グスタフ視点 行方不明の捜索?!
誤字脱字を早速発見したので、訂正しました。
内容も後半少しだけ編集しております。
亀更新のこの作品をお読み下さる皆さま、本当にありがとうございます。中々故郷に戻れない運命のザルツを宜しくお願いします。
*** グスタフ視点 ***
「では、貴方はここに残る選択をする。という事で間違いないですね。」
ため息混じりになるのをグッと堪えながら確約を取るべく相手を見据えた。
しかし、私の視線から目を逸らさずに受け止める人族がいるとは驚きだ。我がドワーフ族ですらマトモに視線を受け止める者は少ないというのに。
「はい。この事は文書にして確約をしてもらっても構いません。そして残留を希望しているのは私の仲間全員同じです。」
キッパリと述べる目の前の人族を眺めながら、先程見てきた殿下の部屋での事件を思い返していた。
あの日から、誰も入る事ない封印された部屋。
その部屋へ入るのが、まさか行方不明の殿下とヤークル姫の恩人の人間を探す為だとは流石に予想だにしなかった。
一歩踏み入れた途端、部屋を覆い尽くす魔法陣の数に息を飲む。その全てが『破壊』や『爆破』といった物騒なモノだと分かったからだ。
「魔法省のカーライル長官を呼んでこい」
あと一歩動いていたら、城が全壊したな。いや、王都全体が吹っ飛んだかもしれぬ。
そんな物騒な予想を頭に巡らしながら、観察を続けていたら背中に転移魔法の揺らぎを感じた。
「何事ですかな、コレは…」
いつもながらの眠そうな表情が、見た瞬間一変する。
「ヤークル姫様の恩人の人間を連れて、殿下が行方不明になった。部屋を検めようとしたら、このザマだ。」
身動きの取れない自分自身への嘲笑も込めて薄笑いすれば呆れた様な顔でカーライルがこちらを見ていた。
「伝令にもう少し詳しい情報をお与え下され。
しかしながら、これほどまで破壊や爆破の魔法陣で埋め尽くされた場所など見た事もありませんな。おや?」.
静かな喋り方が基本のカーライルが突然固まったので、後ろに控えていた私の部下(諜報部隊の連中)からの緊張感が伝わってくる。ふむ。流石にこの場所の危険性は奴らにも理解出来たか。そう思って視線をカーライルへ向けた途端、その身体から魔力が発せられた。『鑑定』か。
しかし、魔力を向けて大丈夫なのか?!
「宰相閣下。この物騒な魔法陣は全て破壊済みです。要するに骨抜きになっていて踏み込んでも作動することはありません。」心の問いかけに答えた様な返答だ。しかしその内容は頭にちっとも入って来ない。
「は?」思わず声が漏れる。
「宰相閣下でも、その反応とは。
まあ、無理もありません。これほどの魔法陣が破壊されれば痕跡も残さず街一つ消えるのが当たり前ですから。
しかし、この魔法陣は通常のやり方とはかけ離れた方法で破壊されているので、完全に安全です。私が保証します。
しかしながら、この有り様。殿下と共に消えた人間とは、本当に『人族』ですか?恐らく、魔法陣の破壊はその者の様な気がしますが…」
この物騒な魔法陣が無効だと知って安堵はしたが、この部屋が異常な状態である事に代わりわない。行方不明の二人を探す鍵はここにしかないのだ。
それにしても、人族が絡んでいるとは。マクガの言った事が証明された形かも知れぬ。
『グスタフ殿。よいか、この『ザルツ』と言う人族は前代未聞の力を保持している。しかもそれを無自覚に善意の心でポイポイと使用する。
まあ、我々の忠告を聞く方が良いと思うぞ。』
怪我をしたガゼラン殿に付き添いながら、皮肉な目線を投げてよこしたマクガ。
今ならば理解出来る。
「では、殿下とその人族が何処へ消えたか追跡を頼む。諜報部隊は置いてこく。コキ使ってくれ。」
真剣な様子で部屋を観察していたカーライルはコクコクと頷くのを見て私はその場を離れた。
問題のその人族のいない隙に、他の人族をこのドワーフ国から追い出す為の作戦を実行する事にある。その為にも、国王陛下の決断が必要だった。
その内容はこの数百年来のドワーフ国の掟を破る内容になるのだ。
それは『迷いの森』の解放だ。
やっと確約を取ったのに…。
全員が残留希望とは。
破格の待遇で長年閉じていた『迷いの森』を解放しようと言ったのにだ。
『迷いの森』
人族とドワーフ族の境に位置する大森林。
今は誰もが、侵入不可となったその森は我がドワーフにとっては『護りの森』でもある。
数百年前、ドワーフ族が人族との決別を決めた時に精霊に力添え頂き誰もが侵入不可の『迷いの森』となったのだ。
以来、人族はもちろんドワーフ族ですら『精霊の加護』のない人間は通り抜けする事は出来ない。
そして、現在数十年ぶりにその加護を持つ者が現れたのだ。まあ…現在行方不明になっているのだが。
『王太子殿下』
聡明で誠実な気質の次期ドワーフ族の王となるエガラン様に起きた悲劇は止められないものだった。この城の下に閉じ込めた『澱み』は王家一族が長年封印をしてきたモノだ。
しかし、封印されていた『澱み』は膨れ上がり爆発寸前まできていたのだ。
封じ込める為には、精霊の加護のある『王太子殿下』しかなかった。
成功した。
最初は誰しもそう思った。
しかし、少しづつ顔色を悪くする殿下に気づいた時には既に手遅れだったのだ。
『乗っ取られ』
一部漏れた『澱み』が恐らく殿下に取り憑いたのだ。
徐々に、抑えきれない暴走を繰り返した殿下が下した結論は一つ。
『封印』だ。
殿下ごと、封印するしかない。
エガラン様はその生命全てを封印の礎にする、そう決断したのだ。
この事は王と私のみの秘匿とし、他の者たちには『魔剣』によるモノとした。
当時の国王陛下の落胆は、慰めの言葉すら失うほどのもので更にヤークル姫様が『魔の森』へ入られたと知らされた時には王座が、怒りと共にが振り下ろした拳で粉々になったほどだ。
「宰相閣下。我々はザルツに命を拾われた者なのです。彼を置いて去る事はあり得ません。残留の決断の結果、再び牢屋へ舞い戻ろうとも変わる事はありません。」
落ち着いた話し方をする目の前の人族の名前を記憶から探る。
そうだ…ゼリアだ。
「ゼリア殿。ザルツ殿に我々も助けられたのだ。『恩を仇で返す』などドワーフ族にはあり得ん。もちろん,牢屋など論外だ。しかしながら、人族がここに居るのはドワーフ族の掟に反するのだ。
だから、ザルツ殿が見つかるまで、この部屋から出ないでもらいたい。」これでもこちらとしては、かなりの譲歩なのだが反応はどうか。
「もちろん、宰相閣下の仰る事に従います。ですからザルツの情報だけは下さい!!
今,ザルツの見つかる目処は立っているのですか!!」
了承は得た。しかしやはり彼らの視線の先にあるのはザルツ殿のみ、という訳なのだな。
私は無言のまま首を横に振った。
冷静そうに見えた目の前の人族も私の表情から現状を察したのか、無念そうな表情で俯いた。
これ以上話はないと、立ち上がって私がドアへと向かった。
ドアの外側には、当然、私の部下数名が既にこの部屋の警護(見張り)の任についている。
彼らの自由は無い。
(ふぅ。現状これで全ての手は打てた筈だ。
後はカーライルの進捗を確認して…)
脳内で次の要件を思い巡らせながらドアノブに手をかけようとしたその時。
ドンドンドン!!!
激しくドアを叩く音の後、一人の兵士が飛び込んできた。
「失礼します!!
国王陛下よりの伝令です!!
王都中央公園に,突如巨木出現。しかも巨木は『精霊の木』と確認済みです。
緊急事態の為、すぐさま執権の間にお越しください。との事です。」
「分かった。今行く。」
落ち着いた声でそう答えながら、背中には冷や汗が流れる。『精霊の木』だと?!しかも巨木とは…。思考の海に沈みかけた私の耳に人族の呟きが届く。
「ザルツだ。間違いない…」
。。。
ザルツ…また彼か。
初対面で見た彼の幼き笑顔を思い出しながら(警戒心のまるでない馬鹿面とも言う)急ぎ足で執権の間へと足を進める。
その後の出来事を思い出すたびに慢性頭痛が悪化する羽目になる。無論、感謝と共にだが…。




