女性同僚たちの雑談
「もういい加減にさぁ、あの二人くっ付いちゃえばいいと思わない!?」
女性で賑わう街角のカフェの一角に、そんな声が響き渡った。
「分かるぅ~」
「外野の私たちは二人を観察してニヤニヤしてるだけだけどさぁ」
「ロベルトさんのあの熱い目差しに気付かないエレンもエレンよねぇ」
「本当にね。あ、紅茶のおかわりくださーい」
一人の女性が声を上げれば「私も!」と他の女性たちも手を挙げる。彼女たちの呼び掛けにカフェの給仕がやって来ると、空いたカップを慣れた手つきで下げていく。それを見送ってから、女性たちはおしゃべりの続きを始めた。
「エレンったらほんっと鈍いんだから!」
「フリンにもあれだけ好かれてるのに、エレンは良いお友達くらいにしか思ってないでしょ? アレ」
「アレねぇ。ちょっとフリンがかわいそうなくらいよね」
「まぁ、フリンもフリンで、エレンに全っ然意識されてないって分かってるのに、アピールを止めないんだから」
「諦めが悪いというか、めげない男というか」
はぁ、と女性たちが同時に溜息をついた時、紅茶のおかわりが運ばれてきた。彼女たちは新しいお茶の到着にサッと表情を切り替える。
「ここの紅茶、本当に美味しいわよね!」
「ホントホント。さすが、エレンおすすめのカフェだわ!」
「元公爵令嬢は伊達じゃないわよね。でも、そのわりには舌が肥えすぎてるってわけでもないのよねぇ」
「そこ、不思議よね。あの子むしろ、なんでも美味しい美味しいって食べるから、味音痴なんじゃないかって疑ったもの」
「エレンが言うには『味の許容範囲が広い』ってやつらしいけど」
そんな会話を交わしながら二杯目の紅茶も飲み干した彼女たちは、次は甘い物でも頼もうかとメニューを開く。その時、窓の向こうに見知った二人組が並んで歩いていることに気が付いた。
「あら、『勇者一行』じゃないの!」
「本当ね」
「んん? カイさんがこっち見てる?」
「どうしたのかしら?」
「あっ、入ってくるみたいよ!」
女性たちの姿に気が付いた『勇者』カイが、相棒であるロベルトの手を引いて入店する。そして女性らの近くの席に腰掛けると、「なあなあ」と人懐っこい笑みを浮かべながら彼女たちにこう尋ねた。
「今日は金獅子亭は休みなのか? 定休日でもないだろ?」
久し振りにアレスに戻ってきたから、食事は金獅子亭で摂ろうと思ったのに。
そんなことを言いながら、カイはわざとらしくふくれっ面をする。その表情がどこか可愛らしく、彼は本当に『勇者』なのかと女性たちが思うのも仕方のないことだった。
そんなカイに対し、相変わらず仏頂面のロベルトはというと、女性たちをさっと見回して少しだけ肩を落とす。その様を、女性たちは見逃さなかった。
「ごめんなさいね、今日はエレンは一緒じゃないの。王城に呼ばれちゃってね」
「それでデイヴさんも一緒に行っちゃったから、金獅子亭は臨時休業なのよ」
「そうそう、エレンが王城に行くってなったから、私たちで着付けたのよ!」
「やっぱり元貴族なだけはあるわ。とっても綺麗だったわよ」
「ロベルトさんにも見せてあげたかったわ~」
突然投げかけられた言葉が予想外だったのだろう、ロベルトはあからさまに狼狽える。
そんな彼の様子を、女性たちだけでなくカイまでもがニヤニヤとした生温かい目で見ているものだから、ロベルトは「うぐっ」と言葉を詰まらせるしかできないでいた。
やがて居心地が悪くなったのだろう、ロベルトは「先に拠点に戻る」とカイに一言だけ告げ、「これで何か好きなものを頼むと良い」と少なくないお金をテーブルに置いて足早に去っていった。
そんな彼の後ろ姿を見届けた女性たちは、お互いに顔を見合わせるとニンマリと笑う。そして、カイにこんな話を振った。
「ねえねえ、カイさんも思わない? いい加減にエレンとロベルトさんの二人、早くくっ付いちゃえって!」
その言葉にカイはしばし思案顔をして、ふむ、と頷いた。
「分かる」




