苦心惨憺 4
「どうやら貴様には教育が必要なようだな」
言われて彼女がきっとでギュストを睨む。
「なんだその目は!」
ギュストの鞭が彼女の肩に飛んだ。
「自分の名前を言ってみろ、言わんとまた鞭が飛ぶぞ!」
「〇二五一号……、です」
「ほう、言えるじゃないかあ。だが貴様にはまだまだ教育が足りないとおれは思う」
言ってギュストがしたり顔で彼女の頭を鞭でこづいた。
「〇二五一号」
「はい」
「"私は人間様に奉仕する牝犬です"って、言ってみろ」
「わたしは……、牝犬なんかじゃありません」
「言え!」
「牝犬なんかじゃありません!」
その途端にギュストの鞭が二、三度飛んで、それからやおらに彼女の傍近くに寄って、そっと耳元で囁いた。きっと悪魔はこうやって話し掛けるのかも知れない。
「ガキがどうなってもいいのか?」
聞いた途端、彼女の全身の血がひいて、心臓が凍りついた。ギュストの言葉は的確に彼女の急所を捉え、小さな針で突き刺したのだ。
「私は、人間様に、……、です」
「聞こえんなあ」
「私は人間様に……、犬です」
ギュストが冷たい笑みを浮かべて、また言った。
「聞こえないなあ?」
「私は、人間様に奉仕する、牝犬です」
「はっきり言ってみろ!」
「私は! 人間様に奉仕する! 牝犬です!」
「やればできるじゃないかあ。子を思う親の愛は偉大だねえ!」
そう言うギュストとは裏腹に、彼女は叫びたい衝動を抑えながら立っていた。
「このように反抗的な態度をとればおれの鞭が容赦なく飛ぶから肝に銘じておけ、いいな!」
「はい!」
「仕事は明日からだ、しっかり休んでおけよ」
ギュストがつかつかとその場を去り、彼女達はめいめい自分の番号がある部屋に入っていった。イェオーシュアはただ泣きながら立ち尽くし、ミーファだけが彼女の手を取り抱きしめていた。
何故イェオーシュアはギュストに反抗したのだろう。それは彼女の自尊心がそうさせたのだ。ギュストの人を人と見ぬ態度が許せなかったのだ。 だがギュストにしてみれば、それは大したことではない。むしろ暇つぶしの遊び道具が見つかったと、内心ほくそ笑んでいた。猫がネズミをいたぶるように、彼女を弄んだのである。そうしてこの陰険な"遊び"は続く。なぜならアルバという、かけがえのない存在を握られ、彼女はただ服従するしかないのだから。
イェオーシュアは次の日から働いた。ギュストに鞭で叩かれた場所は赤く腫れ上がり、服が擦れる度にヒリヒリと痛んだが、それに耐えながらミーファと隣合わせで仕事をしていた。ミーファはイェオーシュアをいたわり、まるで罪を償うかのように仕事を助けていた。なぜならミーファはあの時、イェオーシュアがアルバの為にしたことをその目で見て、なにも出来ない自分が悔しく、不甲斐なく、情けないと思ったからだ。
同じ部屋でミーファは何度も謝っていたが彼女は、
「気にしなくていいわ、だから謝らないで」
と笑顔で言っていた。
しかしミーファは気が済まない。彼女を少しでも楽をさせて守ろうと懸命に仕事をする。そこにギュストがなにかと難癖をつけてはイェオーシュアを虐めてくる。




