脱出は時間との戦い?!エガラン視点
*** とあるモノの呟き ***
まだ、目覚めの時じゃないと知っている。
それでも、この場所に決めたんだ。
だって…。
*** エガラン視点 ***
長い間、暗い澱みの中で藻搔いていた。
僅かな、本当に僅かな
光に縋って戻る現実で知る、己の犯した罪の数々にひたすら絶望に襲われる日々。
『乗っ取られている』から。
そんなモノは理由にはならない。
俺は王太子なのだから。
いや、王太子だったのだから…。
決定的な罪を犯す前に、僅かに残った意識の元、両親へ封印を頼んだのは最後の決着のつもりだった。
二度と誰にも会わぬ為に。
それなのに、何故か誰かが俺の手を握りしめている。
久しぶりの手の温もりだ。
その温かさに後押しされてように、沈み込んでいた意識が僅かに浮上し始める。
目蓋がピクピクと動いたのだろうか。握りしめるその手のひらの必死さが強くなる。
誰かの声が聞こえた気がする。
そうだ…早く目覚めなければ。
気持ちばかりが焦るも身体が動かない。
『エガラン〜。お願いだよ。起きてくれよ、お化けが怖すぎるんだよ〜。』
幼子の声の助けを求める声がした。
一気に意識が浮上して、重かった目蓋がようやく開いた。
「あっ!!エガラン。良かったよ。目が覚めたんだな。」
人間だ。
。。。
何故、ココに人間が。。と混濁した意識が現実に戻るのに時間はかからなかった。何故なら、彼の茶色いの瞳からは涙が盛り上がっていて今にもこぼれ落ちそうになっていたからだ。
確か名前は「ザルツ。俺はいったい…」
倒れた時の状況を思い出して、愕然とする。
回復は望めない。
そのはずだったからだ。
三年にも及ぶ『乗っ取られ』との戦いは、まともな食事など出来ようはずもなく、宝剣から与えられる魔力と『乗っ取られ』からの負の魔力で何とか生き延びていた様なモノだったのだ。
だから、其れらから離された今、生き延びれるはずもない。
それは、ザルツがくれた『ミソシル』が如何に凄まじくても、それでは時間稼ぎにしかならない。恐らくは…。
「ザルツ。俺はあれから?」
しっかりと目が覚めた俺に満面の笑みで説明を始めた内容は更に驚きに満ちていた。
森から薬草をとって『薬草茶』を作り飲ませた。そしたら、俺の生気が戻った。
「エガラン。身体の魔力を動かしてみてくれよ。たぶん、何か変わってるから!!」
『乗っ取られ』からの負の魔力ごと動く可能性に用心しながらも、この状況把握のためにゆっくりと魔力を動かした。
じわっと腹の底に熱さがトグロを巻く。更に力を込めれば、ぐるぐると身体中をマグマの様な熱さが回り出す。
「エガラン!!エガランってば!!!
や、やめた方がいい。顔が真っ赤になってきた。なぁ!!」
俺の腕を掴んでガシガシと揺さぶるザルツをよそに、魔力を巡らすのをやめなかった。
辞められるはずもない。
何故なら身体に巣食っていた『負の魔力』が熱にやられて消えてゆくのだ。まるで氷が溶ける様に身体が軽くなり自分自身に戻りつつあるのだ。
「コレは不味いな。俺が余計な事を言ったからだな。よーし。アレしかないな。」
ブツブツ言うザルツを放っておいて、あと少しで『負の魔力』を焼き尽くす寸前までいった。
この時。俺はこのザルツの呟きを聞いておくべきだった。超規格外のこの人間を甘く見ていた俺の後悔は後々も続く事になるのだから。
ガツン!!!
魔力巡りをしていた俺は突然、横面を勢いよく弾かれて地面に叩きつけられた。
弾かれた事よりも、その瞬間に身体の中に入り込んだ何かが大問題だった。
「良かった。大成功だぁ。エガラン、エガラン。もう大丈夫だよ。」
倒れた俺を助け起こしてくれたのはザルツだが、恐らく横面を張り倒したのも彼だ。
「ザルツよ。今,いったい何が起こったんだ?」
「もう安心だよ。チビを呼んだんだよ。
久しぶりに笛を吹いたから、来るか不安だったけどこんな場所にもちゃんと来るから良かったよ。」
彼が撫でているのは、膝に乗っている馬。
こんな小さな馬なんて聞いた事ないが、その前に。
馬の頭に角が見える。
確かに一本角だ。だとすれば…。
「チビはさ。近くの森にいた迷子なんだよ。
出会った頃から大きくならないけど、この角には凄技があってさ。」
知っている。
いや、俺の予想が的中ならばチビ呼びしている馬の正体は『神馬』だ。そこまで思いついた俺は急いで自分の胸をぺたぺたと触った。
「それでさぁ、チビってばさ…」
ザルツのチビ自慢は続いているが、俺はそれどころじゃない。
何故なら『おい、そこの馬鹿ドワーフ。オメェだよ。フン。間違っても俺様をチビ呼びするんじゃねえぞ。ザルツは…特別なんだ。』
やはり『神馬様』なのか。
『そうよ。俺の角を受けたんだ。お前を乗っ取ろうとしていたヤツは消えたよ。だが、ヤツが作り出したこの世界の歪みまでは手が届かないぞ。まあ、ザルツと守護者が何とかするだろうが、お前も彼を守れ!!
その為に、一つだけ加護を授けよう。まあ、清い身体で良かったな。でなければ…。』
「クゥーン。」
「ん?チビ。何だよ、もう帰るのか。まあ無理に呼んじゃったからな。薬草茶しかお土産ないけど持って帰ってくれ。」
先程まで頭に響いていた、ドスの効いた声とは違う可愛らしい声で神馬様が鳴くとザルツが首に何かを結びつけた。その途端、姿は消えた。
ツッコミ処しなかい。
いや、考えない方が心の安寧のためだ。
しかしさすが神馬様の角だ。身体が完全復活した。漲る魔力は恐らく以前よりかなり増えているはずだ。
「ザルツ。本当に感謝しかない。この恩は生涯忘れぬ。」
膝をついて頭を下げた。
「ちょっと、エガランってば。やめてくれよ。
それよりも今は緊急事態なんだよ!!
ここの影が一切動いてないんだ。」
時が止まっている空間か。
恐らくは、歪みが原因だろう。
しかし…。
お化けが怖いと言っていたザルツにとって、相当不安要素なのだろう。神馬様を気軽に呼び出した人間とは思えない程不安そうな顔だ。
「落ち着いてくれ。とにかく『違いを見つける』のが脱出のヒントだったはずだ。落ち着いてそれを探そう。」
ここは間違いなくドワーフの首都だ。
しかも、俺の記憶にある姿よりも数年前のモノだ。そこに何らかのヒントがあるはずだ。
まずは、最初にいたレストランに向かう事にした。
お互いの情報を突き合わせて、謎を解こうとしているうちに、少し落ち着いたらしいザルツのお腹が鳴った。
「そうだな。俺たちの時間は動いているからあれから丸一日以上が経った事になる。何か食糧を店から貰って…」
そう言いながら俺は街中に湯気を立てて旨そうな匂いを充満させている串刺しの肉に手を伸びそうとしたら。
ん?
ザルツに腕を掴まれた。
「やめとこう。分からないけど嫌な予感がするんだ。」
こんなに旨そうな匂いなのに…と思いつつも彼の直感だ。従うべきだろう。
ならば…と。
とにかく、最初のレストランへ急いだ。
確か西地区の11番街だったはずだ。
はずだった…。
俺の足がピタッと止まったのをザルツが不思議そうに尋ねた。
「なぁ、行くんじゃないのか?レストランはどこなんだ?」
久しぶりに血の気が引く感覚を感じながら俺は答えた。
「無くなった。いや、正確にはこの先にある。
だが、何故か森になっている…」
森の呑まれようとしている。
足元が突然、消え失せた感覚に身震いが止まらない俺の手のひらに温かさを感じた。
ザルツだ。
かなりぎゅっと手を握っている。
「お、俺たちこのまま…」
言葉に出来ない気持ちが手の震えで伝わってきた。
「大丈夫だ。必ず脱出口はある。まずは街を隈なく調べてどの方向から縮んでいるか調べよう。」そう言ってザルツの目を見据えた。
「ザルツ。焦りは何も産まない。まずは一つづつ調べよう。」
青白い顔のザルツにそう言って微笑んだ。
少しだけザルツの顔色が戻った。
そうだ。
神馬様より授かった力があるのだ。
今こそ…。




