ついてない1日(ある兵士の呟き)
*** ある兵士の呟き ***
ついてない…。
今日、当直の全員が同じ気持ちだったと思う。
国境の守護隊の当直は暇で危険のない当直なのでいつも大人気なのだ。それがどうだ!!
目の前にいるのは魔の森に入ったまま行方不明だったヤークル姫様達。
一眼そのお姿が目に入った瞬間、国境の警備員達からのドヨメキが起こったほどだ。
そもそも我々ドワーフと言えど魔の森は『帰らずの森』と呼ばれる禁忌の場所。いくら筆頭護衛騎士のマクガ様の永久騎士のガゼラン様がご一緒とは言え生還は絶望視されていたのだ。
それだけだって衝撃なのに。。
人間がいる。
あり得ない。人族とは関わらない。
それは鉄の掟。。。のはずでは?
「入国する事は叶いません。」
静かに答える隊長は凄い。
だって、姫様の後ろでこちらを睨んでるいるマクガ様の殺気が本気モードだから。
「姫様の申される事に異議を唱えると言うのだな。」
念押しの様な確認は地の底から響く地獄の使者の様で隊長の下半身がガタガタ震えているのは無理はない。後ろに控える我々は全身が震えている。正直逃げたいくらいだ。
この沈黙の地獄の時間から我々を解放したのは宰相閣下の率いる『諜報部隊』の到着だった。全員を地下牢へと移送する…予定だと言う。
本当に上手くいくのか…?
「姫様は父王様がお待ちですので、迎えの馬車にお乗りください。」
「いいえ。ザルツ殿らを地下牢へ収監するならば、私もご一緒します。」
「姫様!!そんな事は許されない事です。」
「ダスクスにヤークルが申したと伝えなさい。其方達の責務ではないと。」
「ガゼラン殿、どうか貴殿からもお口添えを!!」
「姫様同様、我らも地下牢へ参ります。その様にダスクス閣下にお伝え願いたい。」
全く譲り合わない話し合いに、誰もが息すら出来ないまま見守っていた。普段は鉄壁の無表情の諜報部隊にすら動揺が広がっていた。
事態を急変させたのは、この方の一言だった。
『とにかく、全員を地下牢へ連れて行きなさい。責任は私が持ちます。』
諜報部隊の肩口から聞こえた声は確かにダスクス閣下のモノ。謎に包まれた諜報部隊ならではの連絡方法だ。
やがて…。
諜報部隊が全員を連れ去った。
今年一番の災難はこれで終わった。
誰もがそう思ったのに、まさかこれが序章とは。。
***
次の幕開けは、疲労困憊の我々が仮眠をとっていた室に鳴り響いた警報が合図だった。
取り急ぎ飛び出した廊下で充満する異臭は、体験したことの無いモノだ。
「大変だ!!王太子殿下がお出ましになったのだ!!」
先触れの言葉が廊下に響き渡った途端、飛び出した全員が固まる。
王太子殿下。
以前の苦い体験が脳裏に浮かぶ。あの時、何人が犠牲になったか。
辛うじて誰も命までは取られなかったのが唯一の暁光だ。
誰もが敬愛する王太子殿下。
幼き頃より賢王になると期待された王太子殿下は、文武両道でドワーフ始まって以来の逸材だった。更には人柄も良く国民にも絶大な人気を誇っていた。
なのに…。
いつからなのか。
なぜなのか。
我々下っ端には、何も分からない。
ただ、何かに憑かれた様に刀打ちを始めたと聞いた時に全ては手遅れだったそうだ。
『魔剣』だ。
魂を奪われたのだ。
食べる事も寝る事も疎かになり、ひたすら刀打ちをする日々。魔剣の与えるエネルギーが無ければ、一瞬で命すら危うくら会話すら成り立たない。
やがて、人を見れば襲い掛かる様になり最後は魔獣の様に成り果てる。
そう聞いても、最初は信じられなかった。
しかし、仲の良かった同期が素手で足を砕かれて運ばれて始めて恐怖に震えていた。魔獣と対峙しても味わったことの無い恐怖。
大切な王太子殿下が
倒すべき敵になってしまったと。
封印は…?!
どこに現れたのだ?!
疑問は地下牢からの移動部屋の前へたどり着いた時に理解した。
したが…。
コレはどう言う状況なのだ?!
累々と倒れた騎士。その中には、ダスクス閣下まで。
血を流して倒れているガゼラン様のお側には、恐らく数百年見た事のない精霊様か?!
最も驚愕の事実は、王太子殿下まで倒れている事実。
そしてそんな状況にも関わらず
たった一人倒れずに立っているのは
『人族』?!
しかも、彼の周りにある刀らは…いったい。
「あっ、良かったよ。ガゼランさんが怪我してるからビョウインに連れてって。俺『エリクサーA』の手持ちが今ないんだよ。」
この一言で我々の第二騎士団が一斉に動き出した。
ところが…その混乱の中、行方不明者が出たのだ。
王太子殿下とあの『人族』だ。
我々の目の前で、誰にも気づかれず姿を消したのだ。
ついてない1日はまだ終わってなかったのだ。




