2月4週目 フールマーズ②
最近増えた食費の確保というのは冗談だが、運営資金が足りないというのは事実だ。
そうすると、資金稼ぎにレースを増やすのは当然の判断と言える。
「何人たりとも、俺の前は飛ばせねぇーー!!」
だからと言って、レースの数はそのままでは増やせなかった。キティ、ファーラカーラ、インベティウムを時間差で出走登録し可能な限りレースに参戦しているが、どうしても登録から出走までの待ち時間がネックになる。レースの質を上げるという手もあるが、それだと勝率が下がり、逆に稼げなくなるのは本末転倒だ。
そこで出番となったのがフールマーズで、ズィルバー氏の口添えにより、俺は主戦騎手を務めるドラゴンを増やすことに成功した。
「ククク。貴様に俺が乗りこなせるかな?」
「……むしろ、お前に俺の指示を順守する素直さがあるかどうかだな」
とはいえ、噛ませ犬は完全な先行逃げ切り型の性格に、挑発に乗りやすく暴走しがちという性格的欠点を持った扱いにくいドラゴンだ。実際に騎乗してみたが、こちらの「待て」を実行できない我儘ドラゴンでしかなかった。
「じゃあ、反省会を始めようか。つーかさ、いい加減、俺の判断に従え。この駄目ドラゴン。抑えるところを抑えれば、普通に勝てるって言うのに。なんでいう事を聞けないかね?」
「俺の最速を証明するためだ!!」
「最馬鹿しか証明してねーよ」
俺はフールマーズに乗って10戦ほどしてみたが、勝率3割。負けたレースは全てこいつが暴走したことが敗因だ。
ちなみに、スタートラインは4歳にもかかわらず、2500万下。そんなに勝っていなかった。何とか2勝し、他に5回ほど入賞していたからこのクラスに手を届かせたという体たらくだった。
俺が乗るようになってようやく5勝でオープンクラス。はっきり言えば、全然駄目だった。少なくともファーラカーラ達は勝率6割で、同じ回数でGⅢに王手をかける程度に成長した。
能力だけを評価するのなら、そこまで悪くない。
パヴァと比較するのは流石に酷いが、ファーラカーラあたりと比較すれば十二分に戦えるスペックがあった。
しかし、こいつはスタート時点で先行争いをすると、いきなり全力全開で飛ぶという悪癖があった。負けたレースは全てそうやってスタミナを使い果たし、最後まで持たなかったというだけなのだ。そのほとんどがこちらを知っている相手による誘導だったと思われ、敵の術中に嵌ったという事だ。
ちなみに、勝った時は相手がこちらの事を知らず、かつ後方からの追い上げスタイルだった時のみだ。そういった相手が主力のレースだと、かなりいい勝負になるし、大体勝てる。
「ちったぁ逃げ切り以外も視野に入れろ! 結局後半、他の奴らのケツを拝むことになってるだろうが! 悔しくないのかこの馬鹿野郎!!」
「悔しいにきまってるだろ! 誰が好き好んで無様を晒すか!!」
「だったらスタミナ配分ぐらい覚えやがれ!!」
「俺の前を飛ぶやつを、なぜ許容せねばならん!!」
「レースに勝つためだろうが!!」
「貴様が何とかしろ!!」
「だったら従えよ大馬鹿ドラゴン!!」
現状は、あまり良くない。
結局のところ、スタミナが尽きるまで全力を出し切ろうとする馬鹿マーズを抑えきれない為に、俺が乗ることも他の奴が乗ることも変わらない。よって、俺が乗ることに価値が無いのだ。
更生させるために訓練でひたすら心を折ろうとしたが、この馬鹿、筋金入りの大馬鹿だったらしく。自分のやり方に一切妥協が無く、非効率と分かったうえで開幕スタートダッシュをやっているらしい。
それで勝てるわけがないのだが、それで勝てるようになりたいというのが救えないところで。何年もかけてこんなのかと、俺の頭が悲鳴を上げるレベルで痛くなっている。
つまりは、「レースに勝つこと」ではなく、「常に先頭を飛び、勝つこと」が目標なんだよ。この馬鹿。
美学を持つのはいいけど、それでは結果を出せないことを理解しろと言いたい。
偶然に頼る勝ち方してないのだ。今のフールマーズは。
「まだ、認められてないだけニャ」
「どうしろって言うんだよ……」
「そんニャの、知らなニャいニャ」
あまりに頑ななフールマーズの相手に疲れ、俺は癒しを求め、路地裏の「陽だまりの庭」にやってきた。
BGMはピアノ曲“春の風”で、ゆったりと過ごすことを求められている。ちょうどいいタイミングだったようだ。
そこにキティと連れ立ち入った俺は、コーヒー片手に愚痴をこぼした。
キティの方は他人事だけに興味無さ気で、反応が鈍い。
他のドラゴンに認められたければ、レースをこなし、勝ち続けるしかない。途中で負けようが、獲得賞金額の多さが騎手としての信頼を得るパラメータになるわけで。稼ぐことと騎手としての評価を高めることが同じ方法で出来ることを喜べばいいのか悲しめばいいのか。
勝つためにはフールマーズに言う事をきかせたくて。
フールマーズに言う事をきかせるためには勝たないといけなくて。
他のドラゴンでは勝っているけど実績が足りない。
なかなか酷い話であった。
まあ、効率が悪くて時間をわりと無駄に(?)使ってはいるけど収入は0じゃないのでいいと言えばいいのだけど。
もう少し何とかならないかねぇと思ってしまうのはしょうがないだろう。
「訓練で負かしてやってるってのに、全然反省しやがらないし」
「それ、逆効果にニャることもあるから、やりすぎ注意ニャー」
俺は精神的疲労から「ぐでー」と前足をカウンターの上で伸ばし、突っ伏した。
そして思わず漏れた愚痴にキティから容赦のないツッコミが入り、さらに脱力し、伸びてしまう。
「私が乗って、矯正する事は期待してニャいよね?」
「そりゃもちろん」
「それニャらいいニャ」
顔を上げるのも億劫な俺。すでに気力は0である。
しかし、それでもこの案件を人任せにしたいとは思っていなかった。
キティやニャンタ師匠のような、熟練のベテランが問題解決に乗り出せばすぐに終わる程度の話かもしれないけど。それでも自分の力でどうにかしたかった。
出来ることを増やすために、問題を人任せにするのは選択の外だ。
その意思表明をすると、キティからは楽しそうな声が返ってきた。俺はカウンターにキスしているからその顔は見れないけど、いい笑顔をしているんだろうね。
「ちょっとだけヒント、ニャ。“思うようにやらせてみるのも、一つの手”ニャ」
「?」
「相手の言い訳できニャい状況を作るのも、わりと大事ニャー」
訓練で、俺が騎乗した他のドラゴンで負かしたりしているんだけど? それでもまだ足りない、言い訳要素があるという事か?
俺はキティからの難題に頭をひねり、その表情を窺い覗いてみたが、楽しそうな笑顔からは何も見て取れなかった。
言い訳できない状況ねぇ。
誰に、何に言い訳してるんだ? あの馬鹿。




