憂々哀心 3
「バルジーニ副総裁とテールノワール宰相とは昵懇の間柄じゃったな……。事が重大なだけに、迂闊には手を打てんのう」
「はい、もしかしたら私を嵌めるための罠かも知れません。専用端末を使用できるのは限定されますので……」
「うむ、先々の用心に超したことはないからの。少なくともランカスター皇帝の葬儀が行われるまでは動かんほうが良いじゃろう。ところで、わしは露国遠征が決着次第に戦争終結宣言がされると見ておるんじゃが、立憲政体法の決議もその頃に可決するんじゃないかの?」
「おっしゃる通りです」
「タイミングが良すぎる嫌いもあるが……、まあこれ以上推測を重ねても仕方あるまい。まずは明日のパーティーを成功させて、地固めをせねばの」
そうドンカスターが言うと、先程と同様に指をパチンと鳴らした。
「難しい話はこれまでとして、久しぶりに会ったんじゃ、ウィスキーでも飲みながらチェスをやりたいのう」
「いいですね、やりましょう!」
「おっ、えらく気合い入っとるのう。まだまだ若いもんには負けんぞい」
* * *
翌日の夕方にパーティーは行われ、テレビで大々的にその模様が放映された。絢爛たるパーティーが終わり、ドンカスターは自分の部屋で煙をくゆらしつつくつろいでいた。
――ふう……、やっとパーティーが終わったか。これでわしの長年の夢にまた一歩進んだ。集落の皆は元気にしとるかの……。
感傷に浸りながら窓の外を見つめていると、突然ドンカスターの胸元が光りだした。慌てて胸元にある結晶石を見ると、ゆっくりと明滅している。ドンカスターの脳裏に刀剣にも似た一筋の直感が疾った。
「バ、バカな! 集落に何が……、しまった! 今日は満月か!」
勢いよくドアが開いてロンシャンがドンカスターの傍に走り寄る。見ると彼女の右手にある結晶石も煌々と光っていた。
「ドンカスター、これは!」
ドンカスターが険しい顔をしてうなずくと、受話器を取ってバルバロッサを呼んだ。
「ドンカスター卿、お呼びで」
「緊急事態じゃ! 集落が危険にさらされておる。至急、ジュストを呼んできてくれ!」
ドンカスターのただならぬ様子を察知したバルバロッサがジュストを呼びに行く。すぐにジュストが駆け付けてきた。
「先生、どうなさいました?」
「ジュスト、すまんが今すぐわしらは集落に戻らねばならん。集落が危険な目に遭っておる!」
「なんですと? しかし何故それが……」
「これじゃ。この結晶石は三つあり、わしとロンシャン、集落に残したアプリコットしか使えん。一人が使うと他の石が反応するようになっとるんじゃ。つまりアプリコットが危険を察知した証拠じゃ。今すぐ車を用意してくれ、頼む!」
「わかりました。ですが車では時間がかかりすぎます。専用ジェット機を使って下さい。ですがそれでも半日はかかりますが……」
「うむ、恩に着る」
「バルバロッサ、至急、ジェット機の手配を。先生をよろしく頼む!」
「かしこまりました。ドンカスター卿、ロンシャン様、私について来て下さい」
三人はドルオール邸の庭にある専用機に搭乗し、集落に向けて出発した。ドンカスターが操縦席に入り、専用機を操るバルバロッサに方角を示す。フロントガラスを見ると一筋の青白い光の柱が細く見えた。




