苦心惨憺 5
それを庇おうとミーファが身をていして代わりに鞭を受けることもしばしばあった。そんなミーファの気持ちをイェオーシュアが知らないわけがない。二人は互いに庇い合い、助け合っていくうちに尊敬し合う仲になっていった。 二人の関係は金剛石よりも固く、夜空の中天に輝く北極星よりも輝いており、本当の意味での親友になっていった。そんな二人の姿を見た他の者も二人を尊敬し、皆で励ましあって苦難の日々を耐えていた。
そんな不遇の時を過ごすイェオーシュアには唯一の希望とも言うべき光明があった。週に一度、アルバとの面会を許された時である。それも三時間という、短い時間であったが、会う度に成長する愛児の姿を見て、幸福を噛み締めていた。クリクリとした銀色のおかっぱ頭のアルバを膝の上に乗せては何気ない会話をしていた。その時、アルバはシュウお兄さんの伝言を幼いなりに伝えて帽子をプレゼントする。イェオーシュアはこの天からの授かりものから初めてプレゼントを渡され、号泣してはアルバを困らせていた。我が子からもらった帽子を宝物にし、面会時間だけその帽子を被り、少ない時間ではあるが、母子の憩いの時間を過ごしていた。
* * *
鮮やかな紅葉が舞い散る中、何台もの車両が一台のリムジンを警護して舗装された道路を走っていく。
「皇国は、良いところだな」
赤毛をした、鏡面加工を施したサングラスを掛けた男が車窓に流れる銀杏並木を見つつ、ぽつりと呟くようにまた言った。
「それに幾分かは復興が進んだようだ」
総髪白髪をした執事風の男が答えた。
「はい、御屋形様が東アジアを追い払ってから五年です」
「そうか、もうそんなに経つか。月日が経つのは早いものだ。なあデューイ?」
「左様でございます。私も歳を取りました」
「そうだな、オレも歳を取った」
一行が米帝基地内に入ると、司令部のある建物まで紫の軍服を着た兵士が堵列して迎えていた。やがてリムジンが到着して先ほど"御屋形様"と呼ばれていた男が降りると、司令官の腕章を付けた男が、
「第三統領に敬礼!」
と号令し、一斉に兵士達が銃剣の音を立てて敬礼をする。それに答えるように背の低い赤髪の男が右手を軽く上げて休めの合図をした。
「出迎えは無用のはずだったが?」
「はっ、米帝の英雄に立ち会える光栄を思いまして」
「我が輩はまだ陛下からの勅令を賜っていないぞ?」
「こ、これは失礼しました、元帥総長閣下!」
「それでいい、では早速だが工場を視察しよう。案内してくれ」
読者の推察通り、皇国方面軍司令官に案内されてシェイン族が働く軍事工場に向かう人物こそ曠世の英雄児、レウレト=フォン=ルクレールである。
彼がここに来た理由は二つある。一つは彼が秘密裡に計画していた皇国に於ける、シェイン族の自治区を視察するためである。なぜに彼が秘密にしていたのかについては第三部にて詳しく述べることにするが、大まかに言えば自治区を統治するために皇国の関係省庁に根回しをするための"隠れみの"としてこの工場を選んだ。いま一つは彼の興味本意である。この時期、彼が率いる米帝は露国を攻略していて、時局は米帝優位で進み、休戦状態にある。その最中に彼は一人のシェイン族兵士と出会い、話しているうちに興味を持った。なぜならその兵士の持っていた写真には、彼の最愛の人と酷似した人物が写っていたからである。




