3月3週目 打ち上げ①
イベントはそのまま進行し、レベリオン・クラブはジャスト30位という好成績を収めた。
キティ以降も順位を死守し、
1位は最強・ローマン牧場を主軸とするローマ・クラブ。入賞3位までとその周辺には他の有名どころ、ガチでやってるプレイヤーを集めたクラブが入賞した。
こうなるとイベントも消化試合のような詰まらなさがあるが、高校野球などのような強豪に対するジャイアントキリングはめったに起きないのが現状だ。あれは人の卒業による主力の放出と大型新人などによる戦力の更新があってこそ起こりうる話で、現状「ドラゴンソウル・リンケージ」では番狂わせを期待することは滅多にできない。
そういった閉鎖的と言うか安定し、徐々に衰退してく様子を嫌って他ゲームに乗り換える者もいるが、それはどこのゲームでも起こりうる、たどり着いてしまう一つの既定路線だ。本当の意味でそういった緩やかな衰退を嫌うなら、そもそもMMOなどやらない方が無難だろう。どんな幻想にも終わりは来るのだから。
終わるときまで楽しもう。
他の誰かは横に置き、まず自分がその気持ちを持ち続けるのが俺のスタンスだ。
「みんな。お疲れー」
「「「お疲れ様ー」」」
乾杯の音頭の後、グラスを打ち合わせる甲高い音が鳴り響く。
30位以内というのは快挙に等しく、周囲にいる皆の顔は明るい。
クラブハウスの一室、大会議室と書かれたプレートの部屋に、イベント参加プレイヤー全員が集まっていた。
俺はあんまり参加したくなかったのだが、ここで抜け出すのはさすがにまずいと思い、嫌々ながらも参加することになった。ほとんど会話もしていないし、顔と名前の一致する人間も少ない。
普段から交流を疎かにしているツケが、こんなところで回ってきた。そこまで不都合は感じないけど。
イベントに参加したのは、俺を除けば22人。
うち、知っているのは蒼さん、ぐしおんさん、メニー・メリー嬢、そしてキティの、たった4人。
トップを飾ったというか10区間受け持ちの俺の事は他の人も知っているけど、やはりお互いに喋った事が無いのが原因か、周辺からチラチラ盗み見ているだけだ。多少興味があっても、切っ掛けをつかむことができずにいる。
そんな彼らは、仲間内で小さなグループを作りながら談笑している。たまに人の入れ替わりがあったりするのを見る限り、メンバーの中は良さそうだ。
しかし、それは俺に適用されるわけではないし、そうされる理由もない。それをどうでもいいと切り捨て、俺は彼らに意識を向けるのをやめた。
そんなわけで、現在俺は壁の華。
適当に料理を皿に乗せては壁際に移動し、堪能している。
本日のメニューはデリカテッセン。パーティ料理の基本に従い、ローストビーフや唐揚げ、フライドポテトにプチトマト付のポテトサラダ、エビフライとかサーモンのマリネなどがある。
他にはピッツァ、パスタなどのイタリアン、寿司や刺身といった和食、魚を丸ごと揚げて中華餡?をかけた料理などがある。寿司やピッツァは持ち帰り料理や宅配料理として定番だけど、パスタや中華?は持ち帰り用の惣菜の範囲に入れていいものか。微妙に悩む。美味しいからいいけど。
食事を効率よく取るため、アバターは獣人で固定。身長50㎝に満たない黒猫姿では料理を皿に乗せるだけでも一苦労だ。戦功を誇る気はないが、戦果ともいえるこの料理を堪能せずに終わるのはもったいない。そんな理由で俺は食事の方に集中している。
料理そのものは非常に美味い。クラブへの報酬の一つが、運営であるF&D社の提携先のひとつ、高級料理店から提供された料理データの使用権であり、本来なら課金しないと堪能できないはずの料理を食すことができるのだ。ちなみに参加賞として完走しきったクラブにも本日限りだがこの権利は与えられており、30位以内だとあと3回、3位以内だと無制限利用という形になっている。
3位以内の無制限利用に対し思うところがある人も出るだろうが、実際に利用される回数は年間5~6回程度。実はたいした回数にはならない。というのも、ほとんどのプレイヤーは美食の追及のためにこのゲームをやっているわけではなく、ドラゴンレースの為に来ているのだ。それならすべての食事をその料理店のものに、と思うかもしれないが、そんなことをすればすぐに飽きる。それに提携している高級料理店は1店舗ではない。結果、イベント景品で無制限にしても1店舗当たりの年間利用回数は5~6回で収まるのだ。
まぁそんな運営側の事情はさておき、今は美味い飯である。
各種料理は手が込んでいるし、素材も厳選されたものだ。最初の方にエビフライをいくつか食べてみたが、一つ一つ微妙に味が違う。おそらくだが、「エビフライ」というデータを一つ用意してコピーするのではなく、データをたくさん作り、一回の提供分すべてに別データを割り当てていると考えるのが自然だろう。芸の細かい話である。これが“高級”料理店の誇りか。
身はプリプリのエビはサクサクの衣と相まって、噛みしめた時の触感が非常に良い。ソースの類も複数あり、俺の趣味に一番合ったのがタルタルソース。やっぱり王道こそ正義だろう。異論反論は認めるが、個人の趣味としては絶対に譲る気など無い。
エビフライだけ食べ続けるのはあまりよくない。そう考えた俺は、エビフライからパスタに切り替える。主食として選んだパスタはナポリタン。トマトケチャップではなくトマトピューレとトマトソースで作られたこれは、家庭料理のそれとは別物だ。ただし具材はウィンナー、玉ねぎ、パプリカ、マッシュルームと基本に忠実。フォークを使わず箸で食べているが、一口分からめとり、口にすると市販の安いナポリタンでは味わえないうまさが口に広がる。甘さが控えめで酸味が強く、くどさが無い。イタリアンらしくオリーブオイルを使っているようで、独特の香りが鼻を突く。癖はあるものの、決して嫌いではないそれらが混然一体、絶妙なバランスを以って多幸感を俺に与える。単純に言うなら、とにかく美味い。
他にも色々と料理があるので、俺はそれらを遠慮なしに食べていく。
自分の牧場で用意した料理なら無制限で補充されるが、この料理は食べきってしまえばそれまでだ。残すなどとんでもない話で、完食すべく挑み続ける。
「コラコラ、独り占めは良くないよ? ここの料理は冷めないし、時間で味が落ちたりすることもないから。他のみんなにも残してあげてほしいんだけどね?」
「……どーも。猫村です。他の人は食べるよりお喋りの方が良さそうな連中だと思ったけど。さっきから見てたけど、一向に料理へ手を付けないし。それに一つの料理を一度に食べつくすことはしていないから、気になるならあんたらも食べればいい。こっちが料理を優先するのはリアルの癖だから。まず、食べ終えるのが先なんだよ」
「うーん。VRって満腹の概念が無いよね? 全部食べるまで止まらないのかな?」
「喋る相手がいるわけで無し。食べる以外にする事も無いから。全部食べたら帰るよ」
「全部食べつくす気じゃないか」
「猶予はちゃんとある。その間に食べなかったとしても、責任は持てない。権利を行使せずに、後から放棄した権利を振りかざされるのは迷惑」
黙々と食べ続け、美味を堪能していた俺に一人の男性が待ったをかけた。
こちらの事情、やり方がここのメンバーのそれに合わないのは理解できるが、飯を放っておくというのは個人的にできない相談だ。出された料理を粗末にしているようで落ち着かない。これが社用で体裁を取り繕う場であれば話は別だが、個人的な場で我慢をするつもりはない。
これを無法無体と言うなら、別の時間つぶしを提示するなりしてもらわないと筋が通ってない。
誰とも喋らず、目の前に料理を置かれた状態で食べるのを禁止され放置となると、一種のイジメだろうが。
この場に参加する権利はイベント中の働きがあるし、文句を言われる謂れもないからね。
あ、社用のパーティで出された料理って食べられなかった分は破棄されるのが当たり前なので、タッパーを持ち込み、可能な限り持ち帰ることにしている。勿体無いの精神はとても大事だ。
こちらの発言に多少驚いたものの、「だとすればみんなに混ざれば――」などとのたまう男性相手に。
「名乗りもしない、無礼者達と仲良くする気はないので」
そう言って切り捨てる。無礼者はこの男一人だが、面倒なのでまとめて同罪。
こっちがちゃんと名乗ったんだから、そっちも名乗れよ。それが最低限のマナーだろうが。
食事を中断させられたこともあって、俺はかなり不機嫌だ。目の前の男を睨みつける。
すると目の前の男は「しまった」と小さくつぶやいて、俺に頭を下げる。
「ごめん。僕はアバドン。このクラブの代表補佐をしている」
「代表補佐?」
「ぐしおんさんと同じ、代表者の代行人だね。メインのお仕事は人員面の管理や調整、かな」
人員面の管理・調整というのはイベントの事か? そのわりに、俺は今の今まで話した事も無いんだけど。
俺の目つきは「敵対」から「不審者を見るそれ」に変わる。
目の前の男、アバドンは苦笑しながらもこちらの警戒を解こうとする。正直、ウザい。早く食事の続きをしたい。
話しかけられても面白くないし軽く流す。そうしてある程度目の前の男から意識を逸らすと、周囲のささやき声が聞こえてきた。
周囲の連中が囀っているのは基本的に俺を糾弾する、嘲笑するタイプの話だ。俺に協調性が無いのは理解しているし、知り合いもほぼいない身であれば仕方がない事か。
一時的にではあるが恩恵も受けたけど、気分の悪くなる連中のクラブなど、さっさと抜けるか。その程度に心が沈んでいく。
俺は目の前の連中に見切りをつけ、心で切り捨てる。そうすると目は侮蔑に彩られ、口元は嘲りの形を作っていくだろう。その顔で、周囲を一瞥した。
何人かは自分に向けられた感情に気が付き憤りを見せ、何人かは自分のやっていることに気が付き、俯き自戒する。その様子にようやく気が付いたアバドンは自分の行動の拙さを理解して慌てだした。今更である。
囀っていたグループの中にキティやメリー嬢がいた。キティは抑え役というか俺の味方として動いていたが、メリー嬢は静観。そんなもんか。
代表の蒼さん、ぐしおんさんは「あちゃぁ」とでも言いたそうな顔でこっちを見ていた。
イベントの健闘をたたえ合い和気あいあいとしていた会場は、すっかり冷え切っていた。
俺としても場を騒がせるのは不本意だ。目の前のバカが絡んでこなければ、そう思ってしまう。しかし、俺に責任が無いとも言えない。
さて、この落とし前は、どうつけるかな?




