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一期一会 第一部  作者: ヤルターフ
第一編 静寧の森
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愛恋の火 6

 夜空の星たちは瞬き、草木は眠っているかのようにひっそりとたたずみ、かすみ草達が静かに二人を見守っている。


「きみを初めて見た時、ぼくは女神に会ったと思った」


 それを聞いて、彼女は優しく微笑んだ。


「きみが弓の手本を見せてくれた時、ぼくには戦乙女にも見えた」

「フフッ」

「そのあと、きみは大きなお腹の音を鳴らしたっけ」

「あの時はほんとに恥ずかしかったわ」

「あの時は笑ってごめん」


 二人は微笑みあった。


「ぼくは嬉しかった。久しぶりに……、本当に久しぶりに心の底から笑えたから」

「うん、わたしも一緒に笑ったわ」

「そのあと、一緒にお弁当を食べたよね」

「うん」

「きみはアーンってしてくれて、ぼくは死ぬほど恥ずかしかった」

「うん、知ってる」

「いじわるだなあって、思った」

「だって可愛かったんだもん」


 二人はまた微笑みあった。


「そのあと、きみはぼくの先生になると言ってくれた」

「うん」

「しかもお弁当も作ってくれるって言ってくれた」

「そうね」

「ぼくは嬉しかった。きみは毎日、お弁当を作ってくれたね。ありがとう」

「うん」

「ぼくは毎日、きみに会いにいった」

「うん」

「きみに会うたびに、嬉しいって思った」

「わたしもよ」

「毎日会うたびに、きみは綺麗になっていった。雨の日も雪の日も会いたくてしょうがなかった。なぜならきみはぼくの中でどんどん大きくなっていって、まるで、一緒に居るのが当たり前の存在になっていたから。でも今日、試験に合格してきみと会う理由が無くなると、きみに会えないと思ったら、急に胸が苦しくなった……。だからぼくは考えたんだ。きみと一緒に食事ができれば、どんなに幸せか。きみの笑顔を毎日見れたら、どんなに幸せか。きみと一緒に暮らせたら、どんなに幸せか……。父さんは言っていた。大事な人を守るのが男だって。きみはぼくにとって大事な人だ。ぼくは、きみを守りたい、幸せにしたいんだ……」


 真摯しんしに紡がれる彼の言葉に感極まったのか、彼女は静かに涙を流していた。


「イェオーシュア、きみのことが好きだ。ぼくはまだ狩りを知らない半人前だけど……、きみのことを誰よりも想っている。きみのことを守り、幸せにしてみせる。だから……」


 言って彼は自分の胸元にしまっていたネックレスを取り出して、指輪を外した。それは形見である銀の指輪で、裏には二人の名前のイニシャルであるYとAの文字が加えられている。それを彼女に差し出すと、


「イェオーシュア、ぼくと結婚してください」


 そう言うと彼女は、


「はい」


 と顔を上げ、それからアルフレッドを見つめ、涙を零しつつ笑顔で指輪を受け取った。この瞬間、この場所で、アルフレッドとイェオーシュアは永遠の愛を誓い合った。水面に映る星たちの瞬きが、祝福するかのように二人を照らしていた。アルフレッドがイェオーシュアの左手の薬指にゆっくりと指輪をはめる。そうしている間、彼女は泣いていた。人の流す涙には二種類ある。悲しい時に出る涙と、そうでない涙と。この時、彼女の瞳から流れていた涙は、喜びの涙であった。


 イェオーシュアの涙を、アルフレッドがそっと指で払う。すると彼女が声を掛けた。


「ねえ」

「うん」

「わたしの目を見て」

「う、うん」


 言われて彼女の目を見つめるが、つい気恥ずかしくて目をそらしてしまう。


「ダメ、目をそらさないで」

「うん」

「愛してるって、言って」


 そう懇願しつつ彼女の両手が彼の後頭部にのびる。


「あ、愛してる」


 そう言って彼が目を逸らしてしまう。


「ダメ、目をそらさないで言って」

「愛してる」

「もう一度」

「愛し……」


 言いかけたその瞬間、彼女が口でふさぎ、そのままもたれるようにして彼を押し倒し、口を開けて舌を絡ませる。彼女の口から炎が出た。


「イェオーシュア」

「ヨシュアって呼んで」


 そうして二人は、愛恋の火に溶かされていった。

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