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3月3週目 打ち上げ②

 周囲の人間の視線が俺に突き刺さる。俺の視線もそうなのでお相子(あいこ)だが、決して好意的とは言い難い。さながら罪人を見るそれである。

 俺の罪状は、クラブの祝勝会で粗相をし、場の雰囲気を滅茶苦茶にしたといったところか。

 まあ、粗相と言ってもそのきっかけを作ったのはクラブの代表補佐だが。


 この手の問題を起こした人間をそのままにするのは、クラブという組織を運営する上でよろしくない。「みんな楽しく」などとお題を掲げるのと、「なあなあで問題を見なかったことにする」のは全く違う。

 蒼さんは問題を起こした二人に対し罰則を与えねばならなくなったわけだ。

 周辺の奴らにしてみれば、知ってるアバドンより見知らぬ俺を悪役にし、責任を全てかぶせたいだろうが。



 そうやって考えると、自分から何か言い出すのはあまりよろしくない。

 周りにいる連中、こいつらの事は基本的にどうでもいいが、俺をこのクラブに連れてきたキティに対して何らかの責任追及がされても面白くないし。今更と言う気がしないでもないが。


「さて。俺としても、望まぬ揉め事になったわけだが。この場合は、何か決まりでもあるかい、蒼さん?」

「特に無いね。強いて言うなら、ゲームに従い、レースで決着を付ければいいんじゃないかい?」


 蒼さんはいつものように甲冑アバターなので、顔は見えない。

 しかし、纏う雰囲気などは分かりやすく、今は「困っています」という様子だ。仲良しクラブであればこういったタイプの揉め事はあまり起きないだろうし、メリー嬢のようにある程度の協調性があれば大きな揉め事は普通、起きない。以前「揉め事は嫌い」と言っていたが、ご愁傷様である。


 この場はどうしようかと思ったけど、多少助け舟を出しておけばいいか。


「じゃあ、この場は思うところはあっても互いに何も言わないってことで。それでいいよね?」

「ああ、すまなかった」

「まー、どーでもいいさ」


 さっさとこの場をどうにかすべく、アバドンに「今日は互いに不干渉で」と言っておき、くだらない騒ぎは終わりとばかりに食事を再開する。

 マイペースに食事を続ける俺を見て眉をひそめる者もいたが、俺がこの場で出来ることなど食事ぐらいだ。下手に人の輪に混ざっても、つまらない話を聞かされるだけで発言権などないだろうし。

 あのアホ(アバドン)が話しかける前ならもう少し立場もあっただろうが、あの騒ぎで俺から歩み寄ろうという気持ちは完全になくなった。わざわざ敵対している連中の輪に混ざるわけがない。


 このクラブにいるのも、今月限定だろうねぇ。

 って、そんなどうでもいい事より、ご飯ご飯。





 祝勝会も終わり、各自帰途に就く。

 俺も飯を食べ終わり、さっさと自分の牧場に戻ることにした。


 あの場に会った料理を全種制覇・2周までいけた。それだけに1時間半は消費したので、あのアホの考えは杞憂でしかなかったりする。祝勝会そのものは大体2時間程度だったので、食い尽くすには時間が足りなかった。独りで全部食い尽くすには、追加2時間は必須だったのだ。

 一人で半分も、と思うかもしれないが、残った料理をタッパーで持って帰ったのは俺一人だし、結局残す奴ばかりなんだから、俺が食い尽くす勢いで食べても全く問題なかったと言える。



 俺が持ち帰った料理を冷蔵庫にしまうよう指示を出していると、来客があった。

 蒼さん並びにぐしおんさん、キティにメリー嬢と、レベリオン・クラブにおける俺の知り合い全員だ。

 さっきの件だろうと予想はつくし、応接室にて対応する。



「先ほどはすまなかったわね。ごめんなさい」


 開口一番、蒼さんは俺に頭を下げた。


「クラブの中で、アバドンさんは面倒見がいいのよ。そんな人と揉めればその分、周りの見る目も厳しくなるの。でも逆に、今度のレースの後、彼と仲良くできれば周囲の評価は一気に変わるよ」

「無茶言わんで下さい」


 あの人が名乗りを挙げなかったのは、身内の集まりで、俺以外全員が――もちろんメリー嬢も含めて――あの人の名前を知っていたため、名乗るという発想に欠けてしまったのが原因のようだ。俺の名乗りはスルーですか。

 で、ボッチの俺を見て生来の面倒見の良さを発揮し、話をするきっかけとして食べすぎと言いに行ったらしい。ああ、あの注意は掴みだったわけね。そこから人の輪に連れて行こうとした、と。俺は当然のように拒否したけど。


「そういえば、あの場で勝者の権利とか敗者の義務とか決めなかったのは、わざと?」

「まあね。あの場はみんなの頭を冷やせればそれで良かったから。私としては、ああいうのは心臓に悪いから、もうやらないで欲しいわ」

「そりゃあ、すいません」


 正直なところ、場を仕切り直すためにレースをするというのは問題の先送りでしかない。が、先に送ったことで解決が容易になることがあるのもまた事実。今回の件はその場のノリと勢いといった面があるから、冷却期間さえ設けることが出来れば、問題の半分以上が解決するという。

 平和を愛する、喧嘩などを嫌う蒼さんにしてみれば、禍根の残るいざこざにさえ発展しなければそれでいいといった風情だ。



「ごめんなさい!」


 蒼さんとの話が一通り終わると、メリー嬢がいきなり頭を下げた。

 頭の中に疑問符が浮かぶ。メリー嬢はあの場で何もしなかったし、特に思うところはないのだが。


「何も、できなかったし。何も、言えなかったし。本当に、ごめんなさい!」

「いや、あの場で下手にフォローするのって、火災現場にガソリンを撒くようなものだし。入って間もないクラブなら、それもしょうがないと思うよ」

「でも……」

「はいはい、この話はここまで。無駄に、後に引きずることじゃないだろ」

「うぅ……」


 割合真面目なメニー・メリー嬢は、さっき何も言えずにいたことを後悔しているようだ。

 しかし、言った通り、あの場で彼女に何が出来たとも思えない。キティが動けたのは、その在籍期間の長さもあってのことだと思う。

 本当のことを言えば、あの場で彼女に不満があったのは確かだ。

 しかし、冷静になって、落ち着いた今なら悪い事ではないと思う。あの場で持っていたメリー嬢への感情は、その場における自分が気分を悪くしているのに引っ張られただけで、一時的な感情だ。今は大丈夫。


「このゲームで数少ない友達なんだし。嫌ったりしないさ」

「うん、うん」


 どこか悲壮なメリー嬢に向け、右前足を差し出す。

 俺の意図に気が付いたメリー嬢がその手を取り、仲直りの握手。猫の手と人間の手では微妙に様にならないが、これで良し。



 そういや、ぐしおんさんが発言しないのはいつもの事だけど、キティもずっと黙っていたのは珍しいな。

 どうしたんだ、あいつ?

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