愛恋の火 6
夜空の星たちは瞬き、草木は眠っているかのようにひっそりと佇み、かすみ草達が静かに二人を見守っている。
「きみを初めて見た時、ぼくは女神に会ったと思った」
それを聞いて、彼女は優しく微笑んだ。
「きみが弓の手本を見せてくれた時、ぼくには戦乙女にも見えた」
「フフッ」
「そのあと、きみは大きなお腹の音を鳴らしたっけ」
「あの時はほんとに恥ずかしかったわ」
「あの時は笑ってごめん」
二人は微笑みあった。
「ぼくは嬉しかった。久しぶりに……、本当に久しぶりに心の底から笑えたから」
「うん、わたしも一緒に笑ったわ」
「そのあと、一緒にお弁当を食べたよね」
「うん」
「きみはアーンってしてくれて、ぼくは死ぬほど恥ずかしかった」
「うん、知ってる」
「いじわるだなあって、思った」
「だって可愛かったんだもん」
二人はまた微笑みあった。
「そのあと、きみはぼくの先生になると言ってくれた」
「うん」
「しかもお弁当も作ってくれるって言ってくれた」
「そうね」
「ぼくは嬉しかった。きみは毎日、お弁当を作ってくれたね。ありがとう」
「うん」
「ぼくは毎日、きみに会いにいった」
「うん」
「きみに会うたびに、嬉しいって思った」
「わたしもよ」
「毎日会うたびに、きみは綺麗になっていった。雨の日も雪の日も会いたくてしょうがなかった。なぜならきみはぼくの中でどんどん大きくなっていって、まるで、一緒に居るのが当たり前の存在になっていたから。でも今日、試験に合格してきみと会う理由が無くなると、きみに会えないと思ったら、急に胸が苦しくなった……。だからぼくは考えたんだ。きみと一緒に食事ができれば、どんなに幸せか。きみの笑顔を毎日見れたら、どんなに幸せか。きみと一緒に暮らせたら、どんなに幸せか……。父さんは言っていた。大事な人を守るのが男だって。きみはぼくにとって大事な人だ。ぼくは、きみを守りたい、幸せにしたいんだ……」
真摯に紡がれる彼の言葉に感極まったのか、彼女は静かに涙を流していた。
「イェオーシュア、きみのことが好きだ。ぼくはまだ狩りを知らない半人前だけど……、きみのことを誰よりも想っている。きみのことを守り、幸せにしてみせる。だから……」
言って彼は自分の胸元にしまっていたネックレスを取り出して、指輪を外した。それは形見である銀の指輪で、裏には二人の名前のイニシャルであるYとAの文字が加えられている。それを彼女に差し出すと、
「イェオーシュア、ぼくと結婚してください」
そう言うと彼女は、
「はい」
と顔を上げ、それからアルフレッドを見つめ、涙を零しつつ笑顔で指輪を受け取った。この瞬間、この場所で、アルフレッドとイェオーシュアは永遠の愛を誓い合った。水面に映る星たちの瞬きが、祝福するかのように二人を照らしていた。アルフレッドがイェオーシュアの左手の薬指にゆっくりと指輪をはめる。そうしている間、彼女は泣いていた。人の流す涙には二種類ある。悲しい時に出る涙と、そうでない涙と。この時、彼女の瞳から流れていた涙は、喜びの涙であった。
イェオーシュアの涙を、アルフレッドがそっと指で払う。すると彼女が声を掛けた。
「ねえ」
「うん」
「わたしの目を見て」
「う、うん」
言われて彼女の目を見つめるが、つい気恥ずかしくて目をそらしてしまう。
「ダメ、目をそらさないで」
「うん」
「愛してるって、言って」
そう懇願しつつ彼女の両手が彼の後頭部にのびる。
「あ、愛してる」
そう言って彼が目を逸らしてしまう。
「ダメ、目をそらさないで言って」
「愛してる」
「もう一度」
「愛し……」
言いかけたその瞬間、彼女が口でふさぎ、そのままもたれるようにして彼を押し倒し、口を開けて舌を絡ませる。彼女の口から炎が出た。
「イェオーシュア」
「ヨシュアって呼んで」
そうして二人は、愛恋の火に溶かされていった。




