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姿

 結論を言うとほとんどいらなかった。地図。


 いや、『リゼ』が先導しているし。しかも嬉々として。今までの落ち着いた雰囲気は嘘のようで目は子供の様にきらきら輝いている。


 かくれんぼじゃないし。


 誰も知らない隠された道やらトラップがあるとか教えられても――今後使う事が無いんだけどどうすればとは言えず私は『そうなんだ』と笑顔を顔に張り付けたままついていった。


 『リゼ』曰く神官は夜眠らないといけない戒律があるかしい。そしてもう一人――エリカレスだけれどリゼが眠らせていると言っていた。正確にどうやったのかは知らないがとても好都合だ。


 なら、隠れなくてもいいのではと思ったが言わないことにした。


 こつこつと再び階段を降りていく。


 開けたその部屋を見てみれば昼間とは別の世界が広がっている様に思えた。蛍のような灯が揺れながら空間に浮遊し、きらきらと水面を輝かせている。中心にあるガラス玉はなぜか内部から青い光を放っているようにみえ、その中には相変わらず人のシルエットがあった。


「アザレア――」


 駆けよれば、まるで光が集まる様にして人の姿がガラスの前に形成される。私が知っているアザレアそのままの姿に。


 ただ、ゆっくりと瞼を開けた少年は笑ってはくれなかったけれど。彼は驚いた様に私を見、リゼに目を向けた。


「マリア――どうして? 何でまだここに? リゼどうして――?」


「我がままですよ。最後の」

「……最後って」


 訝し気に言うアザレアにニコリと微笑むリゼ。それは母親が向ける眼差しの様にも見える。優しくて柔らかい。そんな視線。


「最後くらいは何とかしようと思ったら何とかできるものなんですね。自分の身体。今頃胸から血を流して寝てると思います。 まぁ、そんなに持たないけど――ざまぁみろって言うんですか?」


「リゼ」


 さぁっと光が少年へと纏いすぐに青年の姿を形成する。整った顔立ち。金色の目と髪。どこまでも美しく派手な青年は捨てられた子犬のような顔でリゼの前に立った。


 すっと手を延ばそうとして諦める。それを見たリゼはクスリと笑みを落として見せた。


「私は幸せです。こうして『わがまま』を果たせたんですから」


「逝くな、とは言えないのか?」


 軽く頭を振る。


「マキナ――ありがとう」


「……リゼ」


 とさっ。軽い音がして『クア』の身体は人形の様に地面へと崩れ落ちた。どうやら眠っているようだ。すうすうと軽い寝息。アザレアはクアを抱きかかえると、何の力か宙に浮かせる。そのままクアの身体も消失するようにして空間から消え去って行った。


 そのままぺたんと座り込むアザレアの大きな背中は小さく見えて。私は子供の頃からアザレアがそうしてくれるように背中から抱きしめる。


「アザレア」


「リゼ――は僕の……」


「うん――大切な人だよね。今でも愛してるんだね」


 言っていて何となく遠まわしに嫌な感情が浮かんだのは気のせいだろう。それを見ないようにしてアザレアの柔らかい髪を撫でた。慰めるようにして。


「マリア。僕が怖くないの?」


「何で?」


 言われた意味が分からなくて首を傾げるとアザレアは私から離れて困った顔をして見つめ返してきた。


「大人だから――嫌なら子供でいる。また子供らしい感情も作って見せる」

 あれは作ってたらしいが――殆ど素のような気がする。性格そのままだ。何を思って『おおきくなりたい』と真剣に言っていたのか分からないが。


 私は苦笑を浮かべる。


「いや、そこじゃないでしょ? 不思議な力を使ったり、古来から生きてたりと言うところじゃないの?」


「マリアはそんな事では嫌わないから」


「……」


 何と言う自信だろう。まっすぐに私を見つめる金の目。まるで心まで絡みとるようだった。ドクンと心臓が鳴るのを感じて私は慌てて目を反らすが頬が赤くなるのは止められていなかった。


 それがまた恥ずかしい。私は慌てて声を上げる。


「い、いやいや、それだったら――」


 アザレアは視線を落とした。


「一度だけ。一度だけ、僕はもとに戻ったことがあったんだ。そしたらマリア逃げ出して――森の中に。大けがを負って……死んじゃうかと思った」


 足に追った怪我の事だろうけれど、その前後を私はよく覚えていない。でも――大人が怖かったのはある。


 目の前で小さくなった肩を再び正面から抱きしめればその肩が小さく一度震えた。


「大丈夫だ。嫌いになったりしないよ。それがアザレアなんだろ? あたしは大好きだ」


「――」


 今度はアザレアの頬が染まる番のようだ。大きな瞳をぱちぱちさせた後で俯く青年は何となく――言ったら悪いかもしれないが少女のようで可愛らしい。しかしながら恨めし気に私を見上げた。


「きっと、きっと僕の『好き』とマリアの『好き』は違うんだよね?」


 ――分からない。大体、アザレアはどうして私を好きになったりしたんだろう。助けたのはきっと気まぐれなのに。それにリゼの事を好きだったんじゃないのだろうか。


 私はごまかすようにしてすっとアザレアから離れる。それは何となく寂しいと思ったのが不思議だった。


 背中からため息が大きく聞こえてくる。


「あ。いや。ええと――そんなことをしている場合じゃなかった。せっかくリゼが時間を稼いでくれたんだ。ゆ、有効に使わないと。帰るだろう? 家へ」


 振り向くとアザレアがゆっくり立ち上がるのが見えた。


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