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1月3週目 幼竜①

 週末はパヴァのご機嫌取りに終始した俺。

 実はこれ、確定情報ではないが、ゲーム的に大事な事だったりする。


 それは攻略サイトで噂されるマスク(見えない)データであるが、ドラゴンと騎手の間には「絆値」なるモノが設定されているらしい。毎日感情的な好悪で積み重ねられていき、特定のドラゴンと騎手の間で、相互作用による能力ブーストの効果を発揮するらしい。

 その日その時の感情も考慮されるのだろうが、「毎日の積み重ね」が重要らしく、一朝一夕でどうにかなるモノではないという。

 なのでパヴァのご機嫌取りは、早急にする必要があったのだ。


 なんで検証厨の手で立証されていないかというと、全く同じ環境下・訓練状況で生まれ育ったドラゴンでも、能力には相当なばらつきがあるからだ。それにこのゲームは能力値が目に見える形で表示されない。

 よって、攻略板には「ある可能性が非常に高い」という事しか書かれていない。

 あの連中は100%あると言いきれなければ、立証は不可能・推測レベルとしか言わないしね。俺はあると思っているが。





 そうやって週末を乗り切り、週明けの訓練も一通り終えた後、奴らは来た。


「猫村~。トレセン行くニャー」

「早くしないと売り切れるアルよ」

「俺は先に行ってるからな」


 キティ、ニャンタ師匠、三味線である。

 他にも数名の仲間がこちらに来ており、いや、来て一言声を掛けたらすぐに移動したのが何人もいたけど。


 みんなの用件は、トレーニングセンター(トレセン)へのお誘いである。

 今日は幼竜のトレセンセールがあるので、初心者の俺が困らないように一緒に付いてきてくれるというのだ。



 トレセンセールとは、0歳の幼竜をオークション・入札形式で販売するゲーム内の1年、月一回のイベントだ。

 このセールにプレイヤーは販売・購入のどちらにも参加することが出来る。また、新規プレイヤーにとっては初心者ボーナスの入る最後のイベントになっており、今月のこれを逃すとその最後の機会をフイにすることになるので、俺にとってはとても重要なセールなのだ。


 産まれたばかりのドラゴンのオークションというと人身販売的な臭いがするが、運営側の説明では「ドラゴンにとって、能力的に見合った、より良い場所で生きるための自己アピールの場」として認識させているらしい。

 ようは、野球などのドラフト会議のようなものだ。普通の選手が球団を選べないところも似ているので、大まかに考えて同じだと言える。

 ……その分、売れ残ったドラゴンに関しては悲惨なようだが。


 やり方としては、売り手側が売りたい0歳ドラゴンを選択、最低落札価格を決めて登録すると自動的にスタート。登録から12時間の間だけ入札でき、最終的に最も価格を高く設定したプレイヤーが落札するようになっている。時間内であれば入札金額を増やすこともでき、人気のドラゴンは凄い価格(数兆円)で落札される。


 特徴的なのは、リアルタイムで最高入札額を確認できるドラゴンが1頭しか選択できないことで、他に関しては入札人数しか見ることが出来ない。あと、最大入札頭数は3頭までである。

 この辺りの制限に関しては、資金力に劣る初心者救済的な意味と、入札の過剰過熱を防ぐためだ。上位陣が欲しがらないようなドラゴンでも、配合をちゃんと考えれば強い子供を産む親になれるからね。訓練次第ではほとんどのドラゴンがGⅢまで狙える。そこまで「乱獲」されない措置なのだ。

 もっとも。そんな魅力的なドラゴンはめったに出品されないのもトレセンセールの特徴なのだが。いい幼竜はプレイヤーなら自分か身内で囲うから、NPCの出品に期待するしかないのだ。



 トレセンに行くと、すでに多くのドラゴンがセリに賭けられていた。

 トレセンのコースを飛び、自分の能力を示す幼竜たち。自慢のコースタイムがデータとして表示され、血統と共に購入の指針となっている。

 「生産者(ブリーダー)」「調教師(トレーナー)」で始めたプレイヤーなら初めてでも幼竜のスペックを何となく感じるらしいが、(騎手)にはあんまりそういうのは分からない。何回か経験すれば騎手でもわかるらしいけど。とりあえず今の俺には全く分からず、仲間の言葉を信用するしかない。仲間なんだから騙されることは無いし、俺は安心して意見に耳を傾ける。

 俺が見て回っているのは当然風属性のドラゴンだけで、他の属性は見ていない。ここにいる連中は自分のお目当てにはすでに入札済みで時間的に余裕があるメンバーだけなので、俺も安心してアドバイスを聞くことが出来る。

 ちなみにニャンタ師匠は何も教えてくれず、俺の様子をただニコニコと見守るだけだ。ホント、何しに来たんだよ師匠。


 個人的な趣味で、2代前(ジジババ)まで風属性のみで構成されたドラゴンのみをピックアップ。ストーム・ドラゴン、エメラルド・ドラゴン、テンペスト・ドラゴン、サンダー・ドラゴンが候補に挙がった。

 このうちテンペスト・ドラゴンは手持ちの都合で見送った。推定落札金額は10億円ぐらいだったので、2億円しかない俺には無理だと全員一致の却下である。

 するとストーム、エメラルド、サンダーの3頭が候補になる。

 資金的余裕のない俺にとって、3頭に少しずつというのは不可能だ。本当ならもっと資金に余裕があるのだろうけど、一時期レースをさぼったり、重賞に挑むのを躊躇したり、施設にお金を使いすぎたりと、いくつもの理由で俺には余裕がない。ランクを落とさない限り、2頭だって無理だ。


 ストーム・ドラゴンは混血種でストーム2、テンペスト1、エメラルド1といったところ。父親はストームの純血種だったらしい。ちょっとレアだ。ニックスは4×4が成立している。他の配合理論はあまり成立していないので、微妙かもしれない。コース適正は12~20㎞で意外と早い。

 エメラルドは半純血種。かなりレアだ。エメラルド・ドラゴンとストーム・ドラゴンのニックス4×4が成立し、他の配合理論もいくつか組み合わせているので、基本能力は相当高いはずだ。コース適正は12~16㎞で、普通。

 サンダー・ドラゴンも混血種で、サンダー2、ストーム1、サファイア1で、純血種は混じっていない。ニックスはダブル(父親が母親とさらにその母親に対しニックスが成立する状態)だが、他の配合理論で強化されているので、そこそこ強そうだという話。コース適正は16~24㎞と少し長めで、普通よりちょっと早い。

 コースタイムの普通とか早いについては、今回出品された風属性の幼竜の平均タイム(普通)とコースレコードを参考にした。


 ストーム・ドラゴンはこの間リザに種付けした。

 サンダー・ドラゴンは純血種で上位互換のリザがいる。

 かといってエメラルド・ドラゴンは今見つけた3頭の中に限らず、かなり人気が集中しそうな気配もある。正直、こいつは予算オーバーの気配がするのだ。



 俺はしばらく悩んでいたが、情報が足りないという事でまずはエメラルド・ドラゴンの入札人数を確認してみた。

 ……2101人。無理だ。テンペスト・ドラゴンが161人と、一ケタ少ないというのに……っ!


 エメラルド・ドラゴンは早々に諦め、残る2頭を確認する。

 両方とも、入札なし。

 ……おい、待て。

 そこまで酷いか? 買う価値なしか?

 現段階でとはいえ、さっきのエメラルド・ドラゴンよりもいいタイムなんだぞ? なのに入札なし?


「一応補足するとだな、ここでドラゴンを買う奴の半数以上は「配合用ドラゴン」が欲しいだけで「速いドラゴン」が欲しいわけじゃねぇんだ」


 俺が不思議な事態に驚いていると、三味線がそう教えてくれた。

 あー。そういう事ね。納得した。

 今のエメラルド・ドラゴンは配合用として優秀だったから人気が出るし、この2頭についてはテンペスト・ドラゴンのようなレアでもないから、売れないわけね。

 そう考えると、頑張って速く飛び、アピールしているドラゴンがあわれに思えてくるな……。



 思わぬ状況に少し呆れたが、俺に不都合はないのだし、どちらにも入札することにした。

 とりあえず最低落札価格で入札し、他のプレイヤーが入札したらアラームで呼び出してもらえるようにする。

 リアルタイム監視はストーム・ドラゴンの側にし、サンダー・ドラゴンはちょっと優先度を下げる。サンダー・ドラゴンはすでにリザがいるし、あんまり増やすメリットを感じない。買えたら儲けものと、その程度だ。

 2頭合わせて2600万円。設定された金額は、仲間の言う適正価格の半分以下。そこまでスペックは悪くないだろうし、配合もちゃんとしているから、初心者補正でGⅡぐらいは目指せるだろうと言っていた。



 その後、入札者は現れず、この2頭はどちらも俺のもとに来ることになった。

 ただし。2頭買ったが、初心者補正は先に入札の終わった「サンダー・ドラゴン」の側にしか発揮されず、そのことで頭を抱えることになったが。

 ついでに、浮いたお金は厩舎の拡張費用に消えてしまったので、一気に赤貧生活になったことも記しておく。

 何をやっているんだ、俺……。

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