12.ステータス設定:勇者編その2(休憩飯タイム含む)
久々の料理回を挟みます
「ところで、この吟遊詩人関連のスキルは趣味か?」
パラメータを見ながら、ユートはそう言った。
「いや、趣味にしたかった。と言うのが正しいな。
魔王を倒す旅の途中、とある村で一人の吟遊詩人が歌っているのを聞いてな、
明日には死ぬかもしれない緊張した世界で、懸命に、そして楽しそうに歌っている者を見て…私は勇気をもらったんだ。
こういう者たちが、楽しく歌える世界を作ろうと
そうしてこの世の陰りが消えた時は、私も歌を歌ってみたいな、と そう思ったんだ。
それが、私が勇者以外の事を初めて意識した瞬間でもあった。
そう考えると、歌でも踊りでも何でもいいのかもしれないが、やはり最初に心に焼きついた歌にすることにしたんだ。」
そう、願いが叶わぬまま逝ってしまった勇者は答えた。
「…そうか、来世ではその願いが叶うといいな。」
「…ああ。そうであると、私は信じている。」
勇者とユートがしんみりした空気になっているところで、アズモがこう切り出した。
「…歌か、我らの文化にはそのようなものは根付かなかったな。興味が湧いた。我もその吟遊詩人の極意とやら、取得することとしよう。
そしてそちらが作曲を取っているなら、作詞家が必要であろう。
我がこの“作詞家の極意”をとって、お互いの穴を埋め会おう。」
アズモは、エルミナに友として、そう提案した。
「…あー、なんか一緒に行動するの前提で話してんけど、最初に出る場所は違うとこだぞ?」
ユートは、そう言う基本的な部分を説明して居なかったのを思い出し、頭を掻きながらそう言った。
「…そうであったか、だがまああの世界は勝手知ったる我の庭の様なもの、合流なぞ容易い。」
そんな様子のアズモに、ユートは当然の疑問を投げかける。
「600年も経ってりゃ、それなりに国の開発事情も変わるだろうし、合流なんか出来んのか?」
「甘いなユートよ、我らの最期の戦いの地、あそこを目印にすれば良い。
幸い、大賢者の極意とやらがあれば、生まれた時から転移呪文も使えるようだしな。」
そうして、エルミナとアズモのデュオユニット計画は、割と円滑に進むのであった。
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「とりあえず、皆さん来てから何も食べたり飲んだりしてないみたいですし、これは如何ですか?
ちょっと丁度素材が時間冷凍庫にあったので作ってみました!」
そう言いながら、メルが数点の料理を持ってきた。
「もうすっかりコックが板について来たんじゃないか? というか料理出してなかったの今思い出したよ。
あんがとなメル、手伝いに行かんですまんかった。」
「いえいえ!ユートさんは忙しそうでしたから!じゃあ、テーブルに料理並べますね!
そうそう、今回はアグナちゃんも一緒に作ったんですよ!」
「え、あいつ料理できたの!?」
「ユート、随分と失礼な物言いですね。主人と言えど看過出来かねます。
まあいいでしょう。
言って居ませんでしたが、私は火の精霊の娘として生まれました。そして、火の精霊というだけあって火の扱いが得意なんです。
高火力が必要な中華料理なんかは特に得意ですね。 この炒飯を頂いて見てください。」
そう言いながら、アグナが炒飯の皿を五人の前に置いた。
ごま油の香ばしい香りと、卵が絡んで黄金色になっている炒飯は、今日何も食べて居ないユート達に、恐ろしく魅力的に見えた。
口に運んでみると、絶妙な塩胡椒とXO醬の風味が口の中に溢れる。
「え、これ、うまっ!てかめっちゃいい具合にパラッパラだし!こんなん作れるなら早よ言えよ!」
何だかんだとアグナは“極度に酒が入って居なければ”有能なのだった。
「舌が自分の料理に慣れたせいか、ユートの料理の方が美味しく感じたんですよね。
そのおかげで今まで料理するということ自体に気が回らなかっただけです。
この程度で良いなら、酔っ払いながらでも多分作れるので、いつでも言ってください。」
言っても作ってくれるかどうか微妙だな、とユートは思ったが、それは言わないで置いた。
後日談ではあるが、酔っ払った時にアグナに炒飯作ってとユートが頼むと、アグナは「しょうがないなぁ〜〜〜」と言いながら厨房に向かい、これと同じ出来の炒飯と一緒に、これまた絶品な青椒肉絲を作って持ってきた。
ほとんどアグナが自分で食いながら紹興酒を飲んで「やっぱこれにはこれよね〜!」とか言っていたのが玉に瑕であったが。
「あとはアグナちゃんとこんなものも作ってみたんです!」
そう言って、アグナとメルは厨房から、アルミホイルに包まれた何かを持ってきた。
「これはもしや…それにこの匂い!」
ユートと郁也は、アルミホイルの開け方をアズモとエルミナに教えながら、包みを開けた。
中に入って居たのはバターの香りがする鮭と、しめじなどのきのこだった。
「旬の鮭で、ホイル焼きをつくってみました。 と言っても、うちに時間の概念はないので、一番美味しい時期の鮭をユートが取り置いていたのを使わせてもらっただけですが。」
終始どや顔で語るアグナ。
ユートが鮭の切り身を口に運ぶと、これまた絶妙な塩気と、バターの香りが口いっぱいに広がる。
鮭・バター・醤油の味が染み込んだしめじを一口食べると、先ほどの鮭以上の香りと風味が、噛むたびに広がっていった。
「いやーホイル焼き好きなんだよ、しかも超絶うめえ!二人ともすげえな!」
「そうでしょうそうでしょう」
どや顔要員が二人に増えた。
「これからは、アグナも厨房頼んでも良いかもな。肴作るのも得意そうだし。」
ひょっとするとアグナは、これまでの「酔っ払いバカ」な評価を覆したかったのかもしれない。
それが覆ることはアグナが酒を辞めない限り永遠に不可能なのだが。
そんな事をユートはふと思い、彼女らも頑張って貢献しようとしているのだなと、一人で感動していた。
そうして、食事に舌鼓を打ちながら、転生の打ち合わせは進んでいった。
結局、アグナは酒を飲み酔っ払ったことで、今回の行いはチャラになった。
結局本筋進んでねえじゃねえか!




