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3月2週目 クラブ④

「あら、猫村さん。奇遇ですね」


 クラブメンバー専用エリアに行くと、何故かそこには先客(メニー・メリー嬢)がいた。

 蒼さんと話をしていて、おそらくだが、クラブ勧誘か参加申請と言ったところだろう。前回来た時にメンバーリストをチェックしたが、彼女の名前が無かったと記憶している。部外者がここに来たという事はその2択と思っていいだろう。


「こんちわ。久しぶりだねぇ」

「え、久しぶりですね。それより猫村さん。貴方、ブリザード・ドラゴンを手に入れたと聞きましたが、本当ですか?」


 軽く手を挙げ挨拶するが、そんなことはどうでもいいとばかりにメリー嬢は俺を両手で持ち上げ、詰問する。質問ではない、詰問なのだ。口調は結構鋭い。そういえば、彼女はいずれスノー・ドラゴンやブリザード・ドラゴンといった氷冷系のドラゴンを集めたいと言っていたことを思い出す。

 ……もうそろそろ資金も貯まっただろうし、集め出した頃かな?


「運がいいというか、悪いというか。先祖返りがおきまして。そういえば、メリー嬢もそっち系のドラゴンを――」

「……なんて羨ましい…………」


 話題を相手に振ってみようと、質問に答えてからメリー嬢に話を切り出そうとするが、メリー嬢の口から()れた呪詛の声に、思わず台詞が途中で止まる。

 同時に最後まで言わなくて良かったと心から安堵する。あれ、絶対にまだ集めてないな。くわばらくわばら。



 相手の近況などを聞かずに終わりたかった俺であるが、結局メニー・メリー嬢の「スノー・ドラゴン生産計画」の進捗が思わしくないことを告げられ、頭を抱えることになる。

 スノー・ドラゴンの親竜を購入し、配合を始めているようだが――まだ先は長いようである。幼竜含め、まだ2頭。

 俺の方はブリザード・ドラゴン1頭にお目当てに含まれるか微妙なアイス・ドラゴンが1頭。

 けして羨ましいと言われるほどではないと思うのだが……メニー・メリー嬢にとっては何か思うところがあるらしい。三白眼で俺を睨みつけている。というか、俺を持つ手に不必要な力が加わっているんだが?


「そういえば、そっちは何の用でここに? レベリオン・クラブに入るのか?」

「ええ、そのつもりです。友人と(たもと)を別った今、他に行く当てがありませんので。有名な“駆け込み寺”のお世話になるのも悪くないもの」


 妙に力のあるメリー嬢の視線を逸らすべく、俺が思いついた話題を適当に振ってみると、彼女の方もそれに乗ってくれた。

 俺は細かいことは知らないが、先月の一件でメリー嬢は煽ってくる御友人とやらとは決別した。それはそのコミュニティ――おそらくこのゲームに勧誘したであろう人の所属するクラブからの離脱をも意味した。

 そのためにクラブ関連のイベント参加もできなくなり、彷徨った挙句、ここ(レベリオン・クラブ)にたどり着いたようだ。


 しかし、“駆け込み寺”とな?


「あら? レベリオン・クラブは他のクラブでもめた人間の一時移籍先で有名よ? 知らなかったの?」

「あー。ただ単に、知り合いに誘われてきただけだからなぁ。なーんにも調べてなかったね。って、ん?」


 まあ、クラブ側に何らかの事情や特徴があるのはどうでもいい。

 行き場を無くした連中の一時的な受け皿というのも、MMOでは良くある話と言えばそれまでだ。新人の一時研修先とか、そういった支援系ギルドの世話になったこともあるし、不思議な話ではない。


 ただ、そうなるとキティがこのクラブに所属している理由が少し気になった。

 路地裏の連中ともめたという事はないだろう。ちょくちょくと顔を合わせているし、多様な属性のメンバーがいる路地裏仲間だ。風属性とかプレイスタイルとか、そういった理由でハブられるなど、まず有り得ない。路地裏仲間がクラブを作っているという話を聞いたわけでもないが。たぶん作っていないだろうけど。


 そうなると、キティはこちらのコミュニティで何らかの問題を起こし、はぐれてこのクラブに所属した。

 もしくは。俺のようにクラブ未所属を誘える程度の立場という事から、このクラブの初期創設メンバーであるという可能性。


 どちらかと言えば、後者かな?

 なんとなくだが、キティの考え方にはそれがあっていると思うし、役職が代表と副代表しかないクラブシステムだから、より深くプレイしているであろう蒼さんらが役職を与えられていると考えてしまえば、納得できる。



 俺はそんなことを考えていたが、考え込んでしまったがために無視される形となったメニー・メリー嬢のお怒りを買い、頬を摘ままれ、そこだけで全体重を支える羽目になった。


 VRだし痛みはないけど、ちょっと扱い、悪くないか?

 いや、無視して考え込んでた俺も悪いんだけどさ。

 すぐに暴力を振るうのは、淑女(レディ)として如何なものかと思うんだ、俺。





 メニー・メリー嬢の魔の手を逃れた俺は、少し伸びた頬を気にしつつもコースの利用登録をした。

 待ち時間は20分。レースを間に挟むには短いが、何もしないでいるのには長い時間だ。


 コースの設定は、牧場ではまだできない「天候:吹雪」「風:暴風」「気温:氷点下」という設定。

 気温については高高度のレース場ばかりだからほとんど氷点下しかないし、あまり意味はない。

 でも、吹雪の中を飛ぶというのは、今のところ経験が無い。他にやってない環境というと、雷雲の中という極悪設定ぐらいだが。それはまた今度。



 練習用コースの登録を行うと、ちらほらと他のクラブメンバーも参加を表明してきた。並走歓迎が固定設定の練習用コース。環境設定は待たされるけど、何も気にしないでいいのなら、他の人が登録した設定で飛んでもいいんだけど。それだと面白みが足りないし、ねぇ? デビュー戦ぐらい、自分の考えた設定でやりたいじゃないか。


 では、レベリオン・クラブの実力、見せてもらうとしましょう。

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