ドワーフの姫君は運命と出会う?!
*** ヤークル姫視点 ***
待った無しだった。
次々と襲う魔獣を躱すだけでも命懸けだ。
無論、覚悟はしてきた。
相手は『魔の森』なのだから。
追従してくれた護衛騎士の二人も満身創痍だ。
引くべきなのかもしれぬ。
でも…。
ココにこれしか方法がないのだ。
腹を括ったはずの我々の覚悟など嘲笑うごとく 遂にはこの『魔の森』でもSランク級の魔獣ゼクランの気配が近づいてきた。
「姫様。ココは我らが囮になりますのでお引き下さい!!」
二人の顔を見ながら固く手を握り締めた。
ゼクラン…。
『魔の森』でも最強と言われる竜族系の魔獣の毒は、その吐く息にある。
微かにも浴びれば生き延びる道はない。
「姫様。」
幼き頃より付き従ってくれた護衛の声には、覚悟の滲む厳しさがあった。
逃げるなど出来ない!!
そう言いたいのに、許されないのはココに入った時の約束だからだ。
必ず生きて帰る。その為には。。。
溢れる涙を見られぬ様に俯いたまま。
「其方らに刀神の導きを」
武運を祈る挨拶を贈る。
「ははっ。我が身と刀は一つなり」
覚悟を決めた騎士の返事はいつ聞いても辛い。
特にガゼランとマクガは家族同様なのだ。
駆け出す二人を覚悟を無駄にせぬ為にも、とにかく距離を稼ごうと走り出したその時!!
「「うわぁぁぁぁ。」」
叫び声がした。
まさか…。
瞬殺なのか…。
もう、では私では逃げきれぬな。覚悟を決めるしかない。
兄上、不甲斐ない我が身をお許しください。
心を静めてその場で刀を抜いて迎え撃つ用意をする。無駄でも、一太刀。せめて二人の仇の一つでも!!
そう思って暫し立ち止まっていたが、何の気配もない。
もしや、二人は相打ちにしたのか?!
しかし、たった二人でゼクランを倒せるなど聞いたこともない。
「「一大事でございます!!」」
!!!
思い詰めていたのか気配を読むのが遅れた。
二人が膝を折っていたではないか!!
良かった…無事だった。
心を落ち着ける様にと言い聞かせて二人に声をかけた。
「報告を」と、いつもの様にそう告げたのに返ってきたのは、驚くべき言葉だった。
「聖なる川が発生し、ゼクラン以下魔獣どもが逃げ出しました。そしてその川の上を奇妙な建造物がもの凄いスピードで下ってゆきました。」
はぁ?
あの気高いガゼランの口から世迷いごとが。
「姫君。嘘ではありませぬ。とにかくココは我らを信じて川沿いに進むのが良いかと。」
マクガまで。
「とにかく、急ぎますぞ!!」
迷いながらも二人の背中を追って走り出す。
とにかく、この辺りの毒が弱まったのは理解出来たからだ。
何か…オカシイ。
そう感じたのは私だけではないはず。その証拠に二人の刀に帯びる気が強まる一方なのだから。
激流となっている川沿いを身体強化の魔法を使用しながら下ってゆくと、突然目の前に『湖』が広がった。
まさか。
「そうですね。まさかと思いますが『聖なる湖』で間違いないかと思います。」
伝説化していた。
本当にあったなんて…。
「姫様!!右手300ガルに敵襲」
こちらに向かって魔法を展開する集団を発見した。『魔の森』にいるはずのない人間。
その意味は…。
我々はそれぞれ最大出力で気を展開して
「迎え撃つぞ!!」
そう言って構えたはずだった。
私にとって常識的に進んでいたのはココまで。
「魔人め。ここで会ったが悪運と諦めよ。我ら命尽きるまでお前たちを滅ぼそうぞ!!」
ガゼランの唸り声が合図だった。
一斉攻撃のはずが。
く、くっさぁーーーー!!!!
頭の上から降ってきたナニカは
なんと『肥溜め』だった。
*** ガゼラン視点 ***
姫様の決死のお覚悟に我らも盾となるべく同行を,願い出た。
『魔の森』はやはり手強い。
しかし…その手強さは全く予測していない方向に突然襲ってきた。
『聖なる湖』の発現だ。
あまりの出来事に戸惑う我々の前に現れた魔人達。
闘気を高め構える我々に降り注いだのは、何と…。
『肥溜め』
『聖なる主様』の取りなしがなければ、命尽きるまで戦いを止まなかっただろう。怒髪天の我々に詫びだと差し出されたのは、魔人の一人が突然作り出した風呂だった。
いったい何処から?
空間魔法の名残は感知するも、そんな事は不可能だ。
これほどの大きさなど、聞いた事もない。
信じられぬ心持ちのまま風呂に近づいてまたもや、度肝を抜かれる。
竜牙石が風呂の底にあちこち輝いていたからだ。竜牙石はその名の通り、竜の牙の如くこの世で最も固い鉱石。扱えるドワーフも今ではごく少数なのだ。
それが風呂の底に…。
茫然自失の状態の我々に追い討ちを掛けるように、魔人がばら撒いたモノを目にして姫様が動いた。
盗っ人。
そう呼ばれても欲しい『ソレ』は。。。
運命は舞い降りた。
弱そうなその男こそ、我らの求めるモノだったのだからだ。




