表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/46

第25話 自警団テスト

 あー、よく寝た。


 アリドは背伸びをした。 部屋の中はカーテンを閉めているので真っ暗である。 さて、どれ位眠ったのだろう。 リトがいきなりやってきたので、ついつい誰かに話したくてウズウズしていた変化鳥の子供を奪回した冒険話をとくとくと聞かせて(リトは喜んで聞いていた)リトが帰った後は数日寝ていなかったこともあって、ベットにバタン、である。


 そーいや、変化鳥のヤツ、どこに行ったのかな?


 アリドは体を起こすと目をこらした。 アリドは母親の胎内で生を受けたとき、本当は三つ子になる予定だったらしいがどういう訳か腕だけ残して後はアリドが吸収してしまったらしく、おかげで何でも「3人力」である。 目もよく利く。

 部屋の隅の帽子掛けの付近に変化鳥の姿が見えた。


「ハラ、減ってねぇか?」


 アリドはそう言って腕を一本のばした。

 部屋の中で空気の固まりが動き、それがアリドの腕に止まって、アリドの腕がほんの少し重みで下がる。

 クルルル、と鳩のような声で変化鳥は応える。


「何か、メシ、食いに行くか?」


 アリドが尋ねるとクルルル、と再び応える。

 アリドは一言二言、変化鳥に呟くとおもむろに立ち上がりカーテンを開けた。


「うわ」 


 アリドはそう言って目をしかめる。 朝日が眩しい。


「朝かよ」 


 ブツブツいいながらアリドは窓を開けて腕を差し出す。 腕が僅かに上に上がる。 変化鳥が飛び立ったようだった。

 アリドは変化鳥が南の森の方向に飛び去るのを見送ると窓から身を乗り出して町を眺めた。 風に乗ってきた焼きたてのパンの香りが鼻孔をくすぐる。 ズボンのポケットに手を入れる。 金貨が3枚、入っていた。 変化鳥との冒険の時に得た宝物の一部だった。 アリドは金貨を再びポケットに無造作に入れると部屋を出ようとして、テーブルの上に置いてある小箱に気が付いた。

 これって、何だったっけ?と、アリドは箱を手に取る。 緑色の花の模様が彫られた素朴な感じの小箱。 正直、アリドの趣味じゃない。 記憶の糸をたどりながらアリドは小箱をそっと開ける。


 ぽ、ぽろ、ロロロン……


 するとリズムの狂った音楽が流れ始めた。


「壊れてんじゃん…。 あ」


 一瞬、捨てようかと放り投げそうになり、アリドの別の手が慌てて押さえる。


「リトのだったか」


 自分の冒険話を語るのが楽しくて楽しくて殆どうろ覚えだったのだが、そういえばリトがこれを修理したいと言っていたのをなんとか思い出す。

 こんなヘンな機械系は東の雑貨店の二代目息子が詳しくて修理が得意なんだよな。 あ、そっか、そこで修理を頼んでやるよって約束したんだった。

 と、アリドは次々に思い出す。

 正直、面倒だとアリドは思った。 しかし放っておく訳にもいかない。


「…ま、金もあるしね」


 アリドは箱を手に、ホテルを出た。





 その日、白の館では午前中の授業が無い日だったので、リトはゆっくりと過ごしていた。

 教官が何かの式典に出席しなければならないとかで臨時休講だったのだ。


「ねぇ、リト、一緒に教会の掃除を手伝ってくれない?」


 ルティが部屋の中を覗いて言った。


「オッケー。 いいよ」


 リトは快く返事をすると読みかけの本を閉じて部屋を出る。

 教会に向かう途中、向こうから弓達がやってくるのが見えた。

 陽炎隊と巳白も一緒だったので少し目立つ。 巳白も一緒に歩いて来ていたがその雪のように白い大きな羽がいやがおうにも皆の視線を集めていた。 

 リトとルティは立ち止まって彼等が来るのを待った。 一番最初に巳白が気づいて弓に耳打ちする。 弓はリト達に気づくと小走りに駆け寄ってきた。


「おはよう。 リト、ルティ」

「おはよう、弓」

「おはよう。 今日は何事?」


 リトは聞いた。 みんな揃ってここに来るなんて、何か理由がなければないと思ったからだ。

 リトは少し嬉しそうに、でも少しどこか緊張した面持ちで言った。


「今日は陽炎隊の自警団ランク判定の日なの」

「ランク判定?」


 リトは訳が分からずくり返した。


「ああ、ランク判定ね」


 ルティは納得したように頷いた。

 リトはルティの顔を見る。


「何のことは無いよ。 ほら、何にでも見習いとか達人とかあるでしょ? それと同じ。 自警団もその強さや貢献度によって階級がつけられるの」

「そういう事。 羽織様達はまだ申請して間もなかったからクラス外だったんだけど、今日、審査を受けて、それが通れば「E」クラス入りするの」

「へぇ……。 ねぇ、それって、試験とかするの?」」


 リトの問いに弓はちらりと来意を見る。 どうやら弓もよく知らないらしい。


「まぁ、Eランクだから。 登録している事……名前とか性別とか、に間違いが無いか、必要最低限の読み書きは出来ているか、体力はあるか、特技の披露などをちょっとやるだけだよ」


 来意が説明した後、世尊が付け加えた。


「蛇足だけど、Eランク入りした後は、手柄を立てるとか大会で優勝するとか色んな実績でランクがE、D、C、B、A、Sと上がっていくんだぜ。 最高ランクはSSA」


 人間なんかがぼくらをランク分けしても大して意味無いけどね、と清流が殆ど誰にも聞かれない位の大きさで呟いた。 すぐ隣にいた巳白だけが眉をひそめた。


「巳白と弓は、俺たちのことが心配だからって来てくれた」


 羽織が巳白達を見て笑って言った。 


「子供じゃないから来なくていいって言ったんだけど……あ」


 弓が少し寂しそうに羽織を見る。

 弓の顔が少し曇ると羽織は慌てた。 


「一夢さんも新世さんも、生きてたら来ると思ったんだもん……」


 少し恨めしそうに弓が言うと羽織は手のひらを返して


「いや、来てくれて嫌じゃないよ? ホント。 全然。 めっちゃ嬉しい。 余裕で審査受けられるし。 な、なぁ、みんな?」


 他の三人に振る。


「いや、僕たちは、来なくていいとか一言も言ってないよ」

「兄さんと弓が来てくれたのは素直に嬉しい」

「義軍も来てくれてるし。 お兄ちゃんは百人力だぜ」


 三人は神妙な顔つきでそう答え、ついでに世尊の後ろに隠れていた義軍までが座った目つきで言う。


「羽織にいちゃんって、いじわる。 あーあ、弓ちゃん、かわいそー」

「ぎ、義軍ー」


 羽織が困り果てた顔をする。

 寂しそうな顔をしていた弓がこらえきれなくなって、ククッと笑った。 同時に来意達もハハハ、と笑い出した。 リトたちも笑った。


「ほら、馬鹿ばっかやってねぇで、行け、お前達」


 巳白が羽織達の背中をつつく。


「よっしゃ」


 と、羽織。


「行きますか」


 と来意。 


「兄さん、行ってきます」

「お兄ちゃんは行ってくるぜ」


 ……これは誰か述べるまでもない。

 弓と巳白、義軍が並んで見送る。 リトとルティも見送った。


「あぁ、実は嫌ーな予感がするんだよね」


 来意がぽつりと言った。 「縁起でも無いこというなよ」と羽織達から文句を言われる。


「なんだかんだ言ってあいつら緊張してやがる」


 巳白が言った。


「あの子たちでも緊張するんですねぇ」


 リトの隣でラムールが言った。


……え?


「ラムール様っ??」


 リトより早くルティが叫んだ。


「おはよう。 ルティ」 


 ラムールは相変わらず極上の笑顔で挨拶をした。

 ラムールは珍しく礼服を着ている。 礼服だ、とリトが呟いた。


「一応、今日は保護者として……」


 ラムールが照れくさそうにタイを触った。


「保護者って、陽炎隊のですか?」


 リトが尋ねる。


「他にいません。 私もこれで結構、緊張しているのですよ。 私が審査を受けるのなら全然平気なのですけど、あの子たちでしょう? 上手くやれるのでしょうか。 いえ、大丈夫とは思ってるんですけど」


 ラムールにしては珍しくそわそわしている。


「ラムール様、それが保護者というものですわ」


 ルティが頷く。


「そんなものですか?」


 ラムールは確かに不安そうだ。


「ラムール様ね、昨日の夜も陽炎の館に来て激励してくれたのよ」


 弓がこっそりリトに教える。


――激励、か。


 こんなにそわそわしているラムールを見ていても分かる。 確かにラムールは陽炎隊を、みんなを大事に思っている。 それはとてもいいことだと思う。 しかし――アリドが除籍処分になった翌日の――

 

『私もほとほと愛想が尽きたのですよ』

 あの時、アリドに見せた態度。

 見限った、冷たい、態度。

 少し、リトはラムールが嫌いになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ