整理整頓は大切!!
謁見…俺には一生縁のない話だと思ったのに、2度目!!
でも、前回と全く違うのは歓迎ムードゼロ。いや、敵対ムード100%だな。
牢屋は、地下深くにあったらしく何と上の階へ行くにはエレベーター。小さな部屋に入れられたら床が光ってドアを開けたら別世界。
煌びやかな長い廊下がチラッと見える。
と、いうのも鎧に武器満載の睨む集団が待ち構えてたから。こりゃ、挟まれたな。
しかも、両方共に殺気立って武器向けてるし。
これはあの人が怒るぞ〜。
「姫様のお通りだと言うに、この有様なのか!!」
やっぱり…。
めっちゃ姫様第1主義のマクガさんの怒り爆発したよ。
おぉ、兵士達は怒声にヒビって震えたよ。
んー、でもこちらに向けた生身に武器は動かさないか。
あれ?微妙に武器を俺狙いに調整したぞ。
1番弱そうなのに、何でだ?!
「其方は阿呆だな。肩に乗っている太郎と次郎を忘れたか?!」
えーーー?太郎と次郎はちゃんと小さくなってるし、群れは『ナン』をやったら帰ったからいないし。ブツブツ言ってたら透明の術を使って背中にへばりつく守護者がため息混じりに『やっぱり阿呆だな』と通常営業。
とは言え、実はそれほど怖くはないんだ。
だってヤークル姫さんがついてるし、静かに兵士達を威圧しているガゼランさんとマクガさんに相手の武器の先がさっきからフルフルしてて気の毒なくらいなんだ。
キョロキョロ前と後ろの兵士を見てたら十戒の様に左右に兵士が分かれて直立不動に整列して道ができた。
コツコツコツ。
めっちゃかっこいい登場をしたのは、ドワーフにしては背の高い男性だ。
真っ直ぐヤークル姫さんの前に歩いてきて、深々とお辞儀をした。
「姫君。魔の森よりの無事のご帰還何よりでございました。父王様、皇后様共にご心痛の程、家臣一同胸を痛めておりました。」
はい!!鈍い俺でも分かったぞ。
コイツは間違いなく嫌味を言ったな。でも、ヤークル姫さんも負けてない。
「出迎えありがとう。出迎えの手違いが少し多かったのは、私の帰りが遅かったせいだと反省していますわ。でも、お陰様で父君と母君の最大なる杞憂をお晴らしする希望の光を手に入れましたの。」
おぉ、普段はラフな口調の姫さんなのにガッツリ嫌味返しが上手い。やっぱり王族ってすごいや。でも、希望の光ってなんだろう?
もしかして、何か魔の森で大発見してのかなぁ。ちょっと俺も見てみたいんだけど。
「その事については報告は受けております。後ほど父王様にお話しください。
さて、我が目に間違いなければそこなる者たちは『人間』ではありますまいか?
しかも,地下牢に魔獣を召喚したと聞きました。その件につきましてこのダスクスにご説明を賜りたく。」
に、睨まられた。
こえーよ。ドワーフって元々眼光鋭いんだから俺みたいな一般庶民にはキツすぎる。
「その事ならば…『待て。』」
お?声が重なったな。
ヤークル姫さんに声を重ねたのは、ダクタスとか言うおっかないドワーフの後ろから現れた顔色の悪いドワーフ。
色黒で顔色とか分かりにくいのに、はっきりドス黒い顔色だと確信するほど酷い。髪の毛もぐちゃぐちゃで服装だって臭いがする。
何日も着替えてないみたいだ。
「殿下!!「お兄様!!」」
お?今回も声が重なったな。
どうやら、目の前の浮浪者の様なドワーフはヤークル姫さんのお兄さんなんだな。
ヤバいよ。
だって、人間に力を貸してくれる王太子がこれじゃ味方がいないじゃん!!
「お兄様、お部屋よりお出ましになられたのですね。どうぞ少しでも良いのであちらでお食事…」「お前、何持ってるんだ?!」
話しかけるヤークル姫さんをガン無視して一直線に俺に近づくちょっと臭いお兄さんは目がトンでるんですけど。ヤバい人だ。
何だろう…正直、心底こえーよ。
目が飛んでるって、こんなに人を怖い物に変えるんだな。
だから。ちょっと近寄らないでよ!!
本能がヤバいと警告する。
逃げなきゃと、思うけど身体が震え出しちゃって固まっちゃうんだよ。
ジリジリと逃げられないまま恐怖に震える俺を気にするはずもないお兄さんが俺の肩を掴もうと両腕を伸ばした瞬間…、
救世主現る!!
「殿下。こちらはヤークル姫様の命の恩人のザルツさんです。どうぞご容赦ください。」
そう言って目の前に立ちはだかってくれたのは、ガゼランさんだ。
ふぅ。怖かった。
安心して前を見たら背は低くても安心感のあるガゼランさんの背中越しにお兄さんと目が合ったよ。
ガゼランさんなんて目に入ってない感じで、その血走った目は相変わらず俺をロックオンしてる。
しかも、。メキメキメキ!!!
嫌な音がして、鉄錆の臭いがする。
『血』だ!!
お兄さん!!何してくれちゃってるんだよ!!
ガゼランの肩を握りしめたお兄さんの手のひらの下から、ダラダラと血が流れている。
まさか。握力でガゼランさんの肩を破壊したのか?
いくらドワーフとは言え、握力で骨が砕けるもんなのか?
恐怖に怯えた俺が目を彷徨わせてマクガさんの方を見れば、姫さんが倒れかかっていた。
あれ?
気がつけば迫力ある嫌味の達人ダスクスさん以外のドワーフ全員が膝をついていた。
「マクガ!!ヤークル姫様をお早くお部屋にお連れ申せ。」ダクタスさんの鋭い声に「御意」と答えたマクガさんが姫様を抱えて走り出したその時。
ドスン!!!
倒れた!!
兵士もゼリア達も全員がその場に倒れてダクタスさんも膝をついて荒い息をしている。ガゼランさんの肩は変形して出血量はかなり激しい。
「太郎!!次郎!!ガゼランさんを助けてあげてくれ!!」
声をかけるけど、反応がない。
あれ?
見れば更に縮まった太郎と次郎が震えていた。
『ザルツ。今、動けるのはお主のみだ。アレで…』
おいおい。守護者までダウンするなよ。
誰も味方のいなくなった俺にあの目の血走ったお兄さんが近づいてくる!!
【ヤモリ】め。俺がお兄さんをどうこう出来る訳がないだろう。どうすれば…。
「うぅぅ…」
ガゼランさん!!
目の前にいた安心の背中はもう無かった。
完全に意識を失ったガゼランさんをお兄さんはぽいっと投げ捨てる様放ったみたいでガゼランさんは廊下に血を流して倒れていた。
ガゼランさんも心配だけど、お兄さんはもう目の前で、しかも俺の足は震えて全く使い物にならない。
そんな間も俺は必死だった。
アレ…って言ってた。なんだろう、アレ。
とにかく【ヤモリ】の言葉だけが今の俺の頼りなんだ。アレ、アレ。。。。!!!
も、もしかして…。
俺は【懐刀】だと思いついて慌てて数珠から取り出し相手に突きつけた!!
はずだった…。
ん?あーーー!!!
失敗作出しちゃったよ。
一番初めに作った、何も切れない不思議な小刀(なんの事はない。単なる失敗作だけど…)
愛着があって、ずっと入れっぱなしだったんだ。
あーー、整理整頓が大切って前世の母親に口うるさく言われたのを思い出して反省したよ。
だから、こっち来ないでー!!
と、言うかちゃんと武器出すまでせめて待ってくれーー!!
「グゥゥ。ゥ…」うめき声がするけど、もうそれどころじゃない。とにかく必死に武器を探していた俺は気づかなかったのだ。
恐怖のお相手が目の前に倒れたのを。
全員が倒れた廊下に一人焦る俺がそれに気づくのはもう少し後。
復活した【ヤモリ】が声をかけるまで整理整頓に明け暮れた俺の周りは、数珠から出した刀類でいっぱいだったのだ。
そして、その事がドワーフの国での俺の立ち位置を決めたと、知るのはかなり後になる。




