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乾坤一擲パイルバンカー♂  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】英雄の卵編
12/43

12:調査依頼

『良かったのか?』


 夕食の後、フィオニーやエリザと別れてから宿の部屋に戻ったラスティスに、エルヴィは開口一番にそう問い掛けた。

 何についての話かを触れていないが、彼女が尋ねたいことはラスティスにもよく分かっている。

 あの二人から持ち掛けられた依頼への協力を引き受けたことについてだ。


 フィオニーやエリザからの、調査依頼に協力してほしいという頼みに、ラスティスはその場で諾と返した。

 二人はその答えを聞いて喜び、四人は明日の朝に街の入口で待ち合わせることを約束して解散した。


 エルヴィが気にしているのは、今のラスティスがまともに戦えるのかという懸念である。

 パイルバンカーによって齎されるデメリットは依然として健在であり、サブウェポンとして剣を購入したとはいえ右利きの彼は未だ左手でそれを使いこなせる状態ではない。

 魔物が一匹であればパイルバンカーによる強力な一撃でどうとでも乗り切れるだろうが、複数に襲われた場合はかなり危険な状態に陥ってしまうだろう。

 彼女自身が原因を担っているため、尚更気に掛かったのだ。


「言いたいことは分かるさ。

 一発しか撃てないパイルバンカーと、左手で使いこなせていない剣だと危ないって言うんだろう?」

『そうだ。まだ万全な状態とは言えない筈だ。

 それはぬしも十分分かっているだろうに』

「それを言われると、苦しいな。

 ただ、鍛錬で剣を幾ら振り続けたって成長には限界があるんだ。

 やっぱり実戦で使わないと、いつまで経っても実際の戦闘で使えるようにはならない」

『む……』


 そう言われてしまうと、エルヴィも納得せざるを得ない。

 基礎鍛錬が重要であることは間違いないが、素振りだけやっていても技術は向上しないだろう。

 実戦が最も成長出来る場であることについて二人の認識は一致していた。


「そう考えると、フィオニーやエリザからの頼みは俺にとっても都合がいい。

 一人で戦うよりはパーティを組んだ方が、安全だしな」


 ラスティスの言う通り、ソロで活動している場合、パイルバンカーの一発しか撃てないという特徴は致命的だ。

 敵が複数居たら、逃げるしかない。

 しかし、こちらもパーティを組んで相手を分担出来るのであれば話も変わってくる。


『……そうか、一応色々考えてはいたのだな。

 色香に迷って後先考えずに引き受けていたなら、

 蹴り飛ばして目を覚まさせてやろうかと思ったが』


 片目を瞑ったエルヴィが冗談めかしてそう言うと、ラスティスも笑みを浮かべて返してくる。


「ハハッ。まぁ可愛い女の子にいい顔したいって気持ちも全くないわけではないけどな」

『それでこそ英雄とも言える気がするがな。

 分かった。これ以上は何も言うまい』


 そう言いながらも、エルヴィは嫌な予感が振り払えずにいたが、努めてそれをラスティスに見せないよう笑顔で誤魔化すのだった。




 ♂  ♂  ♂




 翌日、旅支度を整えたラスティスとエルヴィは街の正門へと向かった。

 と言っても、日帰りの予定であるためそこまで重装備ではないし、エルヴィに至ってはワンピースにブーツといういつもと変わらない状態だ。


「おはようございます。

 ラスティスさん、エルヴィさん」

「おはようございます……って、エルヴィさん。

 その格好で行くつもりなんですか?」


 二人が門のところまで行くと、既にフィオニーとエリザは先に来て待っていたらしく、ラスティス達に気付いて声を上げてきた。


「ああ、おはよう。二人とも」

『うむ、おはよう。

 勿論、この格好のまま行くつもりだ。

 我は人間ではないから、別にこのままで何も問題ない』

「ならいいんですけど……」


 剣や鎧で武装した集団の中で、一人だけ深窓の令嬢のようなワンピース姿。

 傍から見た時の違和感が凄まじいが、そこまできっぱりと言い切られてしまうと最早どうにもならない。

 フィオニーは敢えて気にしないようにしつつ、気持ちを切り換えるために頭を二度三度振った。


「それじゃ、そろそろ行こうか。

 俺は目的地が分からないから、案内は任せて良いか?」

「はい、任せてください!」


 いつまでも門のところで話していても仕方ないため、四人は街を出て目的地に向かって歩き始めた。

 先頭がフィオニー、二番目にラスティス、三番目がエリザ、最後尾にエルヴィという並び順だ。

 前衛二人に後衛一人、サポーターが一人とバランスの取れたパーティとなっている。


 街を出て暫く歩いてきた頃、ラスティスが先頭を歩くフィオニーへと話し掛けた。


「それで、一体どの辺りに向かっているんだ?」

「えーと、丁度この前私達がラスティスさんに助けて貰った森です」


 チラリと横目でラスティスを見ながら答えるフィオニーに、彼は数日前のことを思い出す。

 確かに、あの森から街まで歩いてきた道を今は逆に進んでいることに気付く。


「ああ、あの野盗達が居た場所か……。

 もしかして、俺に協力を求めてきたのもそのせいか?」

「……ええ、それを期待する気持ちもありました。

 あいつらはラスティスさんに怯えて逃げてったから、

 たとえ近くに居ても貴方が一緒なら向こうから接触を避けるんじゃないかって」


 先日フィオニー達が野盗に襲われた辺りということは、下手をすると現在も野盗達がその近辺をうろついている恐れもあるということだ。

 しかし、パイルバンカーの威力に怯えて逃げた彼らは、ラスティスが居れば警戒して襲っては来ないだろう。

 フィオニーやエリザは魅力的な獲物に映るだろうが、命の危険を冒してまで狙ってくるとは考え難い。

 危うく酷い目に遭い掛けた彼女達としては、それに対する対策を講じるのも無理はない。


「まぁ、向こうから避けてくれるならそれに越したことは無いな」


 打算的な考えが裏にあったことを多少後ろめたく思ったのか俯きながら答えたフィオニーだが、ラスティスの方は特段気にした様子は見せなかった。

 その様子に、フィオニーはホッと胸を撫で下ろす。

 彼女としては、ラスティスに嫌われるようなことは避けたかったため、正直に白状しながらも内心では心配で心臓が早鐘を打っていたのだ。


『ところで、依頼は魔物が増えていることの調査だったな。

 しかし、具体的に何を調査するのだ?』


 ラスティスとフィオニーが話しているのを見て、後ろにいたエルヴィやエリザも会話に参加し始める。

 エルヴィの問い掛けには、エリザが答えた。


「増えているといっても、単純に数が増えているという感じではないのです。

 これまであの森には居なかった種類の魔物が出没するようになっているらしく……」

「実を言うと、この依頼がギルドから来たのも、私達が先日の時に森で普段見掛けない魔物を目撃したことをギルドに報告したのが発端なんです」


 エリザの回答に、フィオニーが補足を被せる。


 先日の一件の時にフィオニーとエリザが受けていたのは魔物の討伐依頼だった。

 その時の討伐対象は元々森に棲息している魔物であって依頼自体には何らおかしなことはなかったのだが、森の中へと足を踏み入れた彼女達は見慣れぬ魔物が複数出没しているところを目撃した。

 本来であれば依頼の達成のついでにその見慣れぬ魔物の内の何匹かを討伐して証拠を持ち帰れれば良かったのだが、野盗に襲われたためにそれが果たせなかった。

 それでも口頭だけでも報告しておいた方が良いとして報告した結果、改めて証拠を持ち帰るために今回の依頼がギルドより彼女達に下りてきたのだ。


 二人が話したそれらの経緯を聞いて二人のラスティスとエルヴィは成程と頷き、依頼の内容を推測した。


「なるほど。だとすると……」

『普段居ないような魔物を見付け、可能であれば討伐して証拠を持ち帰るということか』

「はい、その通りです」

「私達はよく依頼であの森に行ってますから、見慣れない魔物が居れば分かります。

 お二人は兎に角襲ってくる魔物と野盗への警戒に専念してください」

「ああ、分かった」


 やがて、一向は先日も訪れた森へと辿り着き、その中へと足を踏み入れていく。

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