表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
63/239

3月2週目 吹雪の中で

 コースの設定は、「天候:吹雪」「風:暴風」「気温:氷点下」「距離:20㎞」「コース:楕円型」としておいた。

 一般的なレースを選択したときに吹雪いたという設定だ。



 初めて見る吹雪のコースは、思ったよりも普通だった。

 ネットで調べた状況そのままである。


 吹き(すさ)ぶ雪の嵐で視界が完全に塞がれているため、1m先すら見通せない世界(コース)。もちろんレース場で現在位置を確認するためには自身の目で見るしかないので、下手をすればコースアウトで即失格となるだろう。ここまでひどい状況だと、パヴァの≪風の加護(シルフィード)≫だって無意味だろう。

 同時に強風が進路を逸らしにかかり、まっすぐ飛ぶのも難しい有様だ。コースそのものは一般的な楕円型コースなのだが、たとえ体感距離で現在位置を把握しようと努めてもすぐに迷子に陥るだろう。これでランダムコースなどと言うグニャグニャ曲がったコースや、車のレースコースを模したヘアピンカーブなどがある難易度の高いコースに挑んだ場合は瞬殺を想定するレベルで危険なのだが。

 そして、最も怖いのが“他のドラゴンとの接触”だ。スタミナの無駄な消耗やスピードダウンも嫌なのだが、それよりも接触により方向が分からなくなるのが、最も怖い。一気にコースアウトの危険性が増す。

 それほど吹雪は危険な条件だ。事件などが起き、変なトラウマを持つドラゴンが出たりするために回避するプレイヤーも少なくない。

 例外と言えばブリザード・ドラゴンぐらいで、一般種族スキル≪吹雪の加護≫さえあれば平然と飛ぶことも可能だ。


 そんなわけで、吹雪は“普通”に危険だ。

 だが、低確率とはいえランダムで発動する可能性がある条件だし、多少は経験を積んでおくに越したことはない。ある意味、他のプレイヤーが逃げてくれるので確実に勝たせてもらえるラッキーな天候と見るのも変な話ではない。他の参加者も似たような発想だろう。





 発着場に行けばすぐにレースが始まる。

 カウントダウンがスタートする。

 5……4……3……2……1……0!!


 いつものレースと違い、合図の類はない。

 しかし、全てのドラゴンが一斉に飛び立ったと感覚で理解する。どうやら俺の騎手としてのレベルが上がっているらしい。周辺の状況が何となくだが分かる。

 速力を上げ前に出れば、雪は体にまとわりつくこともできずに後方へ流れる。実際に(リアルで)そんなことはないんだろうけど、ゲーム世界の出来事なので物理法則の出番はないようだ。


 最初は直線。何も考えず、前に進む。

 当然視界が利かないので俺の“なんとなく”を頼りに進むのだが、左から吹き付ける強い風に流されてか、右側に寄せられているように感じる。接触を含めて危険な兆候だ。


「パヴァ! 進路をわずかに左に寄せるぞ!!」

「分かった!!」


 打てば響くように帰ってくるパヴァの声。

 普通なら聞こえるはずがないのだが、この辺りは≪ご都合主義の(ゲーム上の)加護(設定)≫によりクリアに聞こえる。

 多少壁際から離れたところで進路を直線に戻す。壁を手に当て進むかのように道標とし、コースの把握をする。

 後はいつもの距離感覚で進むだけだ。ややペースは遅めだが、俺たちは確実に前に進んでいる。


 やがて右に感じていたコースが離れていく感じがした。コーナーに入ったらしい。すぐに減速をはじめ、コーナーに挑むが相当ギリギリになってしまった。第一・第二コーナーを抜ける頃には左の壁に接触(コースアウト)寸前だった。

 視界の悪さもあってスピードを抑え気味にしていなければ、ここでリタイヤだっただろう。


 俺達は左端ギリギリに位置しているが、途中まで他のドラゴンを避けるために現状維持をしようか少し考え、やっぱり内側によっておこうと考え直す。

 コーナーを過ぎたことで風は外側に俺たちを押している。無駄にリスクを背負う必要もないし、徐々に内側に寄るのであれば他のドラゴンを回避するのも容易だろう。いつもの感覚で考えれば次のコーナーで内側ギリギリになるよう進路を変更し、風の影響を最小限に抑えるためここでギアを全開まで上げる。風の影響を考えればコーナー手前で減速を始めればちょうどいいだろう。たぶんコーナーよりずいぶん手前で減速することになるはずだ。


 そうしてスキルを使わずに最高速度をめざし、全力を出させる。スタミナを考えると道半ばのここで全力を出すのは下策なのだが、吹雪という特殊環境への適応訓練と割り切り、気にせずにやる。

 パヴァもこういった環境でのレースは初めてなので手さぐりで、事前訓練の大切さがよく分かる。戸惑い、委縮し、全力を出すように言っているのにいつもほどスピードが出ていないのがよく分かる。そこは指摘してもたぶん対応できないので、逆に少し力を抜くように声をかけ、無駄な体力消耗を無くすようにする。



 嫌な話だが、ドラゴンが「全力を出しているつもり」だと、実際に全力全開の速度でなくとも同等のスタミナ消耗があるのだ。自分のドラゴンが今どの程度の速度で、どの程度力を出そうとしているかを感覚で理解できないと制御は不能。何度もレースを繰り返してパヴァとの絆を深めてきたからこそ分かることだが。

 よってパヴァ以外だと、速度以外はよく分かっていない。スタミナ現在値はたぶんと言ったレベルだし、後は緊張しているかどうかなどの精神状態の判別が出来るだけだ。



 第二コーナーから第三コーナーまでの直線を全力二歩手前程度の速度で突っ切る。

 途中で誰かとすれ違う事もなく第三コーナーに突入、これを上手く曲がることに成功。事前の減速タイミングも少し早すぎた気がしないでもないがそれなりに良く、無駄をほぼ出さずに最後の直線に入った。


 そこまで行けば何か考えるという事も無い。目の前に他のドラゴンがいようと相対速度の関係でそこまで酷いことにはならないだろう。むしろ、後ろに付けばスリップストリームで位置関係が分かるし。

 そんなわけで、≪限界飛翔≫を発動。最後だし≪風の加護≫で吹雪の勢いを弱めるのも考えたけど、そこにまで回すスタミナはもうない。現状を把握してさっさと諦める。


 同じように最後の加速(ラストスパート)をしている人は多い。

 だが、パヴァの方がより早く飛んでいる。すれ違うように道中で3人ほど抜いてゴールイン。逆に追い抜かれることも無く、無事ゴールにたどり着いた。





 練習が終わり、発着場には戻ってきた人が続々と集まってくる。そうやって集まる人は顔見知り同士で、レースでの反省会をしながらクラブハウスの部屋に向かっていった。

 俺はというと、ここでの知り合いというか、まともに声を交わした相手など蒼さんをはじめ、ごく僅か。寿退社を前提に考える女性社員のように、このクラブへは腰かけ程度の在席なので友人を作ろうという気概など俺には無い。しかしながら、こうやって余所者であることを強く意識させられると面白くないというのもまた確か。

 この辺りは矛盾しているというか、幼い子供のように我儘な感情なので、蓋をして現状維持するしかないのだが。

 強いて言うならキティやメリー嬢に「お付き合い」を願うという考えもあるけど……負けた気がするので却下。



 グダグダと、どうでもいいはずの事に気分の悪さを覚えた俺は、パヴァと反省会をするために牧場に戻ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ