカルユニットで。映画にまでなったドラマの。大ヒット曲を歌っている、と。誰もがそう思っていた。
「みんな、不気味に思ってるだろうなー」
楓の前の席は哲平だ。両肘を窓辺に預けながら、まるでクラスメートの心の声を代弁したとでも言いたげに彼は教室中を見回したあとぼそっと呟く。でも、そんな言葉は楓の耳には入らない。彼の耳に残っているのは昨日、体育倉庫の扉越しに聞こえた流香の言葉だった。
“私も、秋月と一緒にいたいもん”
「うわああぁぁぁ~~~~~~」
思い出したのと同時に、嬉しさのあまり両腕に顔を埋め奇声を出してしまう楓。途端に、クラス中の生徒たちがビクッと体を振るわせているのを哲平は見逃さなかった。
「楓、何かうるさいよ? ちょっとは落ち着けば?」
汗を垂らしながら哲平は楓に突っ込みを入れる。中学時代と比べ、楓はかなり変わってきたと感じているが、同時にキャラも崩れ始めてきているな、とも思う。一つずつ、流香の言葉を思い出しては悶えているからだ。
こんな楓は今までだったらあり得ないこと。とりあえず友人として、彼がはた目から見て痛い人間になる前に止めておいた方がいいだろう。そう判断した哲平にとって、先程の言葉は親切心で言ったつもりだった。
だが、それは楓が「あ、忘れてた」といきなり伏せていた顔を上げ哲平の頭を殴ることにより、無残にも返されてしまう。
「……何で?」
疑問符を浮かべたのはきっと哲平だけではない。再び、教室中にいた人間誰もが思った。何で突っ込みを入れただけで殴られるんだ、と。理由が分からないクラスメートたちは、更に楓へ恐怖心を増す結果となったのは致し方ないことである。
しかし、流石に楓と付き合いが長い哲平だけはしばらくして自分が殴られた理由を思い当たり、ため息をついた。
「悪かったよ、真山先輩に手を出してさ」
楓のためとはいえ、流香へ多くの危害を加えたのは事実。哲平は改めて楓に詫びをいれる。
結局、昨日はなんだかんだで謝罪の言葉を伝えることが出来なかったからだ。楓と颯太が喧嘩を始めたとき、それを止めようとした流香によって。
哲平が楓に言えなかったのは、彼女による強烈なまでの叫び声が校舎中に響き渡り、教職員に見つかってしまった。
という、何とも間抜けな展開で終わったのがそもそもの原因だ。おかげで楓と颯太の喧嘩は耳の鼓膜が麻痺しそうになりながらも止まり事なきを得たが、逆に自分たちの存在を母校に知られることになる。西楠中学校では哲平はともかく、楓に関しては未だにかなり警戒されているからだ。
見つかった四人はすぐさま教職員たちに追い掛けられ、後々面倒なことになるのを避けるため脱兎の如く逃げ出した。
逃げる途中。
「ひ、ひゃあ~~! 一体、あんたたちは何しでかしてたの~~~~!?」
「ざけんな――っ! 何で俺らまで逃げなきゃなんないんだよ――――!?」
と、流香と颯太。真山姉弟によるダブル突っ込みが、激しく二人に向かい放たれたのは余談であるけれども。
だからではないが、少しばかりバタバタとしていたため逃してしまっていた。流香を巻き込んだ、謝罪の言葉を。
「ふん、こんぐらいで勘弁してやる」
かなり痛かったらしく、殴られた箇所をまださすっている哲平に対し楓はそう告げた。今まで散々怒りを覚えた楓ではあるが、彼自身もまた、そんな友人の意思をくみ取って一発殴るだけにとどめたのだ。
全ては自分のために哲平が動いていたということをしっかりと聞いて、理解したから。
楓にとってまた一つ、今までと比べて変わった点。誰彼構わず容赦のない仕打ちをしていた楓が、多少なりとも相手に対し考慮をしてくれたのだ。哲平は素直にその変化を嬉しく思う。本当に楓が変わっていくことを応援しているから。
それでも、楓の一発はかなり重たい方だと哲平は言いそうになったが、そこはあえて言うことはない。
「どーも。しっかし、まさか真山まで一緒に来るとは思わなかったな。何? いつの間に仲良くなったわけ?」
頭への一発にお礼を言い、話題を変えて哲平はふと気になったことを楓に聞いてみることにした。
颯太だ。
哲平は予め、流香以外に楓にも事の一件が分かるようにしていた。だからいなくなった流香を追って、自分たちの母校に楓がやって来ると予想していたのだが、まさか颯太が楓に着いて来ているとは思ってもいなかったのだ。
そんな哲平に楓が答える。
「あれで仲良く見えるっつーんだったら、お前の目ぇ腐ってんぞ哲平。気になるから、つって勝手についてきやがったんだよ。いくら流香先輩の弟でもあんの野郎~~よくも邪魔しやがって!」
昨日の颯太とのやり取りを思い出し、目が据わり始めた楓。でもそんな彼とは裏腹に、哲平はといえば何やら面白いものでも見付けたような目で楓を見ている。
「何だよ」
意味ありげな哲平の視線に苛立った楓は、思いっきり哲平が座っている椅子を蹴り上げた。周りのクラスメートが、一斉に体を強張らせたのは言うまでもない。
だが、こんな楓の状態に慣れている哲平にとってはびくともしなかった。余裕の表情を浮かばせながら哲平は、楓の話を聞いて自分が気付いたことを彼に教えてあげることにした。今、楓に『二人目』が現れていることを。流香と同じ、真っ直ぐ『楓自身』を見ている人物がいるということを。
「真山ってさ、楓のこと怖くなかったのかな?」
「はぁ?」
哲平が突然何を言い出したのか分からなかった楓は、すっとんきょうな声を出す。そんな反応に構わず、哲平は更に続けた。
「全部、お前と一緒に話を聞いていたんだよね? それでも、楓を蹴ることが出来るなんて大した奴だな~と思ってさ」
関心したような面持ちで颯太を語る哲平。それを見ながら、楓は昨日起きた喧嘩以外のことも思い出そうとする。
確か、自分は颯太の前で本性をさらけ出した。そして、多少の暴力もふるった。正直、楓は以前から颯太が自分に対して畏怖の念を持ち合わせている節があることには気付いていた。ぶちギレたとき、自分を見る颯太の表情は、今まで近付いてきた人間がしてきた『それ』と一緒だったからだ。
でも、哲平が発言した言葉の中で違う部分もあることに気付かされる。
昨日の一件で颯太は、楓の本性を知りながらも「気になるから」と言って着いてきた。楓の過去を知ったあとでも、流香が手を出されれば憤慨してきた。
楓へ、いつも通りの接し方をする颯太。
「アイツがバカなだけじゃねーの?」
ぶっきらぼうに楓は哲平に向かって言う。だが頭の中では、哲平が楓に対して言わんとしているものが響いていた。颯太も、自分が大好きな流香と同類の人間かも、と。
それを察した哲平は、すかさず話を持ち上げようと試みる。
「真山のこと『バカ』って言ったら、真山先輩も『バカ』ってことになると思うけど?」
楓の発言に対して、鋭く突っ込みを入れてみた哲平。気付いて欲しいからだ。颯太は、流香と同じであると。
――ピクッ
それを見事に楓は食い付いた。
だが食い付いたはいいとして、哲平は微妙に冷や汗もかく。ギロッと楓が哲平を睨んだかと思うと、更には胸ぐらを掴んできたからだ。そして、哲平の思惑とは別の方向に進む。また、間違えたらしい。
「ぬぁ!? 先輩はバカじゃねーよ! 小っさくて可愛くて動きなんかちょこちょこしてて、でも懐でっけーし、反応がいちいち面白れーし! 鈍感なとこもあっけど、そこがまたたまんねー……っとにかくだなぁ! 全部ひっくるめて最高なんだよ! もう一度バカって言ってみろぉ! 沈めっからなあぁ!」
息もつかせぬ程まくし立てる楓を見て「あぁ、バカはお前の方だ」と哲平が思ったことは、この際問題にしない。でも、これだけは気付けと思う。颯太は流香と一緒で、楓の『本性』ではなく『本質』を見てきていることを。それは高校に入ってから未だに友人を作ろうとしない楓にとって、この上のない機会なのだ。
「……秋月、それに森脇。授業中なんだが……」
「るせー」
「ははっ、ごめんね?」
気が付くと、楓と哲平のそばには気の弱そうな数学教師がいた。ずっと喋っていた楓と哲平へ、意を決して注意をしに来たらしい。
そういえば、今は授業中だった。
思い出した二人はすかさず反応する。楓は反発。哲平はそのフォローという、両極端の違いはあったが。でも、数学教師も負けるわけにはいかない。もうすぐ、期末試験が行なわれるからだ。
「あ?」
楓は、あることに気付いた。たどたどしくも説教を始めた数学教師を完全に無視し、思考を巡らす。
「ん?」
哲平はそんな楓の様子を注意深く伺う。彼がぶつぶつと呟きだした言葉の中に、聞き捨てならないセリフがあったからだ。それは決して、哲平のことではない。流香についてだ。
「そっか、部活ねーと一緒にいる時間が減るって思ってたけど、先輩と二人きりになれるチャンスじゃねーか。……教室、は無理だ。図書室……微妙。やっぱ、最初は俺んちか先輩んとこだよな~。…………よし!」
良からぬことを考えている。最後は妙に意気込んでいる楓を見た哲平は、彼が何か企み始めたことを感じとった。同時に、何故颯太があれほど楓を警戒しているのかも、少し分かった気がする。
「早速?」
とりあえず流香に対してこのあと彼がどう動こうとしているのか何となく予想がついた哲平は、敢えて何も言わないことにした。昨日で流香の気持ちを知った楓は、最早誰にも止められないからだ。
「聞いているのか、秋月?」
「聞いてるっつーの。期末だろ? 勉強すっからとっとと授業終らせろ」
教師からの詰問にシレッと楓はムチャクチャな返答をする。誰もが。哲平ですら、突っ込みたい衝動に駆られた。
試験勉強をするのに、肝心の授業を終らせろってどういうことだ、と。
「………………」
こういう楓の部分も、流香にお願いしようか。哲平が流香に頼みたいことがまた一つ、増えた感じがしたのは彼の気のせいじゃない。
「色んな意味で、頑張って先輩……」




